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地域が一丸となって対応する “水防活動”を“支援”する“技術”

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(研究期間 : 平成 29 年度~令和元年度)
河川研究部 水害研究室
主任研究官 武内 慶了
室長 板垣 修

(キーワード) 水防活動,水防団,水害被害軽減,支援技術

1.総力をあげて洪水に対応していく時代の到来
平成28年台風第10号、平成29年7月九州北部豪雨や平成30年7月西日本豪雨、更には令和元年10月台風第19号等により、近年、毎年のように河川の流下能力を上回る規模の洪水が各地で発生し、地域社会に、人的被害を伴う甚大な被害をもたらしている。今後も、気候変動の影響等により、流下能力を上回る洪水の発生頻度の高まりが予想される。この対策として、河川整備の積極的な推進による氾濫生起頻度の低減(防災)と被害制御(減災或いはリスクマネジメント)を包括的に進めていくことが極めて重要である。このためには、河川管理者(主に国、都道府県)及び水防管理者(主に市町村)、地域が総力をあげて洪水に対応していかなければならない。本稿では、前述の被害制御の有力な手段の一つである「洪水時に地域が一丸となって対応する被害制御活動(以下、水防活動)」に焦点を当てる。水防活動を効果的かつ合理的に実施し、もって水害被害を軽減、つまり地域社会への影響を可能な限り抑え込むために、河川管理者が支援していくべき技術(以下、水防活動支援技術)は何なのか。本研究は、“情報”に着目した水防活動支援技術の提案を目的とする。

2.内容が多岐に渡る水防活動実態
水防活動支援技術を提案するためにはまず、水防活動の実態を把握することが前提となる。そこで、本研究では3か年で延べ12の水防管理団体及び水防団(消防団を含む)からヒアリングを行い、水防活動実態を詳細に把握した。得られた共通的事項を示す。1)大河川からの越水や堤防変状への対処(土のう積み等)の前に、支川氾濫や内水浸水に伴う対応が生じる。2)支川氾濫や内水浸水に伴う対応は、土のう作製・運搬、支川や家屋付近の積み、避難誘導、家財保全活動支援、浸水道路での注意喚起、ボートでの救助活動、排水作業等多岐に渡り、その労力が大きい。3)そのため、ひとたび生じれば地域に甚大な被害をもたらす、大河川からの氾濫危険性への対処が困難な場合も生じ得る。また、ⅰ)浸水や氾濫が生じやすい箇所の認識度合い、ⅱ)水防活動主体の多様性(多岐に渡る水防活動内容の役割分担の方法)、ⅲ)水防活動実施に関し意思決定を行う実質的主体等については、地域によって違いがあり、この違いは浸水被害経験の頻度や都市化の状況も関係し
ているようであった。

写真-1 水防活動実態ヒアリングの様子

3.地域の実態を踏まえた水防活動支援技術
前章に述べた水防活動実態から、水防活動は「豪雨に伴い河川からの氾濫危険度が高まっていく過程において、地域で生じる浸水等による被害を防止・軽減するための活動全般」と解釈できよう。この時系列イメージを図-1に示す。この解釈に従えば、水防活動支援技術は、「今、この地域はどのような危険にさらされているか」や「次にこの地域でどのような危険が生じるか」といった、地域に立脚し、水防活動内容の選択及び実施の判断を支援する情報提供の優先度が高いと考えられる。
上記を踏まえ、水防活動支援技術を、それにより得られる効果の評価手法とともに、以下のように提案する。この結果、支川氾濫・内水浸水に伴い生じる水防活動を効果的・効率的に行うことができ、その後に生じるであろう「ひとたび起きれば甚大な影響をもたらす大河川からの氾濫への対処時間」が確保され、もって地域の被害軽減につながることが強く期待される。

図-1 地域で生じる変状と求められる水防活動の時系列進展イメージ

(1)支川及び大河川の水位予測情報
図-2に示すように、越水氾濫の危険度が高い区間の水位予測情報が提供されることにより、水防活動の準備時間、現地での水防活動実施者の配置検討時間等が確保されるとともに、巡視箇所の絞り込みにより、水防活動のより効果的な実施が期待される。また、大河川の水位予測において堤防上の越流水深の程度を踏まえることにより、現地での活動者を退避させるか判断することにも役立つ。
(2)支川氾濫及び内水による浸水予測情報
図-2に示すように、大河川からの氾濫に先んじて発生する場合が多い支川氾濫及び内水浸水状況の予測情報を提供することで、道路の通行止めやポンプ排水等の活動が後手になるのを防ぐ。また、住民の避難ルートの誘導方法の検討時間も確保され、より安全な状況での避難に寄与する。
(3)支川及び大河川の水位現況
大河川のみならず、支川の水位現況も把握することにより、(1)の予測情報に基づく水防活動準備から、活動実施に切り替えるタイミングを逸することを防ぐ。

図-2 水防活動支援技術としての予測情報の重ね合せイメージ(“地域”の変状の予測情報)

(4)相対的な人的被害の起こりやすさに着目したリスク情報図1)
このリスク情報図は、大河川からの氾濫による浸水想定図に、支川氾濫・内水による浸水想定図を重ね合せ表示したものである。避難時に移動困難となりやすく、かつ、大河川が氾濫すれば人的被害発生の可能性が高いと考えられる、相対的な高リスク地区の絞り込みを可能とする。戸別訪問による避難誘導を優先する地区の事前把握により、避難誘導等をより効果的に行えると考えられる。

4.水防活動支援技術を活用した地域の被害防止に向けて
以上のように見出した水防活動支援技術を社会実装し、地域の被害防止を実現するため、今後はモデル流域にこれら支援技術を試験適用し、実際に活用いただきながら新たな課題の抽出・解決を行い、地域防災活動支援情報基盤を構築する予定である。

☞詳細情報はこちら
1) 武内・小林・板垣:水防活動実態の把握及び避難誘導に着目した水防活動支援技術の提案,河川技術論文集第25巻,pp.145-150,2019.

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0904河川砂防及び海岸海洋
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