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危機管理型ハード対策の 改良に向けて~越水発生 箇所調査の重要性~

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国総研レポート 2020(研究期間:令和元年度)
国土技術政策総合研究所 河川研究部 河川研究室
室長(博士(工学))福島 雅紀 研究官 笹岡 信吾 交流研究員 森本 洋一
交流研究員 田中 秀岳

(キーワード) 河川堤防、侵食、引張り破壊試験、ウォータークッション

1.はじめに
河川堤防の設計においては越水時の外力を想定していないが、平成27年関東・東北豪雨によって引き起こされた鬼怒川堤防の決壊を受けて、越水が生じた場合でも決壊までの時間を少しでも引き延ばすように、堤防天端の舗装や裏法尻補強など、堤防構造を工夫する「危機管理型ハード対策」を推進してきた。このような背景を踏まえ、国総研河川研究室では、河川堤防の被災調査を継続的に実施し、知見の蓄積に努めてきた。
平成28年北海道・東北豪雨では、常呂川左岸22.6kpにおいて、越流水深0.3mの越水が約4時間継続したが、堤防は決壊せず裏法の侵食に留まった。これは越水が発生した際、堤内地側が湛水していたこと、植生の根毛量が多かったことや堤体土の引張り破壊応力も大きく、耐侵食性が高かったことなどが長時間の越水でも決壊に至らなかった要因と推定されている1)。平成30年西日本豪雨で決壊した小田川と高馬川の合流点では、本川と支川からの越水が集中し、裏法や裏法尻の侵食を助長したと推定されている2)。令和元年に発生した台風19号では、各所で越水が生じ、国管理河川で12箇所、県管理河川で128箇所の合わせて140箇所で越水による堤防決壊が発生し、越水対策の重要性が再認識されるものとなった。
本稿では、被災時に国総研河川研究室で行う越水発生箇所の河川堤防調査の事例(令和元年8月の前線に伴う大雨で越水が生じた六角川水系牛津川及び松浦川水系松浦川の事例)をもとに、危機管理型ハード対策の改良と充実に向けた、越水発生箇所調査の重要性を述べる。

2.牛津川及び松浦川における越水の状況
令和元年8月の前線に伴う大雨は、九州北部地方を中心に総降水量が600ミリを超えるなど記録的であった。牛津川及び松浦川では河道満杯状態で流れる区間が広範囲で確認され、各箇所で越水が発生した。CCTV画像や巡視時写真等によって越水の状況を確認できた牛津川12.2kp付近左岸及び松浦川付近31.1kp右岸を中心に現地調査を実施した。両箇所とも決壊には至らず、裏法や法尻の侵食に留まっていた。
牛津川左岸12.2kp付近のCCTV画像によると、越水が生じた際に堤内地は1m程度湛水しており、越流時間は1時間程度であった(写真-1)。また、裏法面には高さ1m程度の植生があり、それが越流水によって法尻に向かって倒れ、法面を覆っていた(写真-2)。
車両搭載型レーザ測量機器により取得された3次元点群データを用いて堤防天端高を確認し、CCTV画像と照らし合わせ、越流幅と越流水深を推定すると、それぞれ、越流幅が約120m、越流水深は平均で0.11mとなった。同区間では階段工周辺が侵食され、裏込め土の洗い出しも見られたが、植生で覆われた法面では変状をほとんど確認することはできなかった。松浦川右岸31.1kp付近の近隣住民や巡視員からの聞き取りによると、越水時に堤内地は1.5m程度湛水しており越流時間は1時間程度であった。また、洪水痕跡から、越流水深は0.1m~0.2m程度であったと推定された。川裏法面に背丈の高い植生はなく、植生の隙間から土羽が見える状態であった。越水によって法面や法尻の一部で軽微な侵食が確認された。

写真-1 牛津川左岸12.2kp付近の堤内地湛水状況

写真-2 牛津川左岸12.2kp付近の植生倒伏状況

3.堤体土の耐侵食性評価
牛津川及び松浦川では、堤体土の耐侵食性を評価するために、引張り破壊試験を実施し、侵食限界流速を推定した。侵食限界流速とは越水時に法面の侵食が始まる目安となる流速であり、宇多ら4)の提案した図-1(引張り破壊試験結果から算定した引張り破壊応力と侵食限界流速の関係)により推定することができる。試験結果図-1に合わせて示すと、引張り破壊応力は、牛津川左岸12.2kp付近で5.5gf/cm2、松浦川右岸31.1kp付近で47.6gf/cm2となり、侵食限界流速はそれぞれ2.2m/s、6.1m/sと推定された。松浦川堤防の侵食限界流速は、牛津川堤防のそれに比べて約3倍大きいが、牛津川12.2kp付近の堤体には礫が混在しており、礫の存在によって引張り破壊が生じやすくなったと考えられた。
調査箇所の堤防形状と前項で推定した越流水深から、川裏法面に作用した流速を等流流速として算出し(表-2)、侵食限界流速と比較し堤体土の耐侵食性を評価した。牛津川左岸12.2kp付近では等流流速2.3m/sと算定され、侵食限界流速と同程度の値であった。この結果は、局所的に越水が集中する箇所や土の締固めが難しい階段工周辺で侵食が発生したこととも整合する。松浦川右岸31.1kp 付近では等流流速が2.2~3.3m/sとなり、侵食限界流速を下回り、川裏で大きな変状がなかったことと整合した。

図-1 引張り破壊試験から得た侵食限界流速

表-2 引張り破壊応力と侵食限界流速

4.おわりに
越水が生じたものの、軽微な侵食被害に留まった牛津川及び松浦川の裏法の耐侵食性を調査した。松浦川では堤体土の特性から被災状況をほぼ説明できた。一方、牛津川では堤内地が湛水していた効果、いわゆる越流水が法尻を侵食する力を抑制するウォータークッション効果、越水時に倒れた植生が法面を被覆した効果、堤体表面の根毛が表土の侵食を抑制する効果などについても今後検討する必要がある。こうした事例を収集し、危機管理型ハード対策における構造上の工夫の改良につなげていくことは重要であり、越水発生箇所で堤防決壊に至らなかった箇所の調査について継続していきたい。

☞詳細情報はこちら
1) 笹岡ら:河川堤防の築堤材料や管理状況等が越流時の侵食耐力に与える影響についての考察,河川技術論文集,第24巻,pp.601-606,2018.
2) 小田川堤防調査委員会資料:http://www.cgr.mlit.go.jp/emergency/odagawateibochosa.htm
3) 笹岡ら:越流が生じた河川堤防の耐侵食性能調査の重要性につ い て , 第 7 回河川堤 防 技術シンポジウム論 文集,pp25-28,2019
4) 宇多ら:洪水流を受けた時の多自然河岸防御工・粘性土・植生の挙動,土木研究所資料,第3489号,1997.1.

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