炭素循環型社会の実現に向けた,CO2の新たなリサイクル技術
2019-05-13 株式会社IHI
株式会社IHI(本社:東京都江東区,社長:満岡 次郎,以下「IHI」)は,シンガポール科学技術庁(*1)(A*STAR:Agency for Science, Technology And Research)傘下の化学工学研究所(*2)(ICES:Institute of Chemical Engineering and Sciences)と共同開発したメタン化触媒を用いて,CO2からメタンを製造するメタネーション技術(以下「本技術」)のデモ装置を開発しました。5月10日,シンガポール内の電力・化学業界などのお客さま約30名を招き,ICES内に設置したデモ装置のオープニングセレモニーを開催しました。
2015年にCOP21で採択されたパリ協定では,世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃未満に抑える長期目標が掲げられ,その中で,日本は2050年までに2013年度比で温室効果ガスの排出量を80%削減することを目指しています。世界的な人口増加・都市化の進展により,今後エネルギー需要が一層増加すると見込まれる中で,環境負荷を抑えつつも,増大するエネルギー需要に応えることは,社会的な課題です。この目標の達成に向けて,温室効果ガスのひとつであるCO2の排出量の抑止に加え,CO2の回収・再利用技術の確立が求められています。
IHIは,脱CO2・循環型社会の実現に向けた様々な技術開発を行っており,その一環として,生産・発電等の過程で排出されるCO2を回収・再利用し,水素と反応させることで,メタンを生成する本技術の開発に取り組んでいます。本技術によって生成したメタンを,既存のパイプラインに供給することで,発電用燃料や都市ガスとして利用することが可能です。本技術の実用化に向けては,反応しにくいCO2を触媒によって活性化させることで,効率良くメタンに変換することが不可欠である一方,反応による発熱などにより触媒が劣化するため,長期間安定して使用できる高い耐久性が必要です。IHIは,ICESと2011年より共同研究を行い,高い反応効率と耐久性を兼ね備えた独自のメタン化触媒を開発しました。
シンガポールでは,2019年1月から,発電所や化学工場などに炭素税の適用が開始されており,CO2排出量の削減を目指す,電力・化学業界などの様々なお客さまへ,本技術の提案を行っていきます。また,IHI技術開発本部(神奈川県横浜市)でも,性能検証・実証を進めており,今後,よりスケールアップした実証試験を,国内で行う計画です。
現在,本技術に加えて,プラスチックや樹脂の原料として利用できるエチレンやプロピレンなどのオレフィン類をCO2から製造する技術など,様々な技術開発を行っています。IHIは,お客さまごとに最適な総合ソリューションを提供することにより,脱CO2・循環型社会の実現に貢献することを目指し,今後も技術開発に取り組んで参ります。
(*1)
シンガポール科学技術庁(A*STAR):シンガポールの科学技術研究の中核をなす公共セクターであり,世界クラスの科学研究と人材育成を通じて,シンガポールが活気ある知識基盤型社会を形成することを目的とする法定機関。シンガポールの既存産業セクターの成長および新規成長産業の創出に必要な研究・開発分野を監督・支援しており,知的資源・人的資源等の産業パートナーへの提供を通じて産業クラスター形成の支援を行っている。
(*2)
化学工学研究所(ICES):A*STARの傘下で,触媒,バイオ,有機・高分子など幅広い分野の科学や化学工学に関する研究開発を行う研究機関。
所在地: 1 Pesek Road, Jurong Island, Singapore 627833
代表者: Dr. Peter Nagler, Executive Director
(添付資料)
ICES内に設置したメタネーション技術のデモ装置
オープニングセレモニーの様子