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防災まちづくりの推進に資する沿川整備構想の改善に関する研究

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A study on riverine improvement strategies for disaster-resilient community development

リバーフロント研究所報告 第 31号 2020 年 9 月

まちづくり・防災グループ 次 長 竹内 秀二
技術参与 土屋 信行
まちづくり・防災グループ グループ長 阿 部 徹
主席研究員 水草 浩一
企画グループ グループ長 柏木 才助
まちづくり・防災グループ 研 究 員 渡邊 康示
まちづくり・防災グループ 研 究 員 阿部 充
まちづくり・防災グループ 研 究 員 二 瓶 智

1. はじめに
高規格堤防整備事業は、人口、資産等が高密度に集積した低平地等を抱える大河川において、堤防の決壊に伴う壊滅的な被害の発生を回避するため、まちづくりと一体となって幅の広い堤防を整備するものである。

防災まちづくりの推進に資する沿川整備構想の改善に関する研究

図-1 高規格堤防の基本断面及び機能 1)

2011 年 12 月からは「人命を守る」ということを最重視し、整備区間 873km のうち、ゼロメートル地帯等
の約 120km に集中して事業が進められていている。
国土交通省は、「高規格堤防の効率的な整備の推進に向けての提言」2)を 2017 年 12 月にとりまとめており、更なる整備推進のための具体的な推進方策の実施が求められている。
本稿では、20 年前に策定された「荒川沿川整備基本構想」について、その後の社会情勢や沿川のまちづくりの状況を踏まえて、高規格堤防整備とあわせて地域の課題を解決するために必要な手法に関する調査研究について報告する。

2. 調査研究内容
2-1 沿川自治体へのまちづくりに関する調査
沿川市街地の課題や沿川整備基本構想の内容について 2019 年に行った荒川下流部 8 自治体へのアンケー
ト調査結果をまとめると、以下のとおりとなる。
・ 沿川市街地の課題は、「水害や地震等の災害時の避難場所の確保」「狭隘道路・行き止まり道路の解消」「幹線道路不足の解消」が多かった。
・ 高規格堤防と一体的に市街地整備を推進するために必要なことは、「必要性についての住民理解」「まちづ
くりによる地域価値向上効果に関する住民理解」「住居仮移転を避ける住民負担の少ないまちづくり手法」が多かった。
・ 沿川整備基本構想に対する改善点の提案は、「災害時と平常時の役割について、わかりやすく説明する」
「目標や方針をイラスト等でわかりやすく説明する」「国、都、区、住民等の役割を示す」が多かった。
回収・整理したアンケート結果に基づき、4 自治体へ訪問してヒアリングした結果を整理すると、地元のニ
ーズは「高規格堤防の事業範囲を明示する」「ビジョンや構想、上位計画を示す」「国、都、区が連携する」「予算や制度で支援する」「地域住民の理解が必要」の 5 分野になった。

2-2 高規格堤防整備を推進するための課題を解決する方法
上記沿川自治体へのまちづくりに関する調査結果等を踏まえて、高規格堤防整備を推進するために地元ニーズ 5分野等へ対応する方法は、以下を提案したい。
・水害に強い市街地づくりを住民に理解していただくために、ゼロメートル地帯の水害危険性と広域避難困難性を、多くの手段を用いてわかりやすく説明する。
・高規格堤防整備の事業範囲を図上に示し、避難高台や垂直避難の各整備と併せて浸水時の防災効果を具体的な地域の事例で説明する。
・事前復興の効果を具体的に理解する必要がある。「レジリエンス確保に関する技術検討委員会(2018 年 6
月:土木学会)」3)では、荒川で巨大洪水が発生した場合の被害額は約 65 兆円と推計されている。これらの被害想定等を用いて、効果の大きい事業であることを認識する。
・水害対策とあわせて、地域の課題である火災対策、地震対策、道路整備、広場の整備や交通の利便性向上が実現できる地域ビジョンを作成し、目指すべき目標を行政と地域で意識できるように高規格堤防整備事業を諸計画に位置付ける。
・高規格堤防とまちづくりが一体化した上で、計画策定や事業調整が行われるように、都市計画マスタープランや防災計画に沿川整備基本構想を位置付ける。
・住民の希望をよく聞いて、住み慣れた生活環境やコミュニティを継承して、一度の移転で新しい生活が始められるような整備手法を普及する。
・工期短縮とコスト縮減を図るための工夫や技術を開発・活用する。
・計画策定や事業調整のために、行政間(国・都県・市区)で情報共有と相互調整の体制を構築する。

2-3 荒川沿川整備基本構想への追加項目
基本構想の見直しの際に必要と考えられる追加項目は、以下を提案する。
・「沿川整備の目標」として、高規格堤防はゼロメートル地帯に命山(台風や津波で地域が浸水するときに、住民が避難するためにつくられた人工高台の通称)の役割を持つことを記載する。
・「沿川整備の方針」は、地域の計画との関連を表すために、東京都の都市づくりグランドデザインや防災計画を反映する。
・「河川空間の活用方針」は、河川空間を含む一帯が、平常時には快適で、災害時にも防災機能を発揮し、生活を継続できる場所として記載する。
・「沿川地域の整備構想」に、高規格堤防全体完成時の姿を示す構想図を作成し掲載する。

図-2 ゼロメートル地帯「命山」イメージ

2-4 合意形成の手法
沿川自治体の事業執行にとって大きな影響を与える合意形成の手法で必要な内容は、下記を提案する。
・ 工程や施行範囲が分かるように、短期、中期の目標整備量を設定する。
・ 広域避難地の配置を描いて、防災上の優先度、市街地整備上の優先度、事業化困難度などの項目で段階評価して、優先的に整備を進める地区の選定基準を設定する。
・ 国、都県、市区、地元の手続きの進捗をできるだけ多くの手段を用いて、住民へ周知する。

3. おわりに
スイスの再保険会社が発表した 2013 年の「自然災害で最も危険な都市ランキング」4)では、世界の 616 都市を対象に、地震、暴風雨、高潮、津波、洪水で被災する人の数を推計した結果、東京・横浜が 1 位、つまり世界で 1 番被害者が多い危ない都市と位置付けられた。
東京のゼロメートル地帯の 5 区長は、2015 年 10 月に広域避難推進協議会を設立し、2018 年 8 月に「江東5 区で水害が発生したら・・・ここにいてはダメです」を発表した。実際に 2019 年 10 月の台風 19 号では、江戸川区の 43 万人に避難勧告が発令された。
日本の首都東京は、都市として発展しなければならない。リスクが低減して安全な場所になれば、まちが賑わい、居住者も増えて、周辺地域から東京への長距離通勤に苦しむ人も軽減され、地域の発展への条件が増えていくと考えられる。
関係者が協力して、20年を経た「沿川整備基本構想」を見直して、一刻も早く事業に着手し、何時来るかも
しれない災害に備えていくことが必要である。

<参考文献>
1) 荒川下流河川事務所 HP から引用
2) 高規格堤防の効率的な整備の推進に向けて提言:高規格堤防の効率的な整備の検討会,H29.12
3)「国難」をもたらす巨大災害対策についての技術検討報告書:公益社団法人土木学会,平成 29 年度会
長特別委員会レジリエンス確保に関する技術検討委員会,2018.6
4) 2013 年の「自然災害で最も危険な都市ランキング」:スイスの再保険会社スイス・リー(Swiss Re)

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0903都市及び地方計画0904河川砂防及び海岸海洋
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