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気候変動による河川計画対象降雨量の変化

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国総研レポート 2020(研究期間 : 平成 30 年度~)
国土技術政策総合研究所 河川研究部 水循環研究室
室長 川崎 将生 主任研究官(博士(工学)) 土屋 修一 研究官
研究官(博士(工学)) 工藤 俊  研究官 幕内 加南子

(キーワード) 気候変動,アンサンブル気候モデルデータ量

1.はじめに
近年、頻発する豪雨災害など、気候変動の影響が顕在化していることを実感することが多くなった。IPCC第5次報告書によると、気候システムの温暖化には疑う余地がなく、今後、気候変動の影響による被害の拡大がより深刻になるおそれがある。このような状況下において、気候変動を考慮した河川整備への転換は喫緊の課題である。
国総研では、河川整備の計画対象降雨に気候変動の影響を反映する手法について検討している。ここでは、河川整備の目標とする低頻度の極端現象の議論に適した気候予測である長期アンサンブル計算のデータを使用して、気候変動による河川計画対象降雨量の変化について分析を行った結果を紹介する。

2.降雨変化倍率の算出
気候変動下における豪雨の降雨量の変化倍率は、複数の長期アンサンブル気候モデルの雨量データを用いてDAD解析を行い、過去実験(1951~2010年の気候状態)および将来実験(2051~2110年の気候状態)による確率規模降雨量の比をとることで算出する。ここでは、d4PDF1)の、解像度約20kmで日本域をカバーする領域実験の出力結果のうち、過去実験および将来4℃および2℃上昇実験に対して、気象研究所の非静力学地域気候モデルNHRCMを用いて解像度約5kmにダウンスケーリングした2種類の出力による計算について示す。
降雨量の変化倍率を算出する領域として、全国をいくつかの地域に区分した。水文・気象分野で実用に供されている地域の区分方法をもとに、複数の地域の区分方法について、統計的な検証を行い、地域の区分方法の妥当性の比較を行った。検証を行った地域の区分方法は、想定最大規模降雨に関する地域の区分方法2)、地域別比流量図をもとに同一性の割合が高くなるように修正した地域の区分方法3)、気象庁・地方季節予報の予報区分4)である。結果として、地域区分内の最大降雨の確率分布の同一性の観点からは、地域の区分方法の妥当性には大差がなく、降雨量の変化倍率の分析にあたっては、同一水系内で降雨イベントが分断されないよう分析することが望ましいと考え、地域区分を跨ぐ水系がない区分である想定最大規模降雨に関する地域の区分方法を選択した。選択した地域の区分を図-1に示す。

図-1 検討に使用した地域の区分

図-1の地域毎に、将来の降雨量の変化倍率の算出
を行った。算出手順を以下に示す。

1)過去実験・将来実験のそれぞれのデータについて降雨継続時間・雨域面積・降雨継続時間積算雨量の関係を各年毎に整理する(DAD解析)。雨域面積は、積算雨量が閾値以上の雨域で、空間的に連続した雨域を抽出する。
2)年毎の積算雨量と雨域面積の関係から積算雨 の最大値の包絡線を作成する。
3)ある年の積算雨量の最大包絡値は、その年の任意の雨域面積に応じた年最大雨量となることから、雨域面積毎に、各年の積算雨量の最大値を用いてグンベル分布により確率降雨量を算出する。
4)過去実験、将来実験のそれぞれで算出される確率降雨量の比をとることで、降雨量変化倍率を求める。
2)~4)を降雨継続時間毎に行うことで、雨域面積と降雨継続時間を任意に組み合わせた降雨量変化倍率を得ることができる。

3.降雨変化倍率の算出結果
 算出結果の一例として、将来、気温が4℃および2℃上昇すると想定した気候予測モデルのデータから算出した降雨変化倍率について、雨域面積1600km2、降雨継続時間24時間の組み合わせの海面水温モデル毎の100年確率降雨の変化倍率を図-2および図-3に示す。

図-2 4℃上昇時の雨域面積1600km2における降雨継続時間24時間の海面水温モデル毎の降雨量変化倍率

図-3 2℃上昇時の雨域面積1600km2における降雨継続時間24時間の海面水温モデル毎の降雨量変化倍率

4℃上昇時には、北海道北部と北海道南部、九州北西部における6海面水温モデルの平均値が、その他の各地域よりも比較的大きくなる結果となった。2℃上昇時には、北海道北部と北海道南部における6海面水温モデルの平均値が、その他の各地域よりも比較的大きくなる結果となった。これは、地域の緯度が高くなるにつれて気温の上昇率が大きいために5)、北海道における飽和水蒸気圧の上昇率が比較的大きくなること6)や、いずれの海面水温モデルにおいても海面水温の上昇が北海道や九州北西部の周辺で大きくなっていることによるものと考えられる。
d4PDFを用いて、河川計画対象降雨量の将来変化に関する分析を行い、地域毎の雨域面積および降雨継続時間の対応を考慮した将来降雨量の変化倍率の算出を行った。これにより、今後の河川計画の外力設定に関する検討への活用が期待される。

4.今後の予定
今後、気温が2℃上昇すると想定したデータを用いて、将来変化の要因分析に関するより詳しい整理を行う。

参考文献
1) 地球温暖化対策に資するアンサンブル気候予測データベース:http://www.miroc-gcm.jp/~pub
/d4PDF/index.html
2) 国土交通省水管理・国土保全局:浸水想定(洪水、内水)の作成等のための想定最大外力の設定手法、平成27年7月
3) 国土交通省国土技術政策総合研究所:気候変動適応策に関する研究(中間報告)、国土技術政策総合研究所資料、第749号、平成25年8月
4) 気象庁:http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/kisetsu_riyou/image/png/chihou_kubun.png
5) 国土交通省水管理・国土保全局:第5回気候変動を踏まえた治水計画に係る技術検討会 資料5 気候変動を踏まえた治水計画のあり方 提言(案) 参考資料
6) 環境省ほか:気候変動の観測・予測及び影響評価統合レポート2018 ~日本の気候変動とその影響~ 2018年2月

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