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地すべり防止施設「集水井(しゅうすいせい)」の新たな補強工法を開発

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老朽化した集水井を容易・迅速に補強
2018/10/09  農研機構
集水井1)の更新では、集水井を埋め戻し新たに作り直す方法が用いられてきましたが、重機が必要であること、工期が長いなどの問題がありました。今回、パイプラインの補強工法として実績のある軽量な鋼製リングと表面部材を用いて、集水井の内壁をモルタル内巻うちまきで補強する工法を開発しました。本工法は、部材が軽量なため、搬入・設置を手作業で行うことができ、作業スペースが限られる集水井でも短期間に施工が可能です。新潟県での実証試験では、埋め戻し新設工法に較べ工期、工事費の削減に大きな効果があることが確認できました。今後は、使用材料の改良等による低コスト化を積極的に進めていきます。

概要

集水井は、地すべり面付近の地下水を排水し、地すべりを抑止するための水抜き井戸です。農地関係の地すべり防止区域2)は全国で1,975箇所が指定されており、その多くに集水井が設置されています。全国には11,000基以上の集水井があると推定されています(2012年時点、主要メーカー3社分の合計、農林関係以外のものも含む)。
集水井の中には設置から50年以上経過したものもあり、老朽化による腐食や損傷等が進行しています。ライナープレート製の集水井3)は内部が腐食しかつ鋼部材が入り組み、作業スペースが限られます。集水井の内部構造は複雑であり、その腐食や損傷の程度はどれも異なります。このような個々の集水井によって構造や老朽化の程度が大きく異なるため、それらを補強するための一般的な工法は確立されていませんでした。
今回、農研機構と共和コンクリート工業(株)、芦森工業(株)、芦森エンジニアリング(株)は共同で、集水井を容易・迅速かつ安全に補強できる工法を開発しました。本工法では、集水井の内側に軽量な鋼製リングと型枠を組み立て、集水井と型枠との間に高流動モルタル4)を流しこみ、鋼製リングとモルタルが一体化したモルタル内巻を造ることにより、集水井を補強します。部材が軽量のため、運搬・設置が手作業で行うことができ、狭隘で作業が困難な集水井の中でも短期間に施工ができます。また、ライナープレートの内側に内巻が追加されるため集水井の強度や耐久性が向上します。
今後、使用材料の見直し等を行いさらなるコストダウンを図るとともに、搬入道路が無い難アクセス集水井に対しても補強が行えるように工法の改良を進めて行きます。
<関連情報>
予算:官民連携新技術研究開発事業

お問い合わせ

研究推進責任者:農研機構農村工学研究部門 研究部門長 白谷 栄作
研究担当者:同 施設工学研究領域 中嶋 勇
広報担当者:同 広報プランナー 遠藤 和子

詳細情報

開発の社会的背景と経緯

農地関係の地すべり防止区域は全国に約1,975箇所が指定されており、その多くには集水井が設置されています。一方、集水井の中には設置から50年以上経過したものもあり、老朽化により腐食や損傷の発生が見られます(図1)。しかし、集水井の内部は点検用梯子や鋼部材が設置されており、作業スペースが限られます。また、集水井の内部構造は複雑であり、一つとして同じものはありません。さらに、有毒ガスが発生する場合もあり作業環境は劣悪です。このような作業環境の悪さのため集水井の一般的な補強工法は確立されていませんでした。
そこで、農研機構は民間企業3社と共同で、集水井を容易・迅速かつ安全に補強できる一般的な工法を開発しました。

研究の内容・意義

本工法は、軽量な鋼製リングと塩ビ製の表面型枠を用いて集水井の内側に軽量な型枠を組み立て、集水井と型枠との隙間に高流動モルタルを流しこみ、鋼製リングとモルタルを一体化したモルタル内巻を造ることにより、集水井を補強します(工法の概要:図2、施工手順:図3)。
<開発した工法の特長>

  • 鋼製リングは5kg未満と軽量なため、搬入・設置が手作業でできます。このため、狭く作業スペースが限られる集水井の中でも、安全かつ短期間に施工が可能です。試験施工では、作業員3人で1日1.5mの高さのモルタル内巻を立ち上げました。
  • 平成28年11月に新潟県糸魚川市内で実証試験を行いました。対象は内径3m、深さ15m、建設から約40年が経過し、老朽化した集水井です。その結果、集水井を埋め戻し新設する工法に比較して、約50%の工期短縮と約10%の工事費のコストダウンが可能という結果が得られました。補強後の集水井は施工1年後もモルタル内巻に損傷・変形は認められず内部状態は良好でした(図4)。
  • 集水井には「ライナープレート製」と「コンクリートセグメント製」の2つの形式があります。本工法は主に鋼材の腐食による劣化が問題となるライナープレート型集水井に適用します。
  • コンクリート内巻の強さと変形性を確認するために縮尺約1/3の集水井模型を作製し、集水井に作用する土圧に相当する荷重を作用させた載荷試験を行いました(図5)。その結果、模型は鉄筋コンクリートと同様にひび割れが一箇所に集中せず分散しながら変形し、直径方向のたわみが約8%に達しても破壊しませんでした。このことから、内巻補強は地すべり地区の地盤の変形に対しても高い追従性を有することを確認しました。
今後の予定・期待

集水井の診断マニュアルおよび内巻補強工法の設計・施工の成果報告書は農林水産省のHPから入手できます5)。全国の地すべり防止区域に設置された都道府県が管理する主に腐食が激しい鋼製のライナープレート製集水井(8,700基と推計)の一般的な補強工法となるようにさらなるコストダウンと材料搬入が難しい難アクセス集水井にも対応できるように工法の改良を進めて行きます。

用語の解説

1)集水井
直径3.5m 程度、深さ20~30mの大きな水抜き井戸です。井戸の中から複数のボーリング孔を水平方向に掘削し、地すべり面の地下水を抜き、地すべりを抑制します。
2)地すべり防止区域
地すべり等防止法に基づき、主務大臣が関連都道府県知事と意見調整し、公共の利害に密接に関係する区域を地すべり防止区域として指定します。地すべり対策事業による工事は、この区域内で実施されます。また、区域内では、地すべりに悪影響を与える行為(大量の水を地下に浸透させることや、大規模な盛土、切土など)が制限されます。
3)ライナープレート製集水井
鋼製の薄い波板を組み立て集水井の内壁として土留めを行う工法です。波板1枚が軽量でボルト結合できるため施工が容易ですが、環境条件により鋼材が腐食する可能性があります。
4)高流動モルタル
セメント、水、砂を混合した土木材料。水のように良く流動し、狭い場所にも流れ込むため、固まった後は空洞のない密実な壁が造られます。
5)農林水産省のHP
http://www.maff.go.jp/j/nousin/sekkei/kanmin/kanryou.html

発表論文

1. 浅野勇、岡村昭彦、五十嵐正之、中里裕臣、紺野道昭(2017):集水井の新たな補強工法の開発、水と土、No182、p68-73.

参考図


図1 ライナープレート型集水井の内部には様々な部材があり作業スペースが限られる
集水井の内部には点検梯子、鉛補強鋼材、補強リング(周方向補強)などが配置されており、内部構造が複雑です。

図2 内巻補強工法の概要
集水井の内側に軽量型枠を手作業で搬入・組立て、集水井の内壁と型枠の間に高流動モルタルを注入すれば、鋼製リングとモルタルが一体化したコンクリート内巻が完成します。

図3 施工手順

  • 点検梯子等の内部部材を撤去し集水井内部を洗浄します。
  • 集水井の内側に鋼製リングを取付けます。
  • ハンマーを用いて塩ビ製の表面部材を鋼製リングにはめ込み、型枠を組み上げます。
  • 集水井と型枠との隙間に高流動モルタルを充填します。


図4 施工1年後の内部状況(新潟県糸魚川市での試験施工)
腐食した内部部材は撤去されきれいな状態です。腐食に強く取り外し可能なFRP製*)の点検梯子を新たに設置しました。施工1年後も内巻に損傷・変形は認められず、内部状態は良好です。
*: FRPはFiber-Reinforced Plasticsの略称で、ガラス繊維や炭素繊維などをプラスチックに混入した複合材料のことです。軽く、強度が高く、耐久性が高い材料であり、小型船舶の船体や、ユニットバスやテニスラケット等に広く用いられます。

図5 縮尺1/3集水井模型の載荷試験
縮尺約1/3の集水井模型を作製し載荷試験を行いました。縮尺模型は鉄筋コンクリートと同様にひび割れが分散しながら変形し、直径方向のたわみが約8%に達しても破壊せず、高い変形性能を示すことが確認されました。

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