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中小河川の水害リスク情報空白域の解消に向けて

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(研究期間 : 平成 29 年度~)
国総研 河川研究部 水害研究室
研究官 向田 清峻
室長 板垣 修

(キーワード) 中小河川,水害リスク情報,浸水想定図,航空レーザ測量

1.はじめに
2017年7月の九州北部豪雨、2018年7月の西日本豪雨、2019年10月の台風第19号など、激甚な洪水災害が各地で発生している。気候変動影響が指摘される大規模豪雨・洪水が頻発し治水施設の設計規模を上回る洪水が続発しており、治水施設の整備を促進するとともに、氾濫時の被害防止・軽減対策を促進するための浸水想定図等の水害リスク情報の社会での共有が一層重要となっている。
住民に水害リスク情報を周知する重要なツールの1つとして自治体発行のハザードマップがあるが、同マップに記載される水害リスク情報には国や都道府県が作成した洪水浸水想定区域図等が用いられている。この洪水浸水想定区域図については、実洪水時の浸水範囲と一致していたと報道されるなど、社会的な重要性がますます増している。

2.中小河川の水害リスク情報空白域
洪水浸水想定区域の指定は、水防法に基づき一部の河川(洪水予報河川・水位周知河川)において河川管理者に義務づけられており、2,063河川(2019年10月時点速報値)で指定されている。
しかし、総延長約11万kmにものぼる都道府県管理河川の多くは、上記河川への指定が行われておらず、したがって洪水浸水想定区域図作成の義務がない。上記指定が行われていない河川を以下「その他河川」と呼ぶ。その他河川沿い(洪水リスク情報空白域)は、本来水害リスクが高い場所でも「洪水に対して安全な場所」と誤解され避難所や避難路が設定される可能性があり、リスク周知のための情報の提供が極めて重要である。2019年10月の台風第19号においてもその他河川の洪水リスク情報空白域で激甚な洪水被害が発生している(図-1、表)。
なお、その他河川で浸水想定図等の水害リスク情報が提供されていない主な理由としては、対象河川の延長が膨大な中で、浸水想定を行う際に必要な河川の縦横断面データの取得等が予算・人員の制約の中で困難であることが挙げられる。

3.リスク情報空白域解消に向けた取組み
上述の制約を踏まえ、水害研究室では水害リスク情報空白域を解消することを最優先とし、LP(航空レーザ測量)データに基づく河川の縦横断形状を用いた簡易的な水害リスク情報作成手法1)を開発し、現場実装に向けた下記研究・検討支援を行っている。

図-1 洪水浸水想定区域外浸水事例(2019年台風第19号)
(左:浸水推定段彩図(国土地理院)、右:洪水浸水想定区域図(仙台河川国道事務所)に加筆
赤×印は静岡大学牛山教授資料に基づく人的被害発生位置) ※国土交通省水管理・国土保全局資料3)より

表 2019年台風第19号による決壊河川数一覧
※国土交通省水管理・国土保全局資料3)より

① 自治体における避難計画検討での活用
その他河川沿いのリスク情報空白域における避難計画検討を支援するため、内閣府、国土交通省水管理・国土保全局河川環境課水防企画室、県、市・村等と連携し、2市村のモデル河川において簡易的な浸水想定図(図-2)を試作し、自治体における避難計画検討を支援している。
同図の作成に当たっては、昨年度まで水害研究室で試作してきた複数規模の洪水ごとの想定浸水範囲の重ね合わせ図よりも、想定最大規模の洪水における想定浸水深分布図が欲しいとの意見を踏まえ、図-2のとおり試作している。
さらに、住民を含む現地での会合に参加し住民・自治体担当者等と意見交換を行っている。浸水実績や現場の状況等を踏まえた浸水しやすい場所のイメージと簡易的な浸水想定図がおおよそ合っているとの声があり、その他河川のリスク情報空白域での避難計画検討における同図の活用が一定程度有効であるとの手答えを得ている。

図-2 簡易的な浸水想定図(想定最大規模:試作版)

② 中小河川の水害リスク評価に関する技術検討会
その他河川のリスク情報空白域解消に向け、LPデータを活用した簡易的な浸水想定手法等の技術的な検討を行い「手引き」2)を拡充することを目的に「中小河川の水害リスク評価に関する技術検討会」3)(座長:池内幸司東京大学大学院教授)が国土交通省水管理・国土保全局により設置された。2020年1月7日に開催された第1回検討会では簡易化する際の計算条件等について議論が行われ、計算精度やバックウォーター等の現象の評価が重要という学識者委員からの意見が出されるとともに、その他河川の浸水想定図を提供することに対する世間のニーズが高いとの自治体委員からの意見等が出された。2020年6月を目途に手引きを拡充すべく、引き続き検討が進められる予定である。

4.研究の展望
中小河川沿いのリスク情報空白域解消に向けた簡易的な浸水想定図の作成・公表を都道府県と調整しつつ順次進めていくとともに、同図の防災・都市計画分野での具体的活用方法などについて引き続き研究していく予定である。

☞詳細情報はこちら
1)航空レーザ測量データを活用した中小河川における簡易的な水害リスク情報作成手法の提案,河川技術論文集,第25巻,pp.31-36,2019年6月
2)国土交通省水管理・国土保全局河川環境課水防企画室・国総研河川研究部水害研究室:中小河川における簡易的な水害リスク情報作成の手引き,
http://www.mlit.go.jp/river/shishin_guideline/pdf/chushou_kaninarisuku_tebiki.pdf,2018年12月
3)中小河川の水害リスク評価に関する技術検討会,

,2020年1月

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