2019-05-31 特許庁
特許庁は、将来の市場創出・拡大が見込める最先端分野である「がん免疫療法」、「次世代建築技術」、「パワーアシストスーツ」及び「仮想通貨・電子マネーによる決済システム」などの12の技術テーマについて、特許・論文情報を調査・分析した報告書を取りまとめました。
1.特許出願技術動向調査とは
各国における研究開発の進展により、世界全体の特許出願件数は年々増加しています。このビッグデータと言える特許情報を、論文情報等と併せて分析し、各国や各企業の研究開発動向を把握することは、企業・大学・研究機関等が開発戦略・知財戦略を策定する上で非常に有用です。
そこで、特許庁は、最先端の技術分野を中心に技術テーマを選定し、特許出願技術動向調査を実施しています。
2.調査結果の概要
平成30年度は、以下の12の技術テーマを選定し、特許・論文情報の調査・分析を実施しました。
- ハイバリアフィルム
- 電池の充放電技術
- 樹脂素材と異種素材との接合技術
- 電子ゲーム
- パワーアシストスーツ
- がん免疫療法
- 人工関節
- 仮想通貨・電子マネーによる決済システム
- 次世代建築技術
- ストレージクラスメモリ
- ドローン
- 三次元計測
これらのうち、「がん免疫療法」、「次世代建築技術」、「パワーアシストスーツ」及び「仮想通貨・電子マネーによる決済システム」について、以下紹介します。
がん免疫療法
がん免疫療法は、革新的ながん治療法であり、昨年、本庶佑教授(京都大)が、がん免疫療法の1つである免疫チェックポイント阻害療法の開発への貢献が認められ、ノーベル生理学・医学賞を受賞しました。本調査では免疫チェックポイント阻害療法等のがん免疫療法※を調査対象としました。
免疫調節に用いられる免疫チェックポイント阻害剤単独での奏効率※※は20%程度であることから、併用療法による奏効率の向上が期待されています。併用療法に係る特許出願件数は、近年増加しています。一方で、養子免疫療法や腫瘍溶解性ウイルス療法と組み合わせた併用療法に関する特許出願件数はまだ多くはないことから、日本企業・大学も参入する余地があると推測されます。
今後、様々ながん免疫療法の組み合わせが研究され、大幅な治療効果の向上をもたらす日本発の併用療法の開発が期待されます。
※本調査では、免疫調節(免疫チェックポイント阻害療法を含む)、養子免疫療法、腫瘍溶解性ウイルス療法、がんワクチン療法の4技術を対象に調査
※※あるがん治療法を患者に用いた際、その治療を実施した後にがん細胞が収縮もしくは消滅した患者の割合
(左図:免疫チェックポイント阻害療法との併用療法の出願件数推移
右図:各併用療法のファミリー件数)
次世代建築技術
次世代建築技術として、i-Construction※に代表されるような、建設技術(インフラ及び建物の設計・施工・メンテナンス技術等)や建設物利用技術(建物の衛生設備や家電等)においてICT技術を利用しているものについて調査を実施しました。建設・土木業界においては、就業者数の減少及び高齢化が進行しており、ICT技術の活用による生産性向上が喫緊の課題です。
住宅・オフィス等における建設物利用技術の出願件数ランキングは、近年、建設業界以外のプレーヤーが上位となっており、多岐に渡るICT技術が活用されています。また、BIM※※の利用に関する出願は近年増加傾向ですが、建設物利用技術でのBIMの利用に関する出願は、建設技術でのBIMの利用に関する出願に比べて少ない結果が出ています。建設物利用技術でBIMを活用することで、各種サービスを提供する企業等と連携してICT技術を効果的に活用し、より高度な都市や住宅を目指すことが重視されます。
※「ICTの全面的な活用」等の施策を建設現場に導入することによって、建設生産システム全体の生産性向上を図り、もって魅力ある建設現場を目指す取組。2015年11月に国土交通大臣より提唱。
※※3次元の建物形状や空間関係、地理情報、建物部材の数量や特性の情報を持たせ、建物の設計、施工から維持管理までのあらゆる工程で情報活用を行うための手法。
(近年の建設後の建設物利用技術への出願ランキング)
(建設技術・建設物利用技術へのBIMの適用推移)
パワーアシストスーツ
パワーアシストスーツは、身体に装着し、装着者又は作業対象に対して作用することで、歩行、立ち上がり、持ち上げといった身体動作の支援や、身体機能の改善・治療等を行うものです。パワーアシストスーツの日米欧中韓における市場規模(出荷台数ベース)は、2016年に約16万台であり、今後、年平均成長率約17.1%で拡大していくと予想されています。
人体に直接装着するパワーアシストスーツは、安全性が重視されます。日本は「安全性」に関する技術の特許出願件数において、日本はトップですが、直近では中国、韓国からの特許出願が急増しています。また、「データの収集・活用」に関する技術の特許出願件数においても、日本がトップですが、論文発表数は欧州がトップという結果が出ています。各種技術について、現在の日本の強みと、今後の中核技術になりうるかどうかの見定めに基づく集中と選択をしなければなりません。
(「安全性」の出願件数比率)
(「データの収集・活用」の出願(左)及び論文(右)件数比率)
仮想通貨・電子マネーによる決済システム
日本の現金決済による直接コストは年間1.6兆円を超えるとされています。また、キャッシュレス化には、資産運用の活性化や電子決済関連市場の成長等、潜在的な効果があります。しかし、日本のキャッシュレス比率は他国に比べて低いため、仮想通貨・電子マネーによる決済システムに関する技術開発が求められています。
近年注目を集める「仮想通貨」の出願について、日本では件数が少ない一方で、米国では継続的な出願があり、中国は2016年に出願が突出しています。
キャッシュレス化推進に向け、経済性および利便性の向上や、安全性の維持・確立ができる技術開発を強化するとともに、将来に向けて持続的に技術が発展していくような基盤構築をすべきと考えられます。
(「仮想通貨」の出願件数推移)
(ブロックチェーンの要素技術の出願件数推)
関連リンク
関連資料
担当
特許庁 総務部 企画調査課長 今村
担当者:薄井、小池、根生