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海外における河川の生態系や自然再生の環境技術の調査

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A study on environmental technologies of other countries
for restoring riverine ecosystems and nature

リバーフロント研究所報告 第 31 号 2020 年 9 月

主席研究員 宮本 健也
自然環境グループ 次 長 都築 隆禎

1. はじめに
河川における生態系保全や自然再生等に関して先進的な施策を実施しているドイツ、スイスを訪問し、現
地における取組を調査するとともに政府機関等に対するヒアリングを行い、最新の生態系保全や自然再生等
の技術、政策等の調査を実施したので報告する。

2. 調査対象国・地域の選定
我が国が平成 2 年に多自然型川づくりの取組を始めた際、また、平成 9 年に河川法を改正し河川環境の整
備と保全を河川法の目的に位置づけた際に参考にした国・地域として、ドイツ国バイエルン州及びスイス国
チューリッヒ州を選定したものである。

3. 調査方法
過去にドイツ・バイエルン州、スイス・チューリッヒ州の川づくりを調査した実績がある、河川工学及び
生態学を専門とする学識者等から構成される表-1に示す調査団を結成して調査に当たった。

表-1 調査団名簿 (敬称略)

海外における河川の生態系や自然再生の環境技術の調査
※このほか、国土交通省、関係団体も参加している

具体的な調査箇所については、スイス在住でドイツ、スイス両国の川づくりの状況について知見を有し、今
回の調査団員の一人でもあるスイス近自然学研究所山脇正俊氏の意見を伺い、選定した。

4. 調査結果
4-1 基本コンセプト(3 つの要素と 3 分野の専門家の連携)
ドイツ、スイスにおける近自然川づくりでは、治水、エコロジー、レクリエーションの 3 要素を必須とし、
土木技術者、生態学の専門家、景観の専門家が連携して計画・設計している。また、一連区間のコンセプトと設計内容を定めてから個別箇所の近自然化に取り組んでいる。

図-1 基本コンセプト

4-2 旧河道を活用した蛇行復元
アルトミュール川(ドイツ・バイエルン州)では、かつて洪水対策を目的として河道の直線化を実施したと
ころ、その目的は達したものの河床勾配が大きくなり、河床低下が顕著となった。それに対し、床止めや落差
工を設置したものの抜本的な解決に至らなかったため、旧河道を活用して再蛇行させ、安全とエコロジー的な
価値を確保した。

写真-1 旧流路活用によるアルトミュール川の再蛇行化(Google マップに追記)

4-3 氾濫原の確保による蛇行復元
トゥール川(スイス・チューリッヒ州)では、かつて洪水安全性の向上と農地の確保を目的とした一次改修
環境・生態系の基本的課題に関する研究報告として河道の直線化が実施された。近年の洪水や上流における改修の進捗を踏まえた再改修に当たり、治水安全度の向上に加え、生態的な価値の向上や親水性・景観(ランドシャフト)の向上も目指している。具体的には、低水護岸を撤去するとともに、氾濫原確保のために引堤を実施し、洪水時の河川の浸食作用により、農地として利用されていた部分を含め高水敷や旧堤が浸食されることを期待している。

図-2 トゥール川の再蛇行化の取組(山脇氏資料)

写真-2 護岸撤去による砂州の形成(左岸)
(左:ベンツィガー氏資料 右:池内氏撮影)

4-4 多様な主体による河川の自然復元
ドイツ、スイスでは、国(連邦政府)、州、発電事業者、下水道事業者など多様な主体からの資金拠出によ
って自然再生を推進している例がある。例えばテス川(スイス・チューリッヒ州)では、下水処理場の拡張
工事の際に、下水処理水の放流先の水質改善プロジェクトの一環として、河川の再自然化が盛り込まれた。

写真-3 下水処理場(左)の改善プロジェクトによるテス川の再自然化の取組(テス川)
(左:AWEL ホームページより 右:池内氏撮影)

4-5 わが国との取組に照らして
これまでわが国では、平成 2 年からの多自然川づくりの展開、平成 9 年の河川法改正、平成 14 年の自然再
生推進法を踏まえた自然再生事業の推進に関して、先行して近自然川づくりや自然再生に取り組んでいたドイツ、スイス等の事例を参考にしてきた。近年の多自然川づくりでは、「川の営力を活用する」、「生物の生息・
生育・繁殖環境として湿地や氾濫原を重視する」ことが共通の理解になっているが、わが国より先行して近自然川づくりに取り組んでいるドイツ、スイスにおいても、そのような考え方が重視されており、わが国の多自然川づくりの方向性を確認することができた。
一方、事業スケールの大きさ、長期的な視点を持った取組、順応的な対応、レクリエーションまで一体的に考えた取組等、ドイツ、スイスの取組を参考にすべきところが多いと思われる。このような視点から、わが国の河川環境に関する事業をレビューし、事業の進め方等の転換を進めていくことが期待される。

5. おわりに(わが国への展開に向けて)
約 30 年前河川行政が河川環境施策に取り組み始めた時代から、河川行政を取り巻く状況、求められるこ
とが変化してきているなかで、河川環境施策の新たな視点・展開が求められており、海外における様々な取
組を学ぶことはその一環として重要である。
わが国として、新たな視点から施策展開を図るため、海外事例に知見を有する者を増やし、組織として知識
を重層化させ、日本での新たな取組の引き出しとすることが必要と考える。
現在、環境に関する施策として、Eco-DRR(=生態系を活用した防災・減災)、グリーンインフラ(=自然環境が有する機能を社会における様々な課題解決に活用しようとする考え方)が注目されており、河川行政としても、これらに関する具体的な施策展開を進めるうえでは、今回の調査結果も踏まえ、海外で実施されている施策から具体事例を学んでいくことが必要である。
ドイツ、スイスでは、100 年前に大規模に河道を直線化、固定化したことから生じた河川環境の変化、治水上の問題を踏まえて対応しており、わが国にはない貴重なデータがあると思われる。
日本における取組も「多自然型川づくり」開始から約 30 年の歴史を積み重ねてきていることから、一方的に海外の事例を学ぶだけでなく、日本における取組を説明しつつ、海外の取組に関して意見交換し、理解を深めることが必要と考える。

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0904河川砂防及び海岸海洋0911建設環境
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