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吉野川における効率的な樹木管理に向けて

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In pursuit of more efficient tree management along Yoshino River

リバーフロント研究所報告 第 31 号 2020 年 9 月

自然環境グループ 研 究 員 菊地 則雄
自然環境グループ 次 長 都築 隆禎
主席研究員 宮本 健也
自然環境グループ 研 究 員 川村 設雄

河川区域内の樹木は、河川環境や景観の重要な要素となる一方で、洪水時に流れを阻害し、流木化したものは橋梁箇所で河道閉塞を起こすなど治水上の問題となる恐れがある。
近年、気候変動の影響等により、豪雨による災害が頻発化・激甚化していることを受け、「防災・減災、国土強靭化のための 3 か年緊急対策」が閣議決定された。この中で、治水安全度向上のための施策の一つとして、樹木伐採が全国の河川で実施されており、吉野川においても樹木伐採が進められている。
吉野川の河道内樹木はヤナギ林、竹林が大きな割合を占めているが、これらの樹木は伐採後に萌芽再生し、短期間で樹林が回復することが管理上の課題となっている。
本稿は、今後の吉野川における効果的な樹木管理手法の策定を目的とし、他河川で実施された再樹林化を抑制する樹木管理の事例収集を行い、その複数の手法について効果を比較できるよう試験施工計画およびモニタリング調査計画を立案したものである。

キーワード: 樹木管理、萌芽再生、伐採、モニタリング調査計画、試験施工

Trees along a river are an important part of the riverine environment and the local landscape. But they can obstruct flood control by obstructing river flow. Driftwood can block a river channel flowing under a bridge.
In response to the increasingly intense and frequent disasters caused by heavy rains associated with climate change and other factors, the Japanese Cabinet approved three-year measures for urgently preventing and mitigating disasters, and building up national resilience. One of the measures for pursing greater safety with more robust flood control is felling trees along rivers across Japan. The Yoshino River is no exception.
Willow and bamboo groves account for a major part of trees growing along Yoshino River. These trees sprout and grow back soon after they are felled. Such quick recovery complicates tree control.
This paper is intended for the development of a more effective method of controlling trees along Yoshino River. Toward this aim, it compiles case studies of methods for curbing reforestation along other rivers. Comparison of these tree control methods was sought by planning tests and monitoring surveys.

Keyword: tree control, sprouting and regrowth, felling of trees, plan for monitoring surveys, field trial

1. はじめに
近年、気候変動の影響等により、豪雨による災害が頻発化・激甚化していることを受け、「防災・減災、国土強靭化のための 3 か年緊急対策」が閣議決定された。この中で、治水安全度向上のための施策の一つとして、樹木伐採が全国の河川で実施されており、吉野川においても樹木伐採が進められている。
吉野川の河道内樹木は、昭和 52 年から平成 15 年の大規模な洪水が少ない期間に急激に拡大しており(図-1)、樹種としてはヤナギ林、竹林が大きな割合を占めている(図-2)。

 

吉野川における効率的な樹木管理に向けて

図-1 吉野川の樹木繁茂面積変遷 1)

図-2 吉野川の樹林面

ヤナギ林、竹林は再生能力が高く、伐採後に短期間で樹林が回復することによる維持管理負荷の増大が課題となっており、伐採による効果を持続させる効果的な樹木管理手法の確立が求められている。
本稿は、今後の吉野川における効果的な樹木管理手法の策定を目的とし、他河川で実施された再樹林化を抑制する樹木管理の事例収集を行い、その複数の手法について効果を比較できるよう試験施工の計画およびモニタリング調査計画を立案したものである。

2. ヤナギ林、竹林の再樹林化要因整理
効果的な樹木管理手法の検討に当たり、既往研究よりヤナギ林、竹林の再樹林化要因を整理した。ヤナギ林は伐採後の株や枝、竹林は地下茎から再萌芽することが、伐採後の再樹林化の要因となっている。そのため、ヤナギ林は株の処理や現場に残されている枝の除去、伐採株や枝を枯死させる対策、竹林は地下茎を枯死させる対策が必要と考えられる。
【ヤナギ林】
〇 伐採時に株を残してしまった場合、伐採株から萌芽再生し、約 2 年で高木に成長する。3)
〇 伐採作業時、現場に残された枝からも萌芽再生する。3)
〇 伐採株や枝からの萌芽は、種子からの発芽に比べ成長が早く、早期に再樹林化する 4)。
【竹林】
〇 伐採後、除根を行わなかった場合は、地下茎から萌芽再生し、1 年で元通りまで成長することがある 3)。
〇 除根を行った場合でも、取り除けなかった根から萌芽再生する 3)。また、根を完全に取り除くことは困難である。

写真-1 ヤナギの株からの再萌芽状況

写真-2 マダケの地下茎からの新芽 4)

3.ヤナギ林、竹林の管理手法事例収集
前項で整理したヤナギ林、竹林それぞれの再樹林化要因を踏まえ、萌芽再生の抑制を考慮した樹木管理手法は全国の河川で実験、試行されている。これらの事例を収集し、萌芽抑制効果や留意点などについて整理した(表-1、2)。

表-1 ヤナギ林の樹木管理事例

表-2 竹林の樹木管理事例

4. 最適な伐採手法選定のための試験施工計画
4-1 試験施工の目的
吉野川において効果的な樹木管理を実施していくために、樹木伐採後の再樹林化抑制効果や作業効率などを考慮し、最適な伐採手法を選定する必要がある。そこで、収集した伐採手法について再樹林化抑制効果を比較し、最適な伐採手法を選定することを目的とした試験施工を計画した。

4-2 樹木管理の現状と各伐採手法に関する
維持管理施工業者へのヒアリング
試験施工の計画にあたり、維持管理施工業者にヒアリングを実施し、現状の吉野川における樹木伐採実施状況と課題、収集した再樹林化を抑制する樹木伐採手法の施工性について整理した。
(1) 吉野川における樹木伐採実施状況
〇 吉野川における伐採手法は、ヤナギ林、竹林のいずれも除根を基本としている。
〇 河岸部分はバックホウのアームで届く範囲(5m程度)であれば除根作業が可能である。それ以上の距離がある場合、手作業による伐採が必要となる。
(2) 現状の樹木伐採の課題
〇 除根後に処分場に持ち込む際、根についた土砂を除去しなければ引き取ってもらえない。
〇 特に地盤が粘性土の地区の竹林は根に強く土砂が付着し、除去に非常に手間がかかる。
(3) 収集した樹木管理手法の施工性
〇 重機を使わない手作業の手法は作業効率が低い。
〇 再萌芽した個体を伐採する場合、小さいうちに伐採や踏み倒しをする方が、費用も手間も抑えることができると考えられる。
【ヤナギ林の伐採】
〇 重機を使う方法の中で、株への覆土は出水時に土砂の流出が懸念される。また、覆土するよりも除根する方が効率的であると考えられる。
〇 手作業の手法の中で、環状剥皮と伐採株の樹皮剥皮は、その他の手法と比較して作業の負担が大きい。
【竹林の伐採】
〇 天地返しや土砂掘削を行う手法は、除根のみと比較し大幅に作業効率が低下する。
〇 土砂掘削を行う手法は根を含む掘削後の土砂置き場を確保するのが難しいと考えられる。
〇 1m 残した伐採は、伐採したタケの回収が難しくなる。広範囲で行う場合は、回収のために重機の通路
を作る手間がある。

4-3 試験施工を実施する伐採手法の選定
収集した伐採手法について、再樹林化抑制効果や作業効率等の面から評価し、試験施工を実施する手法をヤナギ林、竹林それぞれで選定した。
吉野川では、大部分の伐採(除根)が重機により行われており、河岸部分など重機の作業が困難な部分を
手作業により伐採されている。そのため、Ⓐ大部分の伐採を行う効率的な手法、Ⓑ重機による作業ができない区域の手法(手作業の手法)、それぞれで伐採手法を選定し、再樹林化抑制効果を比較することとした。
(1) 各伐採手法の評価
過去の樹木伐採試験の事例、維持管理施工業者へのヒアリング結果を基に、各伐採手法の再樹林化抑制効果や作業効率等の面から評価した。

表-3 伐採手法の評価(ヤナギ林)

表-4 伐採手法の評価(竹林)

(2) 試験施工を行う伐採手法の選定
【ヤナギ林】
表-1の収集事例の中から、各伐採手法の評価(表-3)を踏まえ、試験施工を行う伐採手法を表-5の通り選定した。伐採株への覆土、環状剥皮、株の樹皮剥皮は作業効率が特に低いと考えられるため除外した。また、現状では薬剤の使用には課題があるため、薬剤塗布は除外した。

表-5 試験施工を行う伐採手法(ヤナギ林)


【竹林】
表-2の収集事例のうち、各伐採手法の評価(表-4)を踏まえ、試験施工を行う伐採手法を表-6の通り選定した。除根後の天地返し、土砂掘削は作業効率が低く、土砂掘削については根を含む掘削後の土砂置き場の確保が難しいことから除外した。定期伐採は手作業(分類Ⓑ)の手法であるが、竹林の伐採作業のうち負担の大きい根の処分が不要で作業効率の向上が期待できる。根の処分の省略により、重機を使用する手法より効率的な伐採方法となった場合、大部分の伐採を行う効率的な手法(分類Ⓐ)としても利用できる可能性がある。

表-6 試験施工を行う伐採手法(竹林)

4-4 試験施工方法
(1) 試験区の設置
試験施工は、対象地に各樹木伐採手法の試験区(10m×10m)を隣接して設け、伐採後の萌芽再生状況のモニタリング調査を行う。また竹林の試験区は周辺からの地下茎侵入による影響が懸念されるため、試験区の外縁に深さ 1m 程度の遮蔽版または防根シートを設置する。

図-3 ヤナギ林の伐採試験区

図-4 竹林の伐採試験区

(2) 伐採時期・期間の設定
伐採後の再樹林化を抑制するためには、現場に残される株や地下茎の養分が少なくなる時に伐採することが望ましい。そのため、地下部の養分を使って展葉した直後の初夏(7 月)に伐採を行うものとした。
また、伐採後の処理が必要となる手法の伐採後処理(ブルドーザ踏み倒し、定期伐採、2 回伐採)の時期に
ついては、既往の伐採試験で効果のあった事例の処理時期を採用した。ヤナギ林については、E 川の定期伐採の事例 6)で駆除が成功した 8 月と 12 月に伐採後処理を行うものとし(2 回伐採は初回伐採翌年の 8 月)、竹林
については、J 川の定期伐採の事例 9)で駆除が成功した8 月と 11 月に伐採後処理を行うものとした。
なお、試験施工では伐採後、3 年間伐採後処理を継続し、その翌年に各伐採手法の評価を行うものとした。

表-7 伐採スケジュール

(3)各試験区の管理
表-8 各試験区の管理(ヤナギ林)

表-9 各試験区の管理(竹林)

4-5 モニタリング調査計画の立案
試験施工について、各樹木伐採手法の評価を行うためのモニタリング調査計画を立案した。
モニタリング調査においては、各樹木伐採手法の再樹林化抑制効果、作業効率について確認することを踏まえ、調査項目は以下の通り設定した。
【再樹林化抑制効果に係る項目】
○試験区の定点写真撮影
・初回伐採後およびモニタリング調査時に定点から試験区の全景を撮影し、伐採後の変化を確認する。
○試験区内の萌芽状況調査
・各試験区内の地面から萌芽している個体数、萌芽個体の高さを確認する。
・竹林の試験区については萌芽本数が多いことが考えられるため、試験区内の 3m×3m の区域で萌芽本数を
計測する。
○伐採株の萌芽状況調査(伐採株を残すヤナギ林の試験区のみ実施)
・株からの萌芽個体数、萌芽個体の高さを計測する。なお、萌芽個体数は株から直接生えているものの本数を計測し、萌芽個体から枝分かれしたものは計測しない。
・伐採株の写真を撮影し、変化を確認する。
【作業効率に係る項目】
○作業量調査
・各試験区(100m3)の伐採作業にかかった人工を記録する。
・初回伐採時、その後の処理(定期伐採、ブル踏み倒し、2 回伐採)の実施時に記録する。

表-10 モニタリング調査項目

また、試験施工およびモニタリング調査のスケジュールは表-11の通りとした。

表-11 試験施工、モニタリング調査スケジュール

5.おわりに
本検討では、今後の吉野川における効果的な樹木管理手法の策定を目的とし、他河川で実施された再樹林化を抑制する樹木管理手法の事例収集、それらの手法について効果を比較する試験施工の計画およびモニタリング調査計画の立案を行った。ヤナギ林は残された株および枝、竹林は地下茎からの再萌芽が再樹林化の要因となるため、それらの除去あるいは残される部分から再萌芽に必要となる養分を低減させておくことが対策になると考えられる。今後、試験施工のモニタリング調査結果より、各手法の再樹林化抑制効果および伐採作業効率を把握し、適正な樹木管理手法を設定していく必要がある。なお、今回吉野川において検討した手法は伐採に掘削が伴わないものであるが、掘削が伴う場合、冠水頻度を高めることや出水による攪乱などにより再樹林化を抑制する手法も検討する必要があると考えられる。
最後に、本稿の作成にあたり、ご指導頂いた国土交通省徳島河川国道事務所、樹木管理手法の事例収集にご協力頂いた各河川事務所などに厚く御礼申し上げる。

<参考文献>
1) 吉野川の河道管理(侵食対策)について,2017
2) 吉野川河道内樹木の管理について(案),2006
3) 佐貫方城,大石哲也,三輪準二:全国一級河川における河道内樹林化と樹木管理の現状に関する考察,2010
4) 小池孝良(編):樹木整理生態学,2004
5) 川崎智仁:河川の維持管理における中村河川国道事務所の取り組みについて,2016
6) 萱場祐一,槙島みどり,中西哲,赤松史一,田屋祐樹:河道内樹木の萌芽再生抑制方法事例集,土木研究所資料,2013
7) 渡辺哲理,松本洋光,渡邊一靖:留萌川における河道内樹木管理と維持管理方針の検討について,2016
8) 西村柾哉,姫野一樹,伊東秀規:河道内樹木伐採における再樹林化抑制について―取り組み状況とモニタリング方法―,2019
9) 長友久樹,薮和広:竹の伐採による駆除の成功事例と今後の展開について,2016

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