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排水機場や排水路の水位をリアルタイムで予測するモデルを開発

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水利施設操作の支援と洪水被害・排水管理労力の軽減

2021-09-09 農研機構,応用技術株式会社

ポイント

低平地における排水機場と排水路の水位を予測することが可能な人工知能(AI)モデルと水理モデルを開発しました。直近の観測値と気象予報のデータをもとに、数時間先の水位をリアルタイムで予測できます。この予測結果に基づき、水利施設の操作管理を支援し、洪水被害と排水管理にかかる労力の軽減に役立ちます。

概要

低平地の排水機場1)では、熟練管理者が減少傾向にある水利施設2)の管理・運用と近年増加傾向にある水害対策のために、持続的かつ効果的な操作管理を支援するシステムが求められています。そのために、管理対象地区内の排水機場の水位と排水路の水位について、それぞれを可視化できる高精度かつ高速な予測モデルを開発しました。前者はAIの一種であり、観測データを学習することで排水機場地点の水位情報を高速で予想できるLSTM(Long Short-Term Memory)モデル3)です。また後者は物理現象の基礎式に基づき、排水路ネットワークの面的な水位情報を予測できる水理モデルです。これらのモデルを支援システムの上で駆動させることで、リアルタイムで流域の洪水時等の水位を予測できます。この可視化された情報に基づき、排水機場の効果的な操作管理が可能になります。例えば、施設管理者は、管理モニターに映し出される水位予測を見て、適切な排水ポンプの運転や、氾濫のおそれのある場所の予測などができ、水門等の水利施設の適切な管理操作が行えます。これにより、洪水被害の軽減や排水管理にかかる労力の軽減が期待できます。現在、モデルを実装した支援システムを排水管理が実施される低平農地で実証試験中です。

関連情報

予算 : イノベーション創出強化推進事業「超過降雨に対応した農業地域の洪水被害を軽減する減災支援技術の開発」(H29~R1)、運営費交付金

問い合わせ先

研究推進責任者 :

農研機構農村工学研究部門 所長藤原 信好

応用技術株式会社 代表取締役 船橋 俊郎

研究担当者 :

農研機構農村工学研究部門 水利工学研究領域 上級研究員木村 延明

広報担当者 :

農研機構農村工学研究部門 渉外チーム長猪井 喜代隆

詳細情報

開発の社会的背景と研究の経緯

近年、豪雨による災害が増加する傾向にあり、風水害による農林水産被害額も増加傾向にあります(図1)。また、農地が宅地に転用されると、降雨時の流出傾向が変化するうえに、浸水が生じた場合の被害が増大するため、周囲に宅地が多く存在する下流側の排水機場等の水利施設では慎重かつ的確な操作管理が求められます。さらに、水利施設の管理組織では高齢化が進行しており、熟練した管理者のノウハウの継承が課題となっています。一方、水利施設の操作を行うには降雨による水位変化を迅速に予測することが重要ですが、水位予測には大規模な数値計算を行う必要があり、実用上の問題がありました。

このような状況に対応するため、水利施設の管理者による効率的な操作を支援し、洪水被害の軽減と排水管理にかかる労力の軽減を目的として、リアルタイムで水位を予測するAIモデルと水理モデルを開発しました。

研究の内容・意義

1.本研究で開発したモデルは、直近の降雨と水位の観測値及び気象予報のデータをもとに数時間先の排水機場と排水路の水位をリアルタイムで予測します。

2.AIモデルは、排水機場について長期間の観測データから時間毎の降雨と水位の関係を学習し、直近の降雨と水位データに加え予報降雨から、数時間後までの排水機場地点の水位変化を迅速に予測します(図2)。施設管理者は、管理モニターに映し出される水位予測を見て、適切な排水ポンプの運転を行います。なお、本モデルは、過去の観測データの蓄積がある地点に適用可能です。

3.水理モデルは、予報降雨から排水機場につながる排水路網の数時間後までの水位を予測します。施設管理者は、管理モニターに映し出される計算結果を見て、氾濫のおそれのある場所の予測などができ、水門等の水利施設の適切な管理操作が行えます。なお、本モデルは、降雨データを入力して流出量を計算し、排水路を流れる水の物理法則をもとに水路の水位を計算します(図3)。また、排水路を溢水した氾濫流量も計算できます。

4.これらの2つのモデルは、それぞれ単独のプログラムとして稼働しますが、気象データの入力機能、モデルの計算、水位予測の出力機能などを全自動化するための支援システムが必要になります。例えば、イノベーション創出強化研究推進事業(開発研究ステージ)において農研機構と応用技術株式会社が開発した地域排水管理・減災情報システム4)に各モデルは実装されていて、現時点から数時間後までの排水機場と水路網の水位情報を提供します(図4)。現在、排水ポンプの効率的な運転操作や水門等の水利施設の適切な管理操作の支援に向け、現地実証を行っています。

今後の予定・期待

低平地の排水機場や排水路等の水利施設管理者を対象にして、現在、2つのモデルを地域排水管理・減災情報システムとともに北陸地域の低平地(約110km2)で実証試験中です。本成果は、水利施設管理者の効率的な運転操作を支援するものなので、排水管理が必要な他の低平農地で、2つのモデルを実装した支援システムを活用することが期待されます。本プログラムを入手する場合は、農研機構HPよりお申し込みください。

用語の解説
1)排水機場
ポンプによって排水路などの余剰な水量を河川などに排水する施設です。
2)水利施設
農地に関する水利施設は、ダム、取水堰、用排水路、排水機場などがあります。
3)LSTM(Long Short-Term Memory)モデル
AIの一種で、時系列のような順序に意味のあるデータを学習させるのに適したモデルです。ある時刻の計算結果を次の時刻の計算に受け渡すことで、順序の特徴を学習させることができます。
4)地域排水管理・減災情報システム
排水機場の通常時の運転の効率化に加え、洪水時の安全運転と浸水状況の把握のため、水位の情報をリアルタイムで管理者に提供するシステムです。
発表論文

1.安瀬地一作、木村延明、林博文、吉永育生、関島建志、福重雄大、桐博英(2021) : 深層学習と物理モデルを用いたリアルタイム水位予測システム、農業農村工学会誌「水土の知」、89(1)、11-14.

2.木村延明、中田達、桐博英、関島建志、安瀬地一作、吉永育生、馬場大地(2019) : LSTMモデルを用いた低平地排水機場の水位予測、水工学論文集、64、I_139-I_144.

参考図

図1 過去の自然災害(主な震災除く)の農林水産被害額(農林水産省R2食料・農業・農村白書)

観測水位と観測降雨の関係を学習することにより、予報降雨に対する水位を予測

図2 AIモデルによる地点の水位予測

図3 水理モデルによる水路の水位の高さを予測

図4 地域排水管理・減災情報システムにおける2つのモデル表示結果と活用方法

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