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生態学術的な観点からの河川特性の評価に関する調査研究(外来植物の侵入予測とリスクマップの活用)

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An ecological study on evaluation of river characteristics (Prediction of invasion by invasive plants with application of risk maps)

リバーフロント研究所報告 第 31 号 2020 年 9 月

自然環境グループ 研 究 員 川村 設雄
自然環境グループ 研 究 員 内藤 太輔
主席研究員 宮本 健也

1. はじめに
わが国の河川では外来植物の侵入、分布が全国的に確認されている 1)。特に在来植物と競合するなど生態
系への影響が顕在化している、またはその可能性が高い外来植物の侵入が河川管理の課題となっている。
外来種の駆除対策には、その侵入初期段階で対応する予防的措置と拡散後に対応する対処的療法があるが、
前者のほうが経済性、効果発現性に有利とされている。
2018 年度の本研究所報告書では、外来種が繁茂する箇所の環境要素を統計的手法の CART(Classification And Regression Tree)により分析した結果を外来植物の侵入予測に適用できる可能性を報告した 2)。
本稿は、天竜川に繁茂するアレチウリを対象に、CART分析と最新の植生データを用いて予測したリスクマップ(侵入確率の分布図)の検討結果を以下に報告し、外来植物の駆除対策への活用方法を考察したものである。

2. 外来植物の繁茂に関する要因分析
2-1 外来植物の繁茂状況の変遷
5 年毎に実施される河川水辺の国勢調査(以下「水国」という)の植生データを用いて、天竜川(139km
~159km:長野県飯田市付近)におけるアレチウリの面積の経年変化(1km ピッチ)を整理した(図-1)。
侵入初期段階の 2006 年から 2011 年にかけて、アレチウリは急激に増加(侵入面積 区間①:16ha/10km,
区間②:3.3ha/10km)したが、その後の 2016 年調査でアレチウリの繁茂面積は減少に転じた。
2011 年から 2016 年の 5 年間では高水敷を冠水した出水や、河川工事といった外的要因(インパクト)は
ないものの、地域住民(NPO)による定期的な駆除活動(毎年 1 回の抜取り)が、アレチウリの減少要因の一
つとして考えられる。

図-1 天竜川におけるアレチウリの侵入面積の変遷
(水国植生データを用いて編集)

2-2 外来植物の繁茂に関する要因分析
アレチウリの侵入範囲について河川特性を把握するため、環境要素の重要度を分析した。ここで環境要素
は、外来植物の侵入範囲予測手法として適用実績 3)がある「比高」、「水際からの距離」、「植被タイプ(元々の植生)」等の 6 項目 10 種とした。
図-1に示したアレチウリの侵入が著しい区間①(139km~149km)を対象に、2011 年と 2016 年の植生
調査結果と各環境要素(説明変数)の重要度の分析結果を図-2に示す。
アレチウリの分布範囲における環境要素の重要度は、「比高:36%」と「植被タイプ:24%」の比率が高く、二項目の環境要素で 60%を占める結果となった。

図-2 環境要素の重要度分

3. 効果的・効率的な外来植物駆除対策の提案
3-1 河川管理の課題と対応
広大な河川区域を有する河川管理(植生管理)においては、一般巡視員による「河川巡視・点検」や、定
期的に実施される水国では、外来植物の早期発見が困難な場合が多い。
このため、CART 分析を用いて現時点の環境要素から将来のアレチウリの侵入状況を予測して、侵入確率の
高い箇所を見える化(可視化)するためにリスクマップを作成した。また、外来植物駆除対策の効果的・効率化を図るため、リスクマップを活用した駆除対策(または監視)の優先箇所の選定方法を提案した。

3-2 リスクマップの作成と活用例
(1)予測条件
天竜川の現況(2016 年植生データ等)を初期条件として、前項の環境要因の分析結果を用いてアレチウリ
侵入状況の予測をおこなった。
(2)予測計算結果
天竜川におけるアレチウリの決定木(CART 分析結果)を図-3に示す。侵入確率は「比高」、「植被タイプ」、「河口からの距離」および「供給源:半径 100m 以内」の4 つの環境要素の条件によって決定される。
モデル精度を評価する、ROC 分析(Receiver Operating Characteristic)に基づく AUC 値(Area Under the Curve:真陽性率~偽陽性率曲線)は 0.85 で、一般に判別性能が高いとされる 0.7 を上回る良好な結果が得られた。

図-3 アレチウリ侵入確率の決定木(CART 分析結果)

(3)リスクマップの作成とその活用例
アレチウリの侵入確率分布図(リスクマップ)を図-4に示す。現在、河岸で繁茂しているアレチウリは
将来的に高水敷に全体に拡大することが予測された。リスクマップの活用として、例えば環境情報図とリスク
マップの照合により、重要種や在来種の生息域で、外来植物の侵入が予測される場合には、侵入初期段階での駆除対策を講じる等の「予防的措置」を図ることが可能となる。

図-4 リスクマップの作成例(天竜川)

3-3 外来種駆除対策ハンドブック案の更新
効果的・効率的な防除対策方法のノウハウをまとめたハンドブック案に、リスクマップを活用した対策優
先箇所の選定にあたっての技術情報として提案した。

4. おわりに
本報告では、天竜川をケーススタディとして、CART分析を用いたリスクマップの作成について報告した。
CART 分析は、直轄河川では概ね 5 年毎に調査される水国、測量・LP データ等を用いることで解析できる汎
用性の高い手法であり、外来植物駆除対策を講じる際には有効なツールとなり得る。
ただし、統計手法を用いた本モデルは、5 年毎の調査データを用いた予測結果のため、河川へのインパクト(河川工事・植生管理等の河道の変化)、水理的要素(流況等の変化)、植物のサイクル(繁茂の成長・成熟・減衰のメカニズム等)等が反映されていない。
このため、河川管理の実践にあたっては、上記の変化要因に対応した環境要素をリスクマップに反映でき
るよう、新たな手法(条件の設定等の標準化を含む)あるいは既存の手法(例えば、水理・河床変動解析等)
との組合せ等による評価分析の体系化が必要である。

<参考文献>
1) 河川管理者のための外来植物防除対策解説書
(案):国土技術政策総合研究所資料,第 1010 号, 国土交通省国土技術政策総合研究所,2018.2
2) 生態学的な観点からの河川特性の評価に関する調査研究:リバーフロント研究所報告第 30 号,2019.9
3) 宮脇成生他:千曲川における侵略的外来植物 4 種の侵入範囲予測,保全生態学研究,15 巻 1 号,2010

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0904河川砂防及び海岸海洋0911建設環境
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