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気候変動下で増加する洪水に、ダムでの洪水調節が及ぼす影響を世界で初めて推定

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2021-01-22 東京大学 生産技術研究所

○発表者
Julien Boulange(国立環境研究所 気候変動適応センター 気候変動影響評価研究室 特別研究員)
花崎 直太(国立環境研究所 気候変動適応センター 気候変動影響評価研究室 室長)
山崎 大(東京大学 生産技術研究所 准教授)

○発表概要
国立環境研究所、東京大学、ミシガン州立大学からなる共同研究チームは、全球規模の気候変動影響の将来予測において、これまで考慮されてこなかった洪水軽減におけるダムの役割を推定しました。気候変動に伴って世界的に洪水リスクが将来増加すると予測されますが、ダムでの洪水調節を見込むと、考慮しない場合と比較して21世紀中のダム下流の洪水暴露人口※1が世界的に約15%減少することを明らかにしました。
本研究の成果は、2021年1月18日に総合学術誌「Nature Communications」に掲載されました。

○背景と目的
洪水は、世界で最も深刻な自然災害の1つです。世界的に、洪水リスクは気候変動と人口増加により将来増加すると予測されています。現在、世界中の主要な河川の約半分がダムによって流量調節されており、3,700を超える主要なダムが計画中または建設中です。したがって、現在および将来の洪水によってもたらされるリスクを包括的かつ現実的に評価するには、現在および将来のダムの影響を洪水シミュレーションに統合する必要があります。そこで共同研究チームは、地球規模の水循環・水利用・洪水氾濫モデルを組み合わせたシミュレーションを実施しました。

○研究の内容と成果
共同研究チームは過去から将来にわたり、世界を対象として洪水シミュレーションを実施しました。将来の予測には低位(RCP2.6)および中高位(RCP6.0)の温室効果ガス排出経路※2に基づく気候予測結果を利用しました。世界の河川流量を1日単位で、50km四方ごとの格子に区切って推定し、統計学的な処理を行うことで、20世紀末(1975~2004年、現在気候)における100年に1度の規模の洪水の流量を推定して、ダムによる流量調節を考慮した場合としない場合の2通りの計算を実施し、結果を比較しました。

ダムによる流量調節を考慮した場合のRCP6.0の下での21世紀後半の再起確率年数※3を世界的に推定したのが図1です。ダムがあっても世界の多くの地域で再起確率年数は大幅に短くなります。一方、アメリカ東部やヨーロッパなど、春先の融雪出水が減少する地域では、洪水流量が小さくなる傾向があります。これはHirabayashi et al. (2013)による先行研究とも整合しています。

ダム下流の洪水暴露人口は、RCP2.6および RCP6.0を想定すると、2006年から2099年の間に平均720万人と1340万人でした。これらの人口は、ダムによる流量調節を考慮していないシミュレーションと比較して、それぞれ平均16.3%と12.8%減少しました(図2)。21世紀末の2070年から2099年の間に着目すると、それぞれ平均20.6%と12.9%の減少となります。


図1 ダムによる流量調節を考慮したRCP6.0シナリオ下の再起確率年数。地図の色は再起確率年数を表し、100(年)より小さいとより洪水がより起こりやすくなることを、大きいと起こりにくくなることを示す。左の棒グラフは頻度を表し、現在気候の100年に1度の規模の洪水が5-25年に1度まで起こりやすくなってしまう地域が最頻であることを示す。


図2 ダム下流の洪水暴露人口。a)ダム下流の洪水暴露人口の推移。帯は予測の不確実性を、線は4つの気候モデルの平均の5年移動平均を示す。b)2070年から2099年の間の洪水暴露人口の平均値と不確実性。

○今後の課題と展望
本研究はダム操作の効果を考慮した世界初の全球規模の洪水暴露人口の気候変動影響評価ですが、ダム操作や洪水氾濫は非常に簡略化して扱われています。より現実的な推定ができるよう、引き続きシミュレーションモデルの改良を進める必要があります。ダムの建設と運用にあたっては環境的および社会的影響もあります。潜在的な利益と損失の両方を考慮した包括的な評価が水資源の持続可能な利用や管理のために必要です。さらに、洪水対策としてはダム以外にも堤防、遊水地、河道改修、予測、早期警戒など目を向けるべき対象が多数あり、これらを考慮できるシミュレーションへと発展させていくことが重要です。

○用語説明
※1 洪水暴露人口:現在気候の100年に1度の規模の洪水が発生した時に浸水域に居住する人口の総和。本研究では不確実性の影響を省くため、人口と分布を2010年レベルで固定している。

※2 温室効果ガス排出経路:人間活動に伴う温室効果ガス等の大気中の濃度が将来どの程度を推移するかを示した想定(シナリオ)。低位および中高位はそれぞれ現在国際的に使われている代表的排出経路(Representative Concentration Pathways)のRCP2.6とRCP6.0シナリオを指す。それぞれ、世紀末の全球平均気温が産業革命前比で約2℃、3℃上昇する。

※3 再起確率年数:現在気候の100年に1度の洪水が、21世紀(2070~2099年)に何年に1度の頻度で生じる可能性があるか。

○発表論文
【タイトル】
Role of dams in reducing global flood exposure under climate change
【著者】
Julien Boulange, Naota Hanasaki, Dai Yamazaki, and Yadu Pokhrel
【雑誌】
Nature Communications
【DOI】
10.1038/s41467-020-20704-0
【URL】
https://www.nature.com/articles/s41467-020-20704-0

○参考文献
Hirabayashi, Y., Mahendran, R., Koirala, S., Konoshima, L., Yamazaki, D., Watanabe, S., Kim, H., and Kanae, S.: Global flood risk under climate change, Nature Clim. Change, 3, 816-821, 10.1038/nclimate1911, 2013.

○問い合わせ先
【研究に関する問い合わせ】
国立研究開発法人国立環境研究所 気候変動適応センター
気候変動影響評価研究室
特別研究員 Julien Boulange
室長 花崎 直太

【報道に関する問い合わせ】
国立研究開発法人国立環境研究所 企画部広報室

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