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河川を基軸とした生態系ネットワーク保全手法の調査研究

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A study on river-based conservation methods for ecosystem networks

リバーフロント研究所報告 第 31 号 2020 年 9 月

自然環境グループ 研 究 員 内藤 太輔
自然環境グループ 研 究 員 中野 喜央
主席研究員 宮本 健也

1. はじめに
河川環境の保全にあたっては、「河川法改正 20 年多自然川づくり推進委員会 提言」(H29.6)で評価手法を具体化することの必要性が挙げられている。また、「実践的な河川環境の評価・改善の手引き(案)」(H31.3)では、河川環境を縦断方向に 1 ㎞ピッチで分割し、12 項目の物理環境要因で点数化することで、定
量的に評価する手法が提示されている。
一方、河川環境の保全、再生にあたり、生態系ネットワークの観点を導入する試みが全国的に広がっており、自然再生計画などにおいても、河川だけでなく流域も視野に入れた検討が求められている。
GIS データの充実、解析技術の向上、生息適地モデルと呼ばれる統計モデルの開発を背景に、近年では、生物調査の情報がない範囲でも物理環境から生息環境としてのポテンシャルを予測・評価できるようになってきている。さらに、これらの予測結果を生息環境ポテンシャルマップとして可視化し、説明資料などで利用することで、科学的根拠に基づく合意形成に役立つことが期待できる 1)。
本研究では、マガンを対象に、生態系ネットワーク形成を進める観点から、生息環境ポテンシャルの予測・評価結果の具体的な活用方法について検討した。

2. 生息環境ポテンシャルの活用検討
2-1 生息環境ポテンシャルマップ
生息環境ポテンシャルとは、対象とする生物の生息環境の場としての適性を分布確率などで定量的に表現したもので、複数の環境要因の複合的な影響によって決まる。例えば、マガンの採餌環境(水田)の適性は、ねぐらからの距離が近いほど高いが、周囲の水田面積の大きさや住宅からの距離によっても変化する。
生息適地モデルは一般的に、対象とする生物の生息分布に関するデータ(在・不在データなど)と複数の環境要因との関係性を統計的に解析することにより、生息環境ポテンシャルを予測する手法で、モデルの種類によっては、同時に各環境要因の重要度(生息適地の適性に対する寄与度)を定量的に算出することが可能である。また、モデルを用いずに各環境要因を一定のルールで点数化し、合算した値を生息環境ポテンシ
ャルとする簡易な手法もある 2)。
生息環境ポテンシャルマップは、これらの手法で箇所ごとに求められた生息環境ポテンシャルの分布を地図化したものである。

2-2 指標種の妥当性の確認
生態系ネットワーク形成の取組みでは、指標種を設定して、その生息環境の保全・再生を目標とするケースが多い 3)。対象地域・流域において、指標種の生息適地がどの程度あるのかを把握することは、指標種の妥当性の判断や、取組みの目標設定をするうえで有効と考えられることから、生息環境ポテンシャルマップ
が活用できる。
特にコウノトリやトキのように、対象地域・流域において、現状では、定着していない種を指標種の候補とする場合には、設定にあたり、生息環境ポテンシャルマップを用いて十分な生息適地があることを確認することが必要と考えられる。

2-3 優先対策・保全箇所の検討での活用
斐伊川自然再生計画案では、マガンやコハクチョウなど大型水鳥の主にねぐら(開放水面)としての河川環境を水面幅、河川植生、ねぐらとしての利用実績などから区間ごとに評価したうえで、保全、あるいは高水敷掘削による湿地環境の再生など再生区間を設定している 4)。
一方、過年度に試作した生息環境ポテンシャルマップでは、流域におけるマガンの採餌環境(水田)を評価しており、斐伊川本川の周辺では、下流に向かうほど生息環境ポテンシャルが高くなる傾向が示された 2)。
流域スケールでのマガンの生態系ネットワークは、ねぐらと採餌環境の空間的な配置によって形成されており、この二つの環境の距離が短いほど移動によるエネルギー消費が少なくてすむことから、マガンにとって好適な環境といえる。
このことから、マガンを対象としたねぐら環境の保全、再生を目的とした場合には、周辺の採餌環境のポテンシャルが高い下流側の区間で、より高い効果が期待できる。(図-1)
このように、流域環境を評価することで、河川の優先対策・保全箇所の設定についても検討材料を提供できる一例を示すことができた。

河川を基軸とした生態系ネットワーク保全手法の調査研究

図-1 生息環境ポテンシャルマップの例(斐伊川流
域のマガンの採餌環境_水田)
※現況保全区間、再生(整備適正)区間については、斐伊川自然再生計画案 4)の図表 4-1-3 を基に作成。流域環境の評価を加味すると3つの再生区間では、最下流の区間 2 の効果がより高いと考えられた。

2-4 具体的な対策の検討での活用
過年度の検討では、生息適地モデル(MaxEnt)を使って、斐伊川下流部でのマガンの採餌環境を評価した。このモデルでは、表-1に示す 5 つの説明変数(環境要因)が選択されたが、重要度が支配的であった TWI
(地形湿潤指標)とよばれる地形的な要因で決まる指数をはじめ、選択された他の環境要因も整備する(例えば新たな水田の開発など)には、社会的なハードルが高いと考えられた。
そこで、マガンの採餌環境としての水田の質に着目した。マガンの餌となる落ちもみや二番穂は、秋耕起しない水田で多いことが知られている 5)。また、マガンはねぐらに近い採餌環境から採餌をはじめることが報告されていることから 6)、生息環境ポテンシャルが高く、ねぐらに近い範囲で秋耕起しない水田の割合を維持、あるいは多くしていくことでマガンの採餌環境の質を保全、改善できる可能性が考えられた。この場合、秋耕起の有無で水田を区別した生息環境ポテンシャルマップを作成することで、対象規模や具体的な個所が明示でき、より具体的な対策の検討ができる。

3. おわりに
本研究では、過年度に生息適地モデル(MaxEnt)を使って試作した生息環境ポテンシャルの具体的な活用方法について検討し、①生息環境ポテンシャルマップを活用した指標種の妥当性の確認、②流域環境の評価も踏まえた保全、優先対策箇所の検討、③生息環境を構成する環境要因に応じた具体的な対策の検討、を提案した。
生息環境ポテンシャルマップによる可視化だけでなく、環境要因を明らかにすることでも、具体的な対策の検討につなげることができる。

表-1 マガンの採餌環境の環境要因の重要度

※地形湿潤指標(TopographicWetnessIndex;TWI)の計算式は ln(α/tanβ)で、αは該当地点の等高線長あたりの寄与集水面積、βは該当地点の傾斜角を表す。湿潤条件になりやすいほど TWI 値は大きくなる 7) 。

<参考文献>
1) 前田義志他:生物生息適地モデルと相補性解析による河川における環境保全優先箇所の選定,土木技術資料,58(4),pp.36-41,2016
2) 内藤太輔他:河川生態系ネットワーク保全手法の調査研究,リバーフロント研究所報告第 30 号,pp.65-72,2019
3) 岩井聖:河川を基軸とした生態系ネットワークの形成に向けた取組,河川,No.869,pp.6-10,2018
4) 中国地方整備局出雲河川事務所:斐伊川自然再生計画(案),斐伊川水系 生態系ネットワークによる大型水鳥類と共に生きる流域づくり検討協議会第 6回 生息環境づくり部会 配布資料,2019
5) 水谷瑞希:坂井平野におけるマガン,ヒシクイの飛来数と採餌場所の分布,福井県自然保護センター研究報告 12,pp.1-13,2007
6) 嶋田哲郎:伊豆沼・内沼周辺地域で越冬するマガンの個体数増加にともなう採食地利用パターンの変化,日本鳥類学会誌 57(2),pp.122-132,2008
7) Beven, K. J. and Kirkby, M.J.: A physically-based variable contributing area model of basin hydrology, Hydrol. Sci. Bull, 24,1979

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0904河川砂防及び海岸海洋0911建設環境
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