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スーパーコンピュータ「富岳」とAI活用により高解像度でリアルタイムな津波浸水予測を実現

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市街地に浸水する津波を数秒で詳細に予測し、より安全な避難行動を支援

2021-02-16 東北大学災害科学国際研究所,東京大学地震研究所,株式会社富士通研究所

国立大学法人東北大学災害科学国際研究所(注1)、国立大学法人東京大学地震研究所(注2)、株式会社富士通研究所(注3)は、国立研究開発法人理化学研究所(注4)と富士通株式会社(注5)で共同開発したスーパーコンピュータ「富岳」を活用して、沿岸域の津波浸水を高解像度かつリアルタイムに予測するAIモデルの構築に成功しました。

世界最高の計算速度を誇るスーパーコンピュータ「富岳」により多数の高解像度津波シミュレーションを実施し、そこから得られた沖合での津波波形と沿岸域の浸水状況を教師データとして、今回新たなAIモデルを構築しました。構築したAIモデルに、地震発生時に沖合で観測される津波波形を入力することで、津波到達前に沿岸域の浸水状況を3m単位の高い空間解像度で予測することが可能となります。これにより、臨海都市域での建物や構造物、道路などの社会インフラの影響を取り入れた、局所的な津波の高まりなど、区画ごとの詳細な浸水予測情報を把握でき、より適切な避難行動を支援できます。また、「富岳」を用いて事前に学習したAIモデルは、一般的なパソコン上でも数秒で実行することが可能なため、これまでスーパーコンピュータが必要だったリアルタイム浸水予測システムの構築が大幅に容易になります。

図1 AIによる津波予測のイメージ図図1 AIによる津波予測のイメージ図

背景と課題

東日本大震災では、巨大津波により甚大な被害が生じ、効率的な避難に向けた情報の取得や活用の観点で、多くの課題が残されました。その一つである津波予測技術においては、適切な避難行動による被害軽減に向けて、より正確で詳細な予測情報を迅速に獲得する技術の開発が急務となっています。そのため、東日本大震災以降、日本近海における津波観測網の増強が進められ、沖合でのリアルタイム津波観測データを活用した沿岸域における高精度な津波予測の技術開発が活発に進められています。

これまでの津波予測では、事前にシミュレーションによって準備したデータベースの中から、観測と比較して地震や津波の発生状況が最も類似するデータを選択して沿岸の津波を予測する方式や、沖合での津波観測と整合するように沿岸での津波予測を徐々に調整する手法が主に用いられてきました。いずれも浸水予測のためには、発災時に大規模なスーパーコンピュータを用いたシミュレーション計算やデータベース検索が必要となるため、予測システムの構築や運用が困難であるという課題がありました。

今回の取組みと開発した技術

3者は、一般財団法人高度情報科学技術研究機構が公募する令和2年度「富岳」試行的利用課題(注6)で採択された研究課題「エクサスケールAIによる想定外のない津波予測(注7)」において「富岳」の共用前評価環境を活用し、高解像度な津波浸水を瞬時に予測するAI技術を共同で開発しました。開発した技術の特長は以下の通りです。

今回、「富岳」の高速性を活用することで、3m単位の高解像度シミュレーションに基づき、2万件の想定津波シナリオに対する教師データを生成しました。さらに、この2万件のデータを学習することで、地震発生時に沖合で観測される津波波形情報から陸域の浸水状況を3m単位の高解像度で予測できるAIモデルの構築を実現しました。

教師データの生成において、3m単位の高解像度で津波の浸水をシミュレーションすることで、臨海都市域での建物や構造物、道路などの社会インフラの影響を取り入れ、局所的な津波の高まりを含めた浸水状況を高精度に予測することが可能になりました。また、AIモデルでは、沖合で観測した津波波形から陸域の浸水状況を粗い解像度で概算するAIと、概算した浸水状況を高解像度化するAIの2段階構成を持つ、ディープラーニング技術を拡張した新たなAI技術を開発し、「富岳」での学習向けに計算性能の最適化を行いました。通常、シミュレーションに適した計算機とAIに適した計算機は異なりますが、今回、シミュレーションとAIの双方に性能を発揮できる「富岳」の特長(注8)を生かし、生成した教師データを「富岳」上でそのままAI学習に利用することで、高精度津波予測に向けたAIの構築効率を格段に高めました。

本技術を南海トラフ沿いで想定される巨大地震による東京湾内の津波浸水予測に適用したところ、内閣府が想定した津波波源モデル(注9)など、多様な津波シナリオに対して、一般的なパソコンを用いて数秒で、高精度な予測が可能であることが確認できました(図2)(図3)。

「富岳」の大規模性や高速性を今後さらに活用し、更なる多様な津波シナリオの学習を進めることで、想定外のない津波予測や、より広範囲の津波浸水予測に向けたAI構築が可能となります。

図2 南海トラフ巨大地震の浸水想定(波源モデルは内閣府による)と開発したAIによる予測結果との比較
図2 南海トラフ巨大地震の浸水想定(波源モデルは内閣府による)と開発したAIによる予測結果との比較

図3 南海トラフ巨大地震の浸水想定(内閣府による波源モデルの波高を3倍にしたケース)と開発したAIによる予測結果との比較
図3 南海トラフ巨大地震の浸水想定(内閣府による波源モデルの波高を3倍にしたケース)と開発したAIによる予測結果との比較

今後

今後、3者は、本技術の実用化に向け、AI技術の拡張や予測精度の評価を進め、国内外での津波防災対策に貢献します。

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

注釈

注1
国立大学法人東北大学災害科学国際研究所:
所在地 宮城県仙台市、所長 今村 文彦。

注2
国立大学法人東京大学地震研究所:
所在地 東京都文京区、所長 佐竹 健治。

注3
株式会社富士通研究所:
本社 神奈川県川崎市、代表取締役社長 原 裕貴。

注4
国立研究開発法人理化学研究所:
本部 埼玉県和光市、理事長 松本 紘。

注5
富士通株式会社:
本社 東京都港区、代表取締役社長 時田 隆仁。

注6
令和2年度「富岳」試行的利用課題:
「富岳」の共用開始に向け、システム調整段階における試行的利用として、利用者拡大を促進する観点から、一般ユーザの利用を対象として実施された公募。

注7
研究課題「エクサスケールAIによる想定外のない津波予測」:
「富岳」を活用することで、事前にあらゆる津波シナリオを学習したAIを構築し、教師データにない津波に対する過小評価など、予測における想定外の回避を目指した研究課題。令和2年度「富岳」試行的利用課題として採択(課題番号: hp200201)。

注8
シミュレーションとAIの双方に性能を発揮できる「富岳」の特長:
「富岳」には、シミュレーションを高速化する「FUJITSU Software Technical Computing Suite」や、AIの学習を可能にする各種のAIフレームワークとCPU上でのAI学習を高速化する「oneAPI Deep Neural Network Library (OneDNN)」などのAI用ライブラリが最適化され実装されている。

注9
内閣府が想定した津波波源モデル:
「内閣府 南海トラフの巨大地震モデル検討会」が公開するデータを利用。

本件に関するお問い合わせ

株式会社富士通研究所
人工知能研究所

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