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ダムの長寿命化を支える 健全度診断・モニタリング 技術の開発

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(研究期間 : 平成 29 年度~)
国総研 河川研究部 大規模河川構造物研究室
主任研究官(博士(工学)) 小堀 俊秀
研究官 石川 亮太郎
研究官 武川 晋也
室長(博士(工学)) 金銅 将史

(キーワード) ダム,維持管理,点検,非破壊試験

1.はじめに
ダムが長期にわたりその機能を確実に果たしていくには、その状態を良好に保つための各種点検等が極めて重要となる。このため、巡視と計測による日常点検、地震時等の臨時点検、第3者による定期検査からなる安全管理のための点検等のほか、最近では長寿命化を目的として、より詳細な状態把握を行って健全度評価や今後の維持管理方針作成を行う「ダム総合点検」も行われるようになっている。
このような詳細点検では、ダムの状態調査や長期挙動の分析をできるだけ客観的に行える診断技術の開発・普及が欠かせない。国総研でこれまで取組んできた衛星SARを活用した変位モニタリング技術の開発や振動モニタリングの活用に向けた研究もこの一環であり、現場では各種測定機器にドローンや水中ロボット技術を組合せた効率的な状態把握の試みも近年急速に進みつつある。しかしながら、ダムの内部状態を効率的な把握に有効な技術は十分でない。現状では調査ボーリング等による確認が行われることもあるが、堤体内部での変状範囲の把握や高所作業の困難さ、調査費用の面等で課題が多い。そこで本稿では、特にダムの内部状態の把握を目的とした
非破壊調査手法に関する研究について紹介する。

2.ダム堤体の非破壊検査技術の開発
コンクリートダム堤体表面にひび割れ等の変状が認められた場合、その堤体安定性への影響の評価が必要となる。このような場合、実施箇所が限られるボーリング調査を補完し、堤体内部での分布等を把握できる有効な非破壊手法の確立が望まれる。
現在、コンクリート構造物内部のひび割れ探知に実績のある非破壊手法は限られているが、その一つに高周波衝撃弾性波法がある。これは構造物表面をハンマー打撃して弾性波を発生させ、内部の不連続面等からの反射波や伝搬速度を計測して位置を特定する技術で、コンクリート杭等で実績があるほか、一部コンクリートダム堤体安定上重要な水平打継面の状態把握への適用も試みられている。そこで、本手法のダムへの適用性を把握するため、分離面を有する大型コンクリート供試体及び実際のダム堤体を対象に、その位置の特定や状態評価がどの程度可能か計測試験を実施した。その結果、供試体では既知の分離面の有無と反射波の有無が対応する結果が得られ、現地試験においても、ボーリングによるひび割れ位置と概ね対応する計測結果が得られることがわかった(図-1)。ただし、供試体での分離面状態(接触面積比)と反射波振幅の関係のばらつきが見られ、現地試験で一部ひび割れ位置以外からの反射波も検出された。このような結果をもとに、今後本技術の活用法や留意点をまとめる予定である。

 

図-1 高周波衝撃弾性波法によるコンクリートダム堤体のひび割れ調査

なお、国内外とも実績に乏しいこのようなマスコンクリート内部の変状検出に有効な非破壊技術について、一層の開発を進めるため、国総研ではより専門的で高度な知見を有する大学等との連携(国交省による河川砂防技術研究開発制度を活用した委託研究)による技術開発も同時に進めている(表-1)。

表-1 研究開発内容と研究機関

 

このうち研究①(表-1)では、大規模構造物であるダムでも透過力が期待出来る低周波弾性波を利用することで、到達時間の遅延や減衰などから堤体内のひび割れ検出が可能か検討を進めている(図-2)。

 

図-2 低周波弾性波によるひび割れ推定(監査廊内-表面間の観測波形とその遅延)

研究②(表-1)では、幅広い周波数帯での弾性波観測が可能なセンサや弾性波トモグラフィ技術(図-3)を用いてひび割れ等の内部変状の検出技術の開発を進めており、堤体内での微小な弾性波であるAE(Acoustic Emission)も活用した状態監視法の開発を目指している。

 

図-3 弾性波トモグラフィによるひび割れ深さ推定(ボーリング調査結果と出力結果の比較)

研究③(表-1)では、堤体内ひび割れの検出に弾性波を用いる場合の各種分析法(図-4)の適用性等について、UAVを利用した赤外線や可視画像での表面状態調査との組合せも視野に検討を進めている。各研究とも弾性波の計測からボーリング調査でのひび割れと概ね整合する推定結果が得られており、引続き実用化に向け研究を進める予定である。

 

図-4 弾性波での堤体内部ひび割れの探査(表面波探査の実施状況)

このほか国総研では、フィルダムを対象とした非破壊調査技術として電気探査技術に注目し、大規模
地震時等にひび割れが生じた際、その深さを迅速に把握するための探査用注入材料の研究も進めている。これまでの屋外実験では、市販の自己充填材に電解質(塩化カルシウム水溶液)を混合した材料を用いれば、堤体材料との比抵抗差によりひび割れの検出が可能となり、また、ひび割れへの充填性が高く周辺に浸透しにくいことでひび割れ深さが比較的良好に再現できる結果が得られている(図-5)。

 

図-5 電気探査によるひび割れ検出例(盛土地盤)

3.今後の展望
本稿で紹介した各種調査技術は、引続きダムでの適用方法や留意点等について検討を進め、既往の各種調査・診断技術とともに、現場での点検等に活用できる技術資料等にまとめていきたいと考えている。

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0904河川砂防及び海岸海洋
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