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既存住宅の住まいながら液状化対策工法

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住みながら宅地境界を地盤改良壁で囲む液状化対策工法

2021-01-15  国土技術研究センター
建設マネジメント技術 2021 年 1 月号
第 22 回 国土技術開発賞 最優秀賞受賞

〔受 賞 者〕 株式会社竹中土木/ケミカルグラウト株式会社
〔本稿執筆者〕 株式会社竹中土木 平井卓,小西一生
ケミカルグラウト株式会社 土屋勉

1. はじめに

平成 23 年 3 月に発生した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)では,埋立地などでの液状化現象発生に伴い,道路,河川堤防,港湾施設,ライフラインとともに,写真- 1 のように住宅地にも大きな被害が生じた。液状化被害を被った住宅地では,住宅の傾きや沈下,電柱の沈下,マンホールの浮き上がり,下水管の損傷や破壊,おびただしい噴砂の堆積発生等により,多くの住民が居住困難や生活困難に陥った。その後,応急復旧が懸命に行われたが,今後発生が懸念される首都直下型地震などに対して,恒久的な液状化対策を住民や自治体から強く要望された。
しかし,表- 1 に示す従来の液状化対策工法のほとんどは,締固め(サンドコンパクションパイル)工法や深層混合処理工法など大型の三点式重機により広い更地を対策するものであり,住宅の密集した宅地では施工不可能と考えられた。また,地下水位低下工法や恒久グラウトによる対策は,住宅地でも施工可能であるが,液状化被害の多い堆積地盤や埋立地では粘性土層がある場合が多く,圧密沈下や硬化不良の発生が懸念されるために適用できない場合が多いと考えられた。
そこで,住民が安心して居住した状態でも,住宅に近接しての施工が可能で,かつ粘性土層などの地盤性状によらず対策効果が恒久的に期待できる工法の開発に着手した。

表- 1 従来の液状化対策工法


写真- 1 住宅地の液状化被害

2. 技術概要

密集した宅地で液状化対策を行うためには,宅地境界や道路などのわずかなオープンスペースで施工可能な方法を選定せざるを得ない。そこで,図- 1 のように道路を含む宅地境界を地盤改良壁で囲むことで,格子状地盤改良工法のように液状化対策ができないかと考えた。
しかし,従来の格子状地盤改良工法は格子の間隔が狭いため,区画の大きい宅地を囲む場合には効果を期待することが困難であるとともに,狭い宅地境界で施工可能な機械も存在しなかった。従って,考案した対策を実現するためには,以下に述べるように,宅地の区画でも液状化対策を可能とする新しい設計評価手法と,狭所に対応した小型施工機械の開発が必要であった。

⑴ 設計評価手法の開発
従来の格子状地盤改良に対する設計法においては,液状化層全層にわたって液状化が発生しないように設計されていた。これは,従来の対象物が橋梁や堤防などの大型土木構造物や大型建築物であったため,支持力への液状化による影響範囲が大きかったことによると考えられる。
一方,これらに比べ軽量で小型の住宅を対象とした対策においては,図- 2 のように,非液状化層厚 5 m 以上で地表面沈下量 Dcy が 5 cm 以下であれば液状化被害が発生する可能性が低くなることを,液状化被害の分析から国土交通省が指針として示している 1)。
そこで,住宅地の液状化対策を行うことにより,地表面沈下量 Dcy を 5 cm 以下,かつ非液状化範囲が地表面より 5 m 以上とすることを設計目標とした。宅地を地盤改良壁で囲むことで地盤は立体的に拘束されて,地震時に発生するせん断ひずみが減少し,液状化の発生が防止される。この効果を,図- 2 に従って判定するためには,地盤改良壁による 3 次元的な拘束効果を適切に評価することが必要となる。しかし,3 次元解析は複雑であるとともに,地表面沈下の評価精度については実績がほとんどない状況であった。
一方,2 次元等価線形 FEM 解析は,遠心載荷実験結果との整合性が確認されており,地表面沈下量 Dcy を評価するのに適していると考えられた。そこで,2 次元解析によって,地盤改良の 3次元的な効果を評価可能な「疑似 3 次元解析法」を用いて行うこととした 2)。
この解析法は,図- 3 のように振動方向の地盤改良壁による面内抵抗領域と直交する地盤改良壁の面外抵抗領域および改良壁に囲まれる地盤を,節点を共有する並列の 2 次元 FEM 要素とするものである。
このようにモデル化することで,地盤改良壁で囲まれた宅地の地表面沈下,非液状化範囲と地盤改良壁に発生する応力を同時に評価することが可能となる。このような解析の一例を図- 4 に示す。
設計は,図- 5 のフローに示すように設定した格子間隔と改良深度において,地表面からの非液状化深度と宅地の地表面沈下が,図- 2 の設計目標に収まることを疑似 3 次元解析法により確認した後で,地盤改良体に作用する応力が許容値に収まるように実施することとした。


図- 1 宅地境界を地盤改良壁で囲む工法


図- 2 住宅の液状化被害可能性判定(国土交通省指針の図に加筆)


図- 3 疑似 3 次元解析法


図- 4 擬似 3 次元解析事例


図- 5 設計のフロー

⑵ 小型施工機械の開発
① 宅地内での施工機械
宅地内での施工においては,住宅の最小壁間隔80 cm での施工が必要であった。地盤改良の直径は最小でも 100 cm 必要であるため,機械攪拌方式では攪拌翼を挿入することが不可能であり,高圧噴射攪拌方式を用いる必要があった。
しかし,従来の機械は写真- 2(a)のように大きく施工不可能であったため,写真- 2(b)に示す超小型の高圧噴射攪拌式「エコタイト工法」を新しく開発した。機械を超小型化するために,噴射装置の管径を従来の 90 mm から 61 mm にする必要があったが,圧力損失が大きくなるため,管路内部の平滑化が必要であった。また,噴射装置やロッドの細径化,および機械重量の軽量化に伴い機械振動が生じやすく精度への影響が懸念されたため,写真- 3 のような剛性の高いガイドレール上に機械を固定する方式として精度確保を可能とした。
また,ガイドレールと専用揚重装置により機材の運搬を容易に行えるよう工夫した。さらに,宅地内を排泥で汚さないために,図- 6 のようなクローズドシステムを開発し,エアリフトと配管を用いて排泥を宅地外のタンクへ直送するようにした。

写真- 2 超小型高圧噴射式「エコタイト工法」


写真- 3 ガイドレールと揚重装置

② 道路での施工機械
宅地に隣接する幅 6 m 程度の狭い道路においても施工可能で,かつ高圧噴射攪拌方式よりも施工速度が速く,排泥量も少ない写真- 4 のような小型機械攪拌式「スマートコラム工法」を新しく開発した。
この機械は,従来の三点式機械攪拌工法施工機械に比べて,占有面積が 30%以下と小型軽量であり,狭い街路での施工に適している。しかし,軽量であることと攪拌翼の回転軸であるロッドの径が細いことから,施工精度の確保が課題であった。そこで,攪拌翼の供回り防止装置に図- 7 に示すようなスタビライザーを取り付け,大型施工機に匹敵する 1/200 以下の鉛直精度を確保できるようにした。


写真- 4 スマートコラム工法


図- 6 クローズドシステムによる排泥


図- 7 特殊攪拌翼の構造

3. 実工事への適用

前述のような技術が,学識経験者と住民等で構成された浦安市市街地液状化対策検討委員会で採用され,浦安市東野 3 丁目地区の 2 街区の液状化対策工事で実用化に至った。図- 8 に,地盤改良概略配置を示す。
当初,全てを円形断面の高圧噴射攪拌工法のみで施工することを考えていたが,前述した機械攪拌式「スマートコラム工法」や埋設管横断箇所で図- 9 に示す矩形の高圧噴射攪拌工法を併用することで,工期を 22%,工費を 28%縮減することができ,街路と宅地の一体的液状化対策を住民が居住した状態で無事完了することができた。


図- 8 地盤改良の概略配置図


図- 9 矩形高圧噴射攪拌工法

4. おわりに

本技術の適用により,住宅に居住しながら宅地の液状化対策を無事完了することができた。今後,液状化が懸念される宅地に本技術が広く展開され,住民の安全・安心につながるよう,さらなるコストダウン,効率化に向けて技術開発を進める所存である。
最後に,多大なご指導とご協力をいただいた浦安市,株式会社竹中工務店をはじめ多くの関係者の皆さまに厚く御礼申し上げます。

【参考文献】
1) 宅地の液状化被害可能性判定に係る技術指針,国土交通省,2013.
2) 高橋,森川,津國,吉田,深田:液状化対策としての格子状固化処理工法の改良深さ低減に関する研究,港湾空港技術研究所,港湾空港技術研究所報告第 51巻第 2 号,2012.

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0901土質及び基礎92建築
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