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多摩川の河川環境評価に関する検討

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Consideration on evaluation of riverine environment of Tama River

リバーフロント研究所報告 第 31 号 2020 年 9 月

自然環境グループ 研 究 員 白尾 豪宏
水循環・水環境グループ 研 究 員 後藤 勝洋

1. はじめに
多摩川は「多摩川河川環境管理計画」に基づき、河道内をきめ細かく区分した管理を実施してきた。同計画は昭和 55 年に策定され、植生と鳥類相、地形的特性等の優れた地区を「生態系保持空間」として選定・保全した。その後、平成 13 年の河川整備計画策定と合わせて、より広く住民意見を取り入れ改訂された。一方で、近年では改定当初は想定していなかったハリエンジュによる樹林化や干潟の減少等、河川環境上の大きな変化が生じている。そこで、本報告では今後の河川環境管理における有用な知見を把握する目的で、2019年時点におる多摩川の河川環境について、物理環境情報、生物情報を用いて全川を評価し、「現状で良好な環境が残されている地区」の検討を行った結果について述べる。

2.評価の考え方
評価の考え方は、図-1に示すように「生物の生息・生育場として重要な場所」、「特徴的な環境要素(物理
環境)が存在する場所」の 2 つの視点から、両者に該当する現地領域を『現状で良好な環境が残されている地区(案)』として選定することとした。なお、図-1左側に相当する「生物の生息・生育場として重要な場所」の評価は、1~4 巡の河川水辺の国勢調査データを使用し、指標種の確認状況の継続性等を踏まえて評価に考慮した。

図-1 評価の考え方

3. 特徴的な環境要素の評価指標の設定
前段図-1で挙げた評価の考え方のうち、以降は右側部分に相当する「特徴的な環境要素(物理環境)が存在する場所」についての検討を述べる。
多摩川は都市部に残された貴重な自然空間であり、上流から河口を含む直轄区間には、瀬淵や池沼、干潟といった多様な水域や、礫河原、オギ原、河畔林、崖地など多岐にわたる環境要素が存在する。また一方で、これらの環境の維持に関しては、人手の介入による保全活動が展開されている。こうした側面を踏まえ、多摩川の河川環境の評価に際しての基本的な視点として、【1.特殊性】、【2.典型性】、これらの評価結果を区分する視点として【3.人と川との関わり】を位置づけた。結果を以下表-1に示した。【1.特殊性】は、①希少種などの生息・生育場、②支川合流部や湧水箇所などを設定した。なお、ここで言う「希少種」とは、行政によるレッドリスト選定種に加え、多摩川で生育箇所が減少しているカワラヨモギ等の砂礫河原の生育植物も含めている。【2.典型性】は、①自然植生域の広さ、生物の多様性等に優れた良好な環境、②多摩川らしい特徴的な環境、③指標種となる生物の存在を設定した。このうち、②は、全区間の特徴的な自然環境について、大セグメント別に有識者意見を参考に設定した。【3.人と川との関わり】は、「A:河川管理(自然再生事業等)による環境の保全・再生箇所」、「B:人工施設内(自然公園、堤防等)の希少種の生息・生育箇所」、及び「なし:人との関わり(人為管理)が少ない状態の箇所」とした。

表-1 多摩川らしさの評価指標


5.評価結果
以上の評価を行い、現地を述べ 5 日間にわたって踏査、検証した結果、「現状で良好な環境が残されている地区(案)」として表-2に示すとおり計 40 箇所を抽出した。この結果、これまで多摩川の環境上の良好箇所として位置づけていた全 17 箇所の生態系保持空間とは 15 箇所で整合した。整合しなかった 2 箇所では、樹林化による特徴的な環境要素の喪失等が要因となった。一方で、新たに 23 箇所が良好箇所として抽出され、特にこれまで環境の良好箇所が未設定であったセグメント2-2、2-1にも該当箇所が含まれた。2-2では蛇行部内岸でエコトーンが確保されている 1 箇所、2-1ではアユの産卵場やワンド、河畔林が確認されている 11 箇所が「現状で良好な環境が残されている地区」に選定され、結果として全川的に環境上の良好箇所が設定された。一例として、図-2にセグメント2-1における選定箇所(赤点線で囲われた 2 か所)を示した。

表-2 現状で良好な環境が残されている地区(案)

図-2 現状で良好な環境が残されている地区の例

 

6.おわりに
本検討後の令和元年 10 月 12~13 日にかけて、多摩川では東日本台風による観測史上最大の洪水が発生し
た。このため、自然環境は大きなインパクトを受け、地形や植生に変化が生じている。本検討結果は、今後の自然環境の更新や植生遷移を睨んだ洪水前における貴重な検討成果として、今後検討を予定する出水後における変化状況の比較検討に活用可能と考えられる。

<参考文献>
1) 後藤勝洋,柏木才助,舟橋弥生,大澤秀一:多摩川の河川環境管理に関する研究,リバーフロント研究所報告第 30 号,pp.9-12,2019

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