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V字状に幅広な破砕溝を深層まで構築できる全層心土破砕機「カットブレーカー」を開発

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営農排水施工技術の標準作業手順書を公開

2020-12-07 農研機構,株式会社北海コーキ

図1 全層心土破砕機「カットブレーカー」の概要と施工方法

ポイント

従来技術より深く、表面から70cmまでV字状に幅広く土壌を破砕できる全層心土破砕機「カットブレーカー」を開発しました。トラクターや農耕用ブルドーザに装着して使用します。開発機を利用して、堅く締まって地表に水が溜まりやすい土壌を確実に破砕し、下層土や既設の暗渠まで迅速に余分な水を浸透させることにより、農地の排水性を良好に保ち、畑作物の生産を安定化することができます。本技術と、既存の「カットシリーズ」を用いた営農排水施工技術の実施手順等を取りまとめた標準作業手順書(SOP: Standard Operation Procedures)1)を作成し、本日ウェブサイトで公開しました。

概要

畑作物を栽培するには、湿害を避けるためにほ場の排水性を高めることが必要です。特に水田を畑転換したほ場では、排水対策は欠かせません。そこで農研機構はこれまで、株式会社北海コーキと共同で、生産者が簡単・迅速に、ほ場の土壌物理性や排水性を改善できる排水改良機カットドレーン、カットソイラーを開発してきました。
今回、従来機より深く土壌を破砕できる全層心土破砕機カットブレーカーを開発しました。堅密な土壌の改良に適しているカットブレーカーは、トラクターや農耕用ブルドーザに装着した施工機を土に挿入して、30~70cmの任意の深さまでに、下端幅10cm、上端幅最大80cmとなるV字状に破砕した1~3連の溝を構築できます。破砕溝は、作物根にとって好ましい膨軟性・透水性・通気性が確保され、根域の拡大により農作物の増収に貢献します。本工法は、膨軟な破砕溝が施工後数年ほど経過しても維持されており、長期の畑転換に適しています。
カットブレーカーおよび既存のカットドレーン、カットソイラーを用いた営農排水施工技術や、その施工効果と経済性等のポイントを取りまとめたSOPを作成し、本日、農研機構ウェブサイトで公開しました。
本SOPを活用して農地の排水性を良好に保ち、畑作物の生産を安定化することで、農作物の増収に貢献すると期待されます。

関連情報

予算:共同研究「低コスト営農用土層改良技術の開発」、農林水産省委託プロジェクト研究「収益力向上のための研究開発」、革新的技術開発・緊急展開事業(経営体強化プロジェクト)「栽培・作業・情報技術の融合と高収益作物の導入による寒地大規模水田営農基盤の強化」並びに「寒地畑作を担う多様な経営体を支援する省力技術およびICTを活用した精密農業の実証」、運営費交付金 特許:特開2020-184891

問い合わせ先

研究推進責任者 :農研機構農村工学研究部門 研究部門長 藤原 信好
株式会社北海コーキ 代表取締役 後藤 幸輝

研究担当者 :農研機構農村工学研究部門 農地基盤工学研究領域 ユニット長 北川 巌

広報担当者 :農研機構農村工学研究部門 渉外チーム長 猪井 喜代隆

詳細情報

本機の開発の社会的背景

水田を畑転換したほ場では、緻密な耕盤層が残っているため排水性が劣り雨水などが溜まりやすい状態で畑作物を生産している場合が多くあります。このようなほ場条件では、畑作物の目標とする収量や品質が確保できません。加えて、大豆や小麦の増産や野菜の生産強化が求められる中で、局地的な長雨や集中豪雨などが増加傾向にあり、これら農作物の収量が減少している場合も多いことから、ほ場の排水性をこれまで以上に良好に保つ必要があります。しかしながら、従来の心土破砕の問題点には、土中に石礫を含むと施工できない点、堅密層を貫けない点、不良な下層土を持ち上げる点がありました。
そこで、農家が迅速・簡単に実施でき、石礫を含む場合や堅密層がある場合でも、深層まで全面的に確実に破砕できる心土破砕機を実用化して市販しています。
なお、ほ場の排水性を改善するため、これまでには無資材の暗渠を構築する穿孔暗渠機カットドレーンや、収穫後に地表に散在しているワラなどの残渣を地中に埋設して排水溝を構築する有材補助暗渠機カットソイラーを開発しており、本機の開発により対応できる技術が更に充実しました。

開発の経緯

畑作物や野菜の栽培において、作物の生育を良好に保ち生産性を高めるには、より深く・より広範囲の土壌の緻密性・通気性・透水性の条件を、作物の根伸長に適するように改善する必要があります。そのため、農作業により土壌中に形成された堅密な耕盤層や元々の堅密層を破砕して、緻密性・通気性を改善する必要があります。これにより、ほ場の表面滞水や土中に余分な水が停滞しないように透水性を高めることができます。
しかしながら、従来の心土破砕機では、極めて堅密な土層があるなどの土壌条件によっては深くまで破砕できない場合や土壌の破砕効果が低い場合がありました。また、石礫を含む土壌においては、石礫が障害となる場合や石礫を持ち上げる場合があり、施工できないことがありました。さらに、化学性や物理性が不良な下層土を地表面に持ち上げることも多くありました。
生産現場からは、これらの課題を解決した、簡単かつ効果的で、多様な土壌条件に適用可能な、新たな心土破砕の技術が求められていました。

「カットブレーカー」の特徴・意義

1.全層心土破砕機カットブレーカーは、小型~大型のトラクターや農耕用ブルドーザにも装着でき、牽引力で土中の30~70cmの任意の深さに、1~3連のV字状の破砕溝を構築でき、堅密な土壌の改良に適しています(図1)。

2.図1に示す施工方法は、V字状の切断刃を挿入して土塊を持上げて破砕、後方に落下させて埋戻し、破砕溝を構築します。破砕溝では、土壌硬度である貫入抵抗値2)が大幅に低下しており、3年後も破砕効果が保たれています(図2)。それにより、透水性と通気性が改善され、根域の拡大と湿害回避が期待されます。加えて、破砕溝の横に凸状の非破砕な堅密部が形成されており、機械走行のための地耐力の維持とともに保水性の維持による干ばつ回避の効果が期待されます。

3.カットブレーカーは、V字状に切断した土を持上げてそのまま落下させるため、土壌の攪乱が少ない特徴があります。このため、土壌の化学性を変化させることなく物理性だけ改善できます。また、切断刃が斜めに配置されているため、土中の直径10cm程度の石は、衝突時に石と切断刃が上下方向に相互にズレ、後方に抜けることから、表面まで持ち上がることはありません(図1)。

4.カットブレーカーには20~50馬力トラクター用の1連式(mini 1連)、50~60馬力トラクター用の2~3連式(mini 2連)、60~150馬力トラクター用の2~3連式(ブレーカー)の3機種があります(図1)。施工速度は心土破砕と同速度の2~4km/hが標準です。カットブレーカーの希望小売価格(2020年度、オプション・送料・税別)は94~248万円です。

5.カットブレーカーは、堅密な土壌のため作物の生育が抑制される洪積土のほ場において大豆の生育を改善し、収量を増加させます。また、湿害に弱い大豆のほか、根域拡大が必要な根菜類のジャガイモやテンサイの畑作物に対して効果的です(写真1、表1)。

6.カットブレーカーは、概ね全ての土壌に活用できます。施工の間隔はトラクター幅での全面的な施工を標準とします。主に転換畑、畑、草地で使用します。使用上の留意点は、石礫が5%以上含まれる除礫が必要なほ場、石礫5%未満ではあるが直径30cmを越える巨礫が含まれるほ場、埋木があるほ場に使用できないことです。また、本機は破砕強度が強いため、水田や施工後3年以内に復田するほ場への施工は望ましくありません。復田が想定される場合は、1連或いは2連の施工機を用い、施工方向を田植え方向と直交に施工し、田植え機の旋回部に施工しないことが必要です。

7.SOPでは、粘土での適用性が高いカットドレーン、幅広い土壌に適用でき資材埋設により効果の持続性の長いカットソイラーなど、カットシリーズの土壌条件に対応した使い分けや使用方法などを紹介しています。各工法の効果・持続性は異なることから、施工後の費用対効果を表2に示します。今回、新たにカットシリーズに加わったカットブレーカーは、資材を活用するカットソイラーより改良効果の持続性は短いことが予想されますが、施工機が低価格で施工費用が安いことから、一定面積以上の経営や共同利用で導入して実施した場合、畑作物の増収による増益により施工費を短期間で償還でき、経済的に有利です。

今後の予定・期待

農研機構では、開発機の農家や法人、農業団体、農機メーカー、建設業者への普及を目指しており、各地域でのデモ・実演や現地実証の取り組みを推進しています。2020年7月時点で、7道県15農家において実証試験が行われています。開発機は、株式会社北海コーキが製造し、全国のトラクター販売店で販売されています。最近では、いくつかの地域にデモ機が導入され、北海道、茨城県、長野県、九州の畑作導入地域を中心に現地実証が進んでいます。また、宮城県、富山県、兵庫県などで既に農家に販売されています。今後は、JA等によるレンタルの取り組みを進めていきます。
これまで暗渠排水は、公共事業により計画的に整備されてきました。しかし、暗渠の排水機能は経年的に低下することから、機能の回復策が求められています。カットブレーカーは、農家の都合に合わせ手軽に施工できる暗渠排水やほ場の排水性の回復策として期待されます。また、施工後の土壌の破砕効果が長期に及ぶことから、長期的な畑転換のための抜本的な営農による排水対策技術として有効と考えています。

用語の解説
1)標準作業手順書(SOP: Standard Operation Procedures)
技術の必要性、導入の条件、具体的な手順、導入例、効果等を記載した手順書。農研機構は重要な技術についてSOPを作成し社会実装(普及)を進める方針としております。
2)貫入抵抗値
土壌の硬さは、植物根の伸長や難易、土壌の透水性や通気性の程度に影響します。貫入式土壌硬度計は、30度円錐を先端にもつ長さ90cmのロッドを地表面から土に挿入して、土を掘削せずに土壌の硬さを計測できます。貫入抵抗値は、貫入式土壌硬度計を土に挿入した時の深度毎の抵抗値です。
発表論文

北川巌(2020):多様な土壌条件に対応できる営農排水改良技術 カットシリーズのラインアップ、機械化農業3226、11-14

農研機構(2019)「営農排水改良ラインナップ技術 新世代機「カットシリーズ」

詳しい資料は≫

参考図

写真1 カットブレーカーの大豆に対する効果

図2 カットブレーカー施工後の貫入抵抗値
(2017 北海道鹿追施工ほ場)

表1 カットブレーカーの畑作物の収量(坪刈り)に対する効果

表2 カットブレーカー等の畑作物生産に対する費用対効果

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