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実践的な河川環境の目標設定に関する研究

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A study on practical goal setting for riverine environments

リバーフロント研究所報告 第 31 号 2020 年 9 月

自然環境グループ 研 究 員 白尾 豪宏
自然環境グループ 研 究 員 内藤 太輔
主席研究員 宮本 健也

1. はじめに
平成 31 年 3 月に策定された「実践的な河川環境の評価・改善の手引き(案)」(以下「手引き(案)」という http://www.rfc.or.jp/pdf/tebiki_H31.3.zip)は、着目河川の河川環境を複数のまとまりに区分し、手本となる河川環境の状態(リファレンス)を有する「代表区間」を設定することで、区分ごとの相対的な評価や改善に活用できるものである。すでに令和元年度末時点で全国 33水系 38 河川(部分作成含む)において活用されている。本報告は、将来的な手引き(案)のブラッシュアップを目的とした検討結果について述べたものである。

2. 手引き(案)の概要
手引き(案)の概要を図-1に示した。具体には、河川全体の俯瞰的な把握を目的として河川環境区分シー
ト、代表区間選定シート、河川環境経年変化シートの3 種を用途別に作成し、現地調査による検証や専門家からの意見聴取により検証する流れとなっている。

図-1 手引き(案)の概要

3. エキスパートオピニオン
図-1(左下点線)に示すように、手引き(案)においては、評価結果の検証方法として専門家等からの意見聴取を行うこととなっている。そこで、本工程に相当するエキスパートオピニオンについて、流路延長が約 70km と同程度である自然豊かな菊池川と、都市部を流れる大和川を対象に行い、有効性等を検討した。

3-1 エキスパートオピニオンの実施方法
 エキスパートオピニオンは、専門家との現地視察を交えた意見交換によって評価結果を検証する工程であ
る。地域の専門家として、手引き(案)の評価対象生物群である植物、魚類、鳥類の 3 名の河川水辺の国勢調査アドバイザー等にご協力いただいた。実施は、趣旨説明→現地視察(3 箇所)→意見交換の流れで、午後か
らの約 4 時間をかけて行った。

図-2 菊池川での試行状況

3-2 エキスパートオピニオン結果のまとめ
結果、河川環境区分シート作成時における地域伝統漁法由来の特殊地形等、作成者による評価時の見落と
しについて気づきが得られるなど、地域特有の状況に対する助言を得ることができた。また、代表区間の環
境の多様性等について参加者の納得感が得られ、認識の共有ツールとしての有効性が示された。一方で、今
後の課題として、シート作成時と現地検証時の地形や植生の相違等が挙げられた。これらの知見は、手引き
(案)の次回改定時に具体的な実施方法を留意点と共に掲載していく予定である。なお、今後の運用は検討
中であるが、本プロセスの有効性が示されたことから、重要な検証作業として位置付けることになると考える。
環境・生態系の基本的課題に関する研究報告

4. 空間単位に関する感度分析
手引き(案)における河川環境評価の基本設定は、1.0km 単位を採用しながらも、河川の規模や特徴に応
じて 0.5km、2.0km 単位などの空間単位の設定を柔軟に許容している。一方で、同一河川において異なる空間
単位による評価結果の比較は前例がない。そこで、幹川流路延長 194km の吉野川、及び 71km である菊池川を対象に、空間単位を 0.5km、1.0km、2.0km 単位に変化させたとき、河川環境区分シート、代表区間選定シート(以下「環境シート」という)における生息場の多様性の評価値(以下「評価値」という)の応答状況について感度分析を行った。

4-1 評価値算出の概説
環境シートでは、図-3に示すように環境要素ごとに、区間の中央値以上は1点、中央値未満は0点、外
来植物生育地等の負の評価項目では中央値以上を-1点とし、空間単位ごとの合計値の多寡によって環境の良
し悪しを評価する。なお、菊池川では、評価項目として、標準的な「典型性」12 項目に「特殊性」の項目と
して塩沼湿地を加えることで、河川環境の特徴を踏まえた重要な生息場を評価できるようにしている。手引
き(案)では、こうした評価の独自性も、河川ごとの工夫として許容する内容としている。

図-3 評価値の算出方法

4-2 評価値の変化
図-4に空間単位を変化させたときの環境シートにおける評価値の変化を示した。この結果、各空間単位
の値は全体的に同様の変化傾向を示したが、2.0km 単位評価においては数ヶ所で他の評価値との大きな乖離
が見られた。この理由として、2.0km 単位より小さな空間単位で環境要素のばらつきが生じている区間では、空間単位を縮小した場合にこれらが評価値として反映され、結果として大きな差異の生じた可能性が考えら
れた。このため環境シートの作成時には、年度やシート間で統一的な空間単位の適用が望ましいと思われた。

図-4 評価値の変化(河川環境区分シート)

4-3 統計値の変化
 次に、前述の各空間単位における評価値について、Statcel3 を用い全区間の空間単位の数列(図-5の例
では 0~10.0km までの数列)を対象に、データの正規性に基づいて多重比較検定により有意差を比較した。

図-5 統計対象数列のイメージ

正規性の検定の結果、各対象数列はすべて非正規分布とみなされ、Steel-Dwass 法(P>0.05 を有意な差が
あるとみなした)の適用により吉野川、菊池川共に2.0km と 0.5km 単位の間で有意差が検出された。なお、
2.0km と 1.0km、及び 1.0km と 0.5km 単位の間には有意差は見られなかった。

4-4 空間単位の感度分析のまとめ
以上より、同一河川における環境シートの作成に際し、異なる空間単位による評価結果は、必ずしも同一
にならない可能性があると考えられた。特に 0.5km 単位と 2.0km 単位の評価は統計的な有意差が検出され、
同一河川での異なる空間単位の適用には注意が必要と考えられたことから、この点はコラムとして手引き(案)
の改定時に事例を示す予定である。

5. おわりに
本検討結果等を含めた将来的な手引き(案)の改定に向け、学識委員会の助言を受けて、今後とも知見の
充実を図っていく予定である。

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