A study on changes in riverine environments and species of Midori River and its desirable conditions(Basic survey for planning nature restoration)
リバーフロント研究所報告 第 31 号 2020 年 9 月
自然環境グループ 研 究 員 川村 設雄
自然環境グループ 次 長 都築 隆禎
自然環境グループ 研 究 員 白尾 豪宏
主席研究員 宮本 健也
1. はじめに
緑川流域は熊本県の中央に位置し、源を上益城郡山都町の三方山に発し、御船川等と合流したのち熊本平野を
東から西へ貫流し、下流部で加勢川、浜戸川を合わせて有明海に注ぐ流域面積 1,100km2の一級河川である。
本報告では、緑川流域の治水・利水事業に伴う河道改変等を整理した上で、河川環境と生息生物種の変遷を分析して、緑川の望ましい姿を検討したものである。
2. 治水・利水事業による河道の変化
(1)河道変化(第一期工事・土砂採取の状況)
治水事業は大正 14 年度から昭和 16 年度にかけて、河口から御船川合流点までの築堤・河道掘削、加勢川
の分離工事および本川(旧嘉永新川)の拡幅と浜戸川の分離工事が実施された。
利水事業は昭和 12 年完成の杉島堰に始まり、昭和30 年代~昭和 40 年代を中心に 6 基の固定堰が建設(6
基のうち 3 基は改築)された。
また、戦後から昭和 60 年代には、河口から丹生宮堰の間で土砂採取が行われていた。
(2)緑川ダム建設(第二期工事)
昭和 18 年 9 月、昭和 28 年 6 月、昭和 29 年 9 月等の出水で多くの災害が発生したため、直轄事業として緑川ダムが昭和 46 年に竣工した。
3. 生物種変遷と河道変遷の分析
(1)生物種の変遷
河川水辺の国勢調査データを用いて、生物種の主な変遷をみると、平成20 年以降「在来タナゴ類(ヤリタナゴ等)が減少し、国内外来種のタナゴ類(イチモンジタナゴ等)、ゼゼラ、ニゴイの増加」がみられた。
(2)指標種の設定
緑川のハビタットの設定は、河道特性と固定堰によって形成された水域環境を踏まえ、図-1に示す「下
流感潮区間」「中流湛水区間」及び「中流瀬淵区間」の3 区分とし、ハビタット毎の指標種を表-1に示す。
表-1 緑川のハビタット毎の指標種と生息関環境
図-1 緑川の概要とハビタットの設定
(3)生物種変遷と河道変遷の分析
生物種変遷、河道変遷及び河川物理環境(河道諸元、水文、瀬淵等の生息環境条件等)のデータを用いて、河川環境管理シート 1)に基づく「生物種の変遷と生息場の関係」を整理して、インパクト~レスポンスの関係を分析した結果を表-2に示す。
表-2 インパクト~レスポンスと想定される生物への影響
4. 緑川の望ましい姿(目標設定)案
緑川ダムや中流固定堰群が整備された第二期工事完了から約 50 年を経ることで、新たに形成された現在の河道環境である「中流湛水域・氾濫湿地」の維持と、緑川本来の生息環境である「下流感潮域の干潟」と「中流域の瀬淵」の回復・拡大を目標として、緑川の望ましい姿を表-3のとおり設定するものとした。
表-3 緑川の望ましい姿(目標設定)案
5. おわりに
既存の文献や調査資料の整理・分析により、緑川のハビタット毎の指標種と、その種の生息環境を維持、回復・拡大するための緑川の望ましい姿(案)について報告した。
自然再生計画の策定(事業実施の必要性の判断を含む)に向けては、本報告で得られた既往調査結果を用いた分析をもとに、生物生息状況や河川物理環境等の詳細な現地調査とデータに基づく定量的な評価が必要である。
例えば、有明海に属する緑川の特徴である下流感潮区域(干潟・感潮域)の生息環境の場について、干満時の塩分濃度、遡上範囲等のデータに基づく定量的な評価・分析等があげられる。
<参考文献>
1) 実践的な河川環境の評価・改善手引き(案):公益財団法人リバーフロント研究所,2019.3