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AI を活用した緑視率の計測技術の開発

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国総研レポート2020(研究期間 : 平成 30 年度~令和 2 年度)
国土技術政策総合研究所 都市研究部 都市開発研究室
主任研究官 大橋 征幹
室長(博士(都市・地域計画)) 石井 儀光
都市計画研究室  室長(博士(工学)) 勝又 済

(キーワード) 都市,緑視率,人工知能

1.緑地等による都市環境改善効果の定量的評価手法に関する研究
国総研では、緑の定量的な計測・評価手法を開発し、緑地等の多面的な機能を効果的に発揮させ計画的に活用するための技術的知見を整備することを目指し、「緑地等による都市環境改善効果の定量的評価手法に関する研究」1)を実施している。
ここでは、この研究の中で開発を進めているAIを利用した緑視率の計測技術について紹介する。

2.AIによる緑視率調査の高度化
本研究では、緑視率調査手順のうち、画像から緑部分を抽出する過程をAI(人工知能)の画像認識技術を利用して自動化することにより、調査の省力化や低コスト化を図る。さらにこれをスマートフォンのアプリとして実装することにより、地方公共団体と住民等が協働して緑視率調査を実施する仕組みなど、民間の緑化意識を向上させ、民有地緑化の普及啓発を促す手法について検討を行っている。

3.ディープラーニングによる画像認識の活用
2010年代の初めの頃、ディープラーニング(深層学習)によって従来のニューラルネットワークの限界がブレイクスルーされたことにより、AIの研究は大きく前進した。ディープラーニングによる画像認識に、セマンティックセグメンテーションがある。これは、例えば自動車に搭載されたカメラで撮影された市街地画像を、建物や自動車、空、舗装などのクラスごとの領域の輪郭を捉えて分類することが出来る技術である(図-1)。ここで分類されるクラスは、学習に用いられる教師データによって決まる。現在、より高性能なニューラルネットワークモデルの開発を推進する目的で、AIの研究のための多くの学習用データセットが公開されている。
市街地画像を対象とした学習用データセットには、クラス分類の1つとして植生に関するクラスが含まれていることが多く、これを用いて学習を行ったAIモデルにより、画像から樹木や芝生などの緑を抽出することが可能になる。本研究では、まず、ケンブリッジ大学が開発、公開しているAIモデルSegNet2)とデータセットCamVid3)を用いて植生抽出用のAIモデルを作成し、緑視率(1枚の写真に占める緑の割合)を算出して従来の調査方法と比較し、その有効性を確認した4)5)。さらに、より高度なニューラルネットワークモデルやデータセットで学習させたAIモデルを用いることにより、植生の抽出精度を高められることを確認した。一方で、AIの研究用に公開されているデータセットではうまく抽出できない樹木もあることがわかってきた。この原因は、過学習など学習のさせ方の問題もあるが、利用した海外の市街地画像データセットに含まれている樹木の種類による影響が大きいと考えられた。AIの認識精度を高めるためには、AIの学習に用いる教師データの内容が目的と一致していることが重要である。

図-1 セマンティックセグメンテーション

緑視率調査に適した学習を行うためには、これまでの緑視率調査で撮影された市街地写真をAIの学習に用いることが有効であると考え、本研究では、今後地方公共団体の協力を得て、日本の市街地画像を用いたAIの学習を進めていくこととした。

4.スマートフォンアプリの開発
スマートフォンは、多くの人が携帯し都市のあらゆるところに存在する多様なセンサとして、都市センシングの可能性を広げている。また、最近のスマートフォンのSoC(System on a Chip)には、写真や音声アシスタント機能のためのAI用チップが組み込まれているためAIの処理能力が高い。本研究では、それらの特長に着目し、学習済のAIモデルを組み込んだスマートフォンアプリを試作した(写真-1)。

 

写真-1 スマートフォンアプリ

図-2 スマートフォンアプリによる緑視率の計測例

スマートフォンをかざすだけでいつでもどこでも簡単に緑視率を計測できる(図-2)。緑の状況が数値化されることで、緑量のわずかな違いが見える化される。例えば、このスマートフォンアプリを使って車の助手席から前方を連続的に見ていると、手持ちの不安定な計測であっても、通りによって道路沿いの街路樹による緑視率の値の変化の幅に違いがあることに気づくことができる(図-3)。

図-3 通りによる緑視率の違い

5.今後の緑視率調査への活用に向けて
緑視率調査を行う場合は、写真の撮り方など、緑視率の定義を明確にした上で調査を行う必要がある。今後、スマートフォンの特性を考慮した計測方法やその緑視率に対応した緑視環境の評価法を開発すると同時に、住民協働の調査など緑化の普及啓発に向けた検討もあわせて進めていく予定である(図-4)。

図-4 住民協働による緑視率調査のイメージ

なお、緑視率調査用のスマートフォンアプリについては、2020年度に公開を予定している。

☞詳細情報はこちら
1) 国総研記者発表資料 平成30年度国総研予算概算要求について pp.6
http://www.nilim.go.jp/lab/bcg/kisya/journal/kisya20170829.pdf
2) Segnet http://mi.eng.cam.ac.uk/projects/segnet/
3) CamVid http://mi.eng.cam.ac.uk/research/projects/VideoRec/CamVid
4) 日本建築学会2019年度大会学術講演梗概集環境工学Ⅰpp.739-740 DVD-ROM
5) 令和元年度 環境研究機関研究交流セミナー ポスター要旨集 pp.27-28
http://kankyorenrakukai.org/seminar_01/pdf/yousisyu.pdf

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