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河川構造物で生じる摩耗劣化を模擬した試験方法「回転式水中摩耗試験」を開発~河川構造物の耐摩耗性の評価に活用~

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2022-10-20 農研機構,神戸大学,ベルテクス株式会社

ポイント

農研機構、神戸大学、ベルテクス株式会社は、河川で生じる小石混じりの水流を再現し、材料の耐摩耗性を評価する「回転式水中摩耗試験」を開発しました。

堰せきなどの河川構造物のコンクリート部では、砂利や石(以下、小石)を含む水流によって表面が激しく摩耗します。そのため、河川構造物には摩耗に対する高い抵抗性が要求されますが、これまでその性能を評価する試験方法がありませんでした。今回開発された試験方法によって、現場で生じる摩耗を室内で再現でき、現場の実態に即した材料の品質評価を実施できます。

概要

河川では、特に出水時に、水の流れとともに小石などの固形物が川底を転がることによって激しい摩耗1)が生じます。そのため、河川に造られる取水施設である頭首工とうしゅこう2)などに使用されるコンクリートやその補修材料には耐摩耗性が要求されます。しかし、このような小石混じりの水流による摩耗劣化を評価できる試験方法はありませんでした。

そこで、農研機構、神戸大学、ベルテクス株式会社は、河川構造物で生じる摩耗劣化を模擬した新たな試験方法「回転式水中摩耗試験」を開発しました。本試験は、水を満たした容器内に小石を模擬した鋼材を投入し、容器内に回転水流を発生させることによって、河川で生じる小石混じりの水流を再現するものです。本試験によって、現場の実態に合った条件で材料の耐摩耗性を評価し、耐摩耗性の高い材料を選定することができ、河川構造物の維持管理費用の低減に貢献します。

関連情報

予算:民間資金等(資金提供型共同研究)

問い合わせ先など

研究推進責任者 :

農研機構農村工学研究部門 所長藤原 信好

研究担当者 :

同 施設工学研究領域 研究員金森 拓也

神戸大学大学院農学研究科 食料共生システム学専攻澤田 豊

ベルテクス株式会社 技術本部 副本部長有田 淳一

広報担当者 :

農研機構農村工学研究部門 渉外チーム長猪井 喜代隆

詳細情報

開発の社会的背景

河川から農業用水を取り入れるための堰である頭首工は、全国に約2,000箇所存在しており、そのうち約4割で標準耐用年数の50年以上が経過し、施設の老朽化が進行しています。老朽化した頭首工では、劣化が進むことにより、施設自体の安全性が損なわれる、農地に必要な水量を確保できなくなる、などの問題が発生するため、劣化がひどくなる前に補修を行うことが重要です。

頭首工で生じる主な劣化は、コンクリート部の「摩耗」です。摩耗は、水が流れる施設、例えば水路などでも発生しますが、河川に設置されている頭首工では、水量が多いうえに流速も速く、さらに小石等の固形物も多く流れてくるため、特に激しい摩耗が生じます。そのため、頭首工の補修を行う際には、補修に使用する材料が十分な耐摩耗性を有しているかを事前に検査し、一定の品質が確保されているかを評価することが大切です。

開発の経緯

水路などの水利施設に使用されるコンクリートや補修材の耐摩耗性を評価する試験として、現場の摩耗作用を模擬した促進摩耗試験3)がこれまでにいくつか考案されています。例えば、コンクリート水路に施工される補修材料の耐摩耗性の評価方法として、水流を高圧で噴射する促進摩耗試験が実施されています。

一方、頭首工では水流とともに小石等の固形物が多く流れてきますが、このような状況を模擬した促進摩耗試験はなく、頭首工に使用する材料の耐摩耗性を現場に近い条件で評価する方法がありませんでした。

開発した試験法の内容・特徴

今回開発した回転式水中摩耗試験では、小石に見立てた「鋼材」を含む水流を起こすことによって現場で生じる摩耗現象を再現します。本試験によって、試験の対象物(以下、供試体)を摩耗させ、摩耗した深さを計測・比較することによって材料の耐摩耗性を相対的に評価します。

回転式水中摩耗試験の内容・特徴は以下のとおりです。

1.試験装置の構成と原理(図1、図2)

本試験で使用する試験装置は直径1,092mm、高さ720mmのドラム形状で、装置の内側には水をかき混ぜるための回転板が90度ごとに4枚配置されています。供試体は装置の底に設置します。試験時には、装置内に水および鋼材を投入し、回転板を回転させることで円周方向の水流を発生させます。装置の底では、水流に伴って鋼材が供試体の表面を転がり、供試体を摩耗させます。

2.試験の仕様

試験装置内の流れが安定する条件として、装置に投入する水量は水深40cm相当、回転速度は1分間に70回転を基本としています。使用する鋼材の形状や数、試験時間は目的に応じて自由に変更することができます。例えば、研磨材の形状や数を変更することで、供試体に発生する摩耗力を調整することができます。

3.供試体の形状・配置

本試験で用いる供試体は台形型で(図3)、15枚の供試体を装置の底にドーナツ状に設置します。1回の試験で複数の材料を試験する場合には、同じ材料が連続するように並べます(図4)。

4.耐摩耗性の評価方法

試験後、供試体が摩耗した深さを計測し、その値から材料の耐摩耗性を評価します。摩耗した深さは、一定間隔で深さ方向の距離を計測できるレーザー計測装置によって計測します。計測は、1つの供試体につき7本の測線(レーザー光を走査させる計測ライン)で行い、それらの平均値を評価の指標とします(図5)。

今後の予定・期待

回転式水中摩耗試験は、頭首工などの河川構造物で問題となる「小石混じりの水流による摩耗劣化」を模擬できる試験として開発しました。本試験を利用することで、現場に近い条件で使用材料の耐摩耗性を評価することが可能です。

長年にわたる利用により老朽化が進む農業水利施設を今後も持続的に利用していくためには、補修による長寿命化が不可欠です。本試験によって、補修材料の品質を事前に検査することは、補修の効果を長持ちさせることにつながり、構造物の維持管理費用を抑えた農業水利施設の保全・管理に貢献します。また、本試験の活用によって、摩耗に強い新材料の開発が進むことも期待されます。

今後は、現場から採取した材料(コンクリートや補修材)に対しても試験ができるように、試験装置の改良を予定しています。現場から採取した材料に対して本試験を適用できれば、施設の将来的な摩耗量を予測できる可能性があります。そうすれば、施設があと何年後に摩耗で使えなくなるか予測することも可能となり、合理的に補修時期や補修工法を立案することができます。

なお、本試験の対象は頭首工に限定したものではなく、小石混じりの水流による摩耗が生じる水利施設全般で広く活用することが可能です。

用語の解説
1)摩耗
農業水利施設の主要な劣化の一つ。水が流れる施設では、流水やそれに付随して流れてくる砂や石などによって、構成材料(コンクリートや補修材)の表面が削られます。材料の種類にもよりますが、一般的なコンクリート水路の測定結果では年間0.1mm~0.4mm程度の摩耗が発生するのに対して、頭首工ではその5~10倍程度の速い速度で摩耗が進行します。
2)頭首工
河川をせき止めて水位を上昇させることで、農業用水を河川から水路へ引き入れるための施設。取水口、取水堰、付帯施設(魚道など)、管理施設などの複数の施設によって構成されています。

3)促進摩耗試験
研磨材などを用いて、強制的に摩耗を促進させる試験。現地の摩耗速度は年間数mm程度であり、自然環境下での暴露試験によって耐摩耗性を評価するには長い年月を要します。そのため、短時間で耐摩耗性を評価する目的で促進摩耗試験が利用されます。
発表論文・受賞

金森拓也、有田淳一、浅野勇、川邉翔平、青柳邦夫、河端俊典、澤田豊、森充広(2022):回転式水中摩耗試験装置の開発および性能確認、農業農村工学会論文集、No.314(90-1)、pp.I_139-I_148

参考図

図1 回転式水中摩耗試験装置の構成

図2 回転式水中摩耗試験の状況(左:上から見た様子、右:水中の様子)

水槽の底に供試体を並べて、鋼材と水を混合し水槽の中を回転させる装置で、洗濯機のような構造をしています。

図3 試験後の供試体

図4 供試体の配置方法の例(上から見た図)

図5 摩耗深さの測定方法

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