Consideration of the confirmed condition through the revision of the avian manual of the National Census on River Environment (Part 3)
リバーフロント研究所報告 第 31 号 2020 年 9 月
自然環境グループ 研 究 員 蔭山 一人
次 長 都築 隆禎
主席研究員 宮本 健也
1.はじめに
「平成 28 年度版河川水辺の国勢調査 基本調査マニュアル[河川版]」の改訂版が平成 28 年 1 月に公表され
た。この改訂に伴い、スポットセンサス法による調査個所間隔を 1km 毎から、河川管理区間延長が 30km 以上の河川については 2km 間隔に変更 2)するとともに、河川環境縦断区分ごとにホットスポットを設定し、必要に応じて調査箇所を追加することとなった。
調査箇所の変更は、これまでの調査結果から、確認種数が改訂前の 90%以上であることを確認して設定し
ている。これは、調査手法の見直し等によるコスト縮減を図るため、河川水辺の国勢調査改善検討委員会において検討したものである。
本稿では、平成 28 年度、平成 29 年度の調査結果の検証に引き続き、平成 30 年度調査についても同様に、
マニュアル改訂前後のスポットセンサスの出現状況から、マニュアル改訂による調査結果への影響の検証を行った。
2. 検証対象河川
検証対象となる河川は、H28 年度から H30 年度の 3 か年で実施された鳥類調査のうち、河川管理区間延長が30km 以上でスポットセンサス法による調査個所が 2km間隔となった 19 水系 26 河川である(表-1)。
表-1 各年度の検証対象河川数
3. 検証結果
スポットセンサスの確認種数を目別に集計し、マニュアル改訂前後の種数の比較を行った。また、減少が見られた目の種の生態から要因について検証した。
検証の結果 19 水系 26 河川のうち、前回調査に対する確認種数の割合が 90%以上の河川は 17 河川(65.4%)で、90%を割り込んだ河川は 9 河川(34.6%)であった。この 9 河川のうち、網走川、高瀬川、鬼怒川、中川、円山川の 5 河川については 85.0%未満とさらに大きく割り込んでいた。
表-2 各年度の前回調査に対する割合
4.考察
4-1 見直しによる影響とその要因
検証の結果、前回調査に対する確認種数の割合が 90%以上あった 17 河川では、確認種数への影響は小さいことが確認された。
前回調査から種数の減少が見られた河川では、カモ目、シギ・チドリ目等の渡り鳥の減少が目立った。渡り鳥は台風等の気象的な影響を受ける他、生息環境の変化等の複数の要因から、確認種数に変動があった可能性が考えられた。
前回調査に対する確認種数の割合が 90%を割り込んだ河川のうち、減少が特に大きかった 5 河川について、主な要因を考察した(表-3)。
(1) 生息環境による要因:網走川、高瀬川、鬼怒川、中川、円山川
主な生息環境が山林等で元々生息数が少ないなど、周辺からの移動で偶発的な出現により確認されていた種を確認する事ができなかったと考えられる。
(2) 生態的な要因(渡り等):網走川、高瀬川、鬼怒川、中川、円山川
渡り等の季節移動に伴って、確認状況に変動が見環境・生態系の基本的課題に関する研究報告られる種を確認することができなかったと考えられる。
(3) 自然現象による要因 5) 6):網走川
台風等の気象条件や増水の影響によって、一時的に確認することができなかったと考えられる。
(4) 災害等による要因 6) 7):鬼怒川
自然災害及び災害復旧工事によって、生息環境に大きな変化が起こったため、種数の増減に影響を与
えたと考えられる。
(5) 河川の環境縦断区分による要因 8) 9):網走川、高瀬川
環境縦断区分延長が短い区間は鳥類の調査箇所(以下「スポット数」という)が少なく、さらにスポ
ット数が半減したことによって、種数の増減に影響を与えたと考えられる。
4-2 見直しによる効果
スポット数が 1km から 2km 間隔になった河川については、調査スポット数が概ね半減されているが、確認
種数に影響が少ないことを確認した。このことから、調査手法の見直し等によるコスト縮減の目標は達成されたと考えられる。
5.まとめ
スポット数が 1km から 2km 間隔になった河川について検証を行った結果、マニュアル改訂後の確認種数(スポットセンサス確認種)が改訂直前の調査結果の 90%を割り込む河川が見られた。
確認種数の減少については、検証の結果から生息環境の分布、渡り鳥等の季節移動する鳥類の確認状況による要因、及び台風等の自然現象による要因の可能性が考えられている。平成 29 年度調査結果の検証では、新たに自然災害及び災害復旧工事による要因、複数の環境縦断区分が含まれ且つ延長が短い事による要因もあることがわかった。
環境縦断区分延長に要因のある河川については、次期巡目前の全体調査計画見直しの際に、スポット数を1km 間隔に戻す、ホットスポットの追加等の検討が必要と考えられる。また、自然現象や工事等による人為的なかく乱の影響が考えられた河川については、次期巡目の調査結果から回復の動向を見る必要があると考
えられる。
鳥類調査はまだ 5 巡目の調査途中のため、今後も調査が実施される河川について、スポット数の間隔が 2kmとなった影響について、生息環境、生態、自然現象による要因の他、複数の環境縦断区分が含まれ且つ延長が短いなどさまざまな影響について検証していく必要があると考えられる。さらに、昨今の出水等による自然災害及び災害復旧工事の影響についても確認が必要と考えられる。
<参考文献>
1) 平成 18 年度版河川水辺の国勢調査 基本調査マニュアル[河川版]
2) 平成 28 年度版河川水辺の国勢調査 基本調査マニュアル[河川版]
3) 河川環境データベースhttp://www.nilim.go.jp/lab/fbg/ksnkankyo/
4) 気象庁過去の台風資料:台風経路図,平成 28 年
http://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/typhoon/route_map/bstv2016.html
5) 平成 28 年 8 月 20 日からの大雨による出水の概要(速報版):網走開発建設部,平成 28 年 8 月 26 日
6) 平成 27 年 9 月関東・東北豪雨に係る洪水被害及び復旧状況等について:国土交通省関東地方整備局,
平成 29 年 4 月 1 日
7) 平成 28 年熊本地震 緑川・白川等の被災・復旧状況をまとめました。(速報版):報道発表資料,国土交通省,平成 28 年 4 月 24 日
8) 網走川水系河川水辺の国勢調査 全体調査計画書:網走開発建設部,平成 28 年 3 月
9) 高瀬川水系河川水辺の国勢調査 全体調査計画書:高瀬川河川事務所,平成 28 年 3 月
表-3 減少の大きかった河川の想定される減少要因
注) ●は大きな要因となっているもの、△は要因のひとつと考えられるもの