機械の血液「潤滑油」をオンライン診断
2018/11/30 農研機構
ポイント
運転中の大規模ポンプ設備の潤滑油を常時分析・評価することにより、ポンプの異常兆候をリアルタイムに検出する遠方監視システムを開発しました。異常データが発生すると設備管理者の携帯端末に自動で通知されることにより故障停止の危険性を察知できます。
概要
農業用ポンプ場は、農地や地域の用水及び排水を担う重要な施設です。平成28年3月時点で、農業用ポンプ場は全国で約3千カ所整備されており、その中の約7割は設計耐用年数を超過しています(参考資料1)。全国の大規模ポンプ場の中には、農地だけでなく住宅地を含む地域全体を洪水被害から守り、暮らしを下支えしている施設も多く存在します。このようなポンプ場の突発的な故障停止は大きなリスクとなります。このため、ポンプの劣化状態を診断し、異常兆候をリアルタイムに捉える技術が必要とされていました。
今回、農研機構とトライボテックス株式会社、株式会社クボタは共同で、ポンプを分解することなく、運転中のポンプ設備の潤滑油を常時分析・評価することにより、設備の異常兆候をリアルタイムに検出・通知する遠方監視システムを日本ではじめて開発しました。
本システムは、あらかじめ設定した管理基準値を超える異常データを検知すると、アラートを設備管理者の携帯端末(スマートフォン等)に自動通知します。管理者は遠方から現状または過去の蓄積データを閲覧することができ、それらの情報に応じて故障停止を回避する対応をとることができます。
本システムは、どのメーカーのポンプにも設置可能で、新設されるポンプへの導入はもとより、既存のポンプに対しても軽微な改造を行うことにより追加できます。また、潤滑油診断手法はポンプ設備に限るものではなく、回転部に潤滑油を使用する大型の回転機器への応用が可能です。平成30年度より販売開始予定としており、価格は1,000万円程度を予定しています。
【関連情報】予算:戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)基幹的農業水利施設の戦略的なアセットマネジメント技術の開発
お問い合わせ
研究推進責任者:農研機構農村工学研究部門 研究部門長 白谷 栄作
研究担当者:同 施設工学研究領域 中嶋 勇
広報担当者:同 広報プランナー 遠藤 和子
詳細情報
開発の社会的背景と経緯
大規模な農業用ポンプ場の中には、農地だけでなく住宅地を含む地域全体を洪水被害から守り、暮らしを下支えしている施設も多く存在しています。このようなポンプ施設では、安全かつ安定的な施設管理が求められ、突発的な故障停止は大きなリスクとなります。
今回農研機構は、民間企業と共に、運転中のポンプ設備の潤滑油を連続的に分析・評価することにより、設備の異常兆候をいち早く検出し、ポンプ設備の突発的故障停止を未然に防ぎ、安全に稼働させるための遠方監視システムを開発しました。
開発した遠方監視システムの特長
- 遠方監視システムは、ポンプと計測装置、状態監視サーバから構成されます(図1)。ポンプの回転部と計測装置本体を取付配管で連結し、潤滑油を計測装置の中に循環させながらおよそ30~40秒間隔で計測を行います。潤滑油の酸化劣化と水分混入の程度、並びに油中の金属摩耗粒子数を粒径別に計測でき、これらのデータから潤滑油の劣化・汚染、機器の摩耗状態を評価します(図2)。計測装置で得られた機能診断情報は外部機器に送信され、状態監視サーバに蓄積されます。ポンプの管理者は遠方からでも状態管理サーバを介してポンプの状態を確認することができます。
- ポンプ場の管理者は、端末装置を介して状態監視サーバに蓄積された機能診断情報を閲覧し、その情報をもとにメンテナンスの必要性を随時判断することが可能です。さらに、計測値が管理基準値を超過した場合は、状態監視サーバを介して、登録した携帯端末に異常兆候の発生が自動通知されます(図3)。
- このように、遠方監視システムを導入することにより、ポンプ設備が故障停止に至る前に適切かつ迅速な対処が行えます。
- 遠方監視システムの活用例として、ポンプ場の管理者は、機能診断情報をもとに潤滑油の酸化劣化や水分混入の状態を確認し、適切な潤滑性能を発揮できないと判断した場合には、潤滑油を交換することが想定されます。また、潤滑油に含まれる金属摩耗粒子の粒径及び個数から機械部品の摩耗程度を判断し、機械部品の交換時期を決定することもできます。計測装置のみの情報で判断が困難な場合には、ポンプから潤滑油を採取し、さらに詳細な機能診断を行うこともできます。
- 本システムは、大規模ポンプ設置の更新工事等に併せて導入することが効果的ですが、既設のポンプにも軽微な改造を行うことにより追加設置できます。
今後の予定・期待
今年度内に販売開始予定であり、価格は1,000万円程度を予定しています。なお,受注生産のため製作には3ヶ月ほどの期間が必要です。本システムで得られた潤滑油の情報は、農業用ポンプに関する独自の管理基準を定めていく上でも極めて重要なデータとなります。さらに、本システムは、対象をポンプ設備に限るものではなく、回転部に潤滑油を使用する大型の回転機器も対象となります。今後は、IoTを活用することで誰でも簡単に「機械の血液である」潤滑油をオンライン診断ができる技術開発を目指します。
参考資料等
- 平成29年度第2回農林水産省食料・農業・農村政策審議会農業農村振興整備部会技術小委員会資料3「土地改良事業計画設計基準及び運用・解説設計「ポンプ場」の改定について」
- 國枝(2017)農研機構研究報告農村工学研究部門、1:31-78
- 國枝(2017)月間建設物価10月号、記事15-19
- 國枝ら「回転機器の検査装置、回転機器及び回転機器の状態管理システム」
(特願2017-248631(2017年12月26日))
参考図
図1 遠方監視システムの構成
ポンプと計測装置(モニタ・潤滑油分析装置)、状態監視サーバで構成されます。
図2 本システムによる計測データのイメージ図(○印は潤滑油を手動採取する従来法の測定)
連続的にデータを計測することにより、異常の兆候を見逃さずに捉えることができます。
本監視システムでは、潤滑油の酸化劣化と水分混入の程度、並びに油中の金属摩耗粒子数を計測できます。
図3 端末装置と携帯端末の画面表示
ポンプ設備の状態を携帯端末から閲覧できます。
また、異常データを検出した場合の自動通知機能も備えています。