Eradication of invasive aquatic plants and restoration of indigenous aquatic plants in Kakita River
リバーフロント研究所報告 第 31 号 2020 年 9 月
自然環境グループ 研 究 員 中野 喜央
自然環境グループ 次 長 都築 隆禎
自然環境グループ 研 究 員 蔭山 一人
自然環境グループ グループ長 森 吉尚
1. はじめに
静岡県清水町を流れる柿田川は、湧水河川として知られており、ミシマバイカモなど貴重な水生植物が生育している。しかし、2003 年(平成 15 年)頃にオオカワヂシャなどの侵略的外来植物が移入・定着したことで、在来種への被圧・交雑の影響が懸念されていた。
これに対応するため、「柿田川自然再生計画」が 2012年(平成 24 年)3 月に策定され、2016 年(平成 28 年)3 月に改定され現在に至っている。今後、2021 年(令和 3 年)3 月には現計画の延長が予定されている。この延長予定の自然再生計画における水生植物の整備内容では、オオカワヂシャの駆除に加え、新たに在来種の再生がメニューとして挙げられている。
2. 外来種駆除の効果と在来種の生育状況
2-1 外来種オオカワヂシャの生育状況
当研究所では、2012 年から継続して柿田川における主な水生植物種の生育状況を確認している。
オオカワヂシャ(特定外来生物)については、2012年には柿田川の 0.45kp より上流側で生育が確認され(図-1)、その全体の生育面積は約 18,700 ㎡、密度の高い範囲(ブロン・ブランケの群度 5~3 に相当)も約 12,500 ㎡確認されていた。2012 年以後、全体の生育面積は 2014 年(平成 26 年)をピークに減少傾向ではあるが、大きな減少はみられていない(図-2)。しかし、密度の高い範囲は 2012 年以後大きく減少し、2019 年(令和元年)には 0.8kp 付近の約 250 ㎡まで範囲が縮減した。これは、地元の環境保護団体が主導す
る外来種駆除活動による効果が大きいと考えられる(図-3)。
2-2 在来種の分布状況
ミシマバイカモ、ナガエミクリ、カワヂシャ及びヒンジモといった貴重種を含む柿田川に生育する水生植物 10 種の、2012 年から 2019 年までの生育面積の経年変化を図-4に示す。
ミシマバイカモ(環境省レッドリスト 2019 のカテゴリ:絶滅危惧 IB 類。以下同様)については、確認を始めた 2012 年以後増加傾向にあり、2019 年には柿田川の 0.2kp より上流側に広く確認され(図-5)、生育面積は 2012 年の約 7,200 ㎡から約 19,300 ㎡と約 2.7 倍に増加している。
ナガエミクリ(準絶滅危惧)も 2012 年以後増加傾向にあり、その生育面積は 2019 年には約 3,200 ㎡と 2012年の約 1.7 倍となっている。カワヂシャ(準絶滅危惧)は 2012 年から 2013 年(平成 25 年)にかけて急増したのち安定し、2019 年に生育面積約 3,800 ㎡と 2012 年の約 20 倍となっている。
一方、ヒンジモ(絶滅危惧Ⅱ類)は 2012 年から 2013年にかけて急増したもののその後に漸減し、2019 年には生育面積約 230 ㎡が確認されるだけになっている。
図-1 2012 年のオオカワヂシャの分布
図-2 オオカワヂシャの生育面積の経年変化
図-3 2019 年のオオカワヂシャの分布
図-4 主な水生植物の生育面積の経年変化
図-5 2019 年のミシマバイカモの分布
3. 在来種の再生計画
オオカワヂシャは 2003 年に柿田川の広い範囲で確認されたが、それ以前の柿田川の状況を窺い知れる情
報として、2000 年(平成 12 年)7 月の柿田川における水生植物の生育状況の調査結果を図-6に示した。
2000 年当時の柿田川では、0.5kp 付近より上流ではミシマバイカモ、下流ではコカナダモが優占して生育し
ていた。
以後、オオカワヂシャが柿田川に移入し川の中流部を中心に生育面積を広げ、2012 年には柿田川の流域面
積約 42,000 ㎡の約 45%、コカナダモを含めた外来種 2種で約 53%を占めた。このように外来種により在来種のミシマバイカモの生育を阻害する状況となったが、オオカワヂシャを主に対象とした外来種駆除によりそ
の密度の高い範囲は大きく退行した(図-3)。
外来種駆除開始時、オオカワヂシャが退行した箇所には、オオカワヂシャが繁茂する以前のようにミシマバイカモを主とした在来種が再生すると考えられていた。しかし、在来種がオオカワヂシャの退行した箇所で必ずしも再生しているわけではないことが毎年の水生植物生育調査により確認されている。この原因として、オオカワヂシャが繁茂ののち駆除されたことによ り水深や流速などの環境が以前と変化したため、在来種の生育に好適な環境ではなくなった可能性が考えられるが、その原因に関する具体的な検討は現時点では行われていない。
柿田川自然再生計画では策定時から、オオカワヂシャに関する課題については「自然再生事業終了後は、自治体等が主体となって、将来にわたり再生活動を継続する」計画となっているため、オオカワヂシャ駆除後に在来種が再生しない箇所の在来種の再生活動についても、自治体等が主体となって行うことが必要とされる。
そのため、今後延長予定の柿田川自然再生計画では、水生植物に関する整備メニューとして、外来種駆除を
引き続き継続することに加え、「在来種の再生」が追加される予定となっている。新たに追加されるメニュー
の整備内容は「オオカワヂシャの駆除によりできた開放水面に在来種を移植し、在来種の再生を目指す」とされており、その移植方法について「専門的知識を有しない一般の人でも、安全にかつ効果的に」実施できる手法が現在検討されている。
図-6 2000 年の柿田川における水生植物の分布状況
4.おわりに
柿田川自然再生計画では、「湧水起源の清らかな流れと河畔林に覆われ、ミシマバイカモをはじめとした類い希で貴重な水草に覆われた柿田川の姿を、後世にわたって引き継いていく」ことが、柿田川の河川環境の保全・再生目標とされている。この目標達成までの道のりはまだ半ばであり、今後も外来種駆除を前提とし、さらに在来種の移植による再生を実施することで、ゴールに向かって進められる必要がある。
<参考文献>
1) 平成 31 年度 柿田川自然再生事業検討業務報告書:国土交通省中部地方整備局沼津河川国道事務所,2020
2) 平成 12 年度 柿田川環境調査業務報告書:国土交通省中部地方整備局沼津河川国道事務所,2001