A study for practical nature-oriented river management
リバーフロント研究所報告 第 31 号 2020 年 9 月
自然環境グループ 研 究 員 末永 匡美
自然環境グループ 研 究 員 内藤 太輔
自然環境グループ グループ長 森 吉 尚
主席研究員 宮本 健也
自然環境グループ 研 究 員 川村 設雄
自然環境グループ 研 究 員 和田 彰
本稿は、「河川法改正 20 年多自然川づくり推進委員会」によりとりまとめられた提言『持続性ある実践的多自然川づくりに向けて』を踏まえ、現場で多自然川づくりの取組みが徹底されるために必要な取組みのあり方の検討結果を報告するものである。提言では対応方針として、多自然川づくりの技術的なレベルアップを目指すために、大河川、中小河川、都市域などの河川の特徴や性質に応じた技術的手法を検討することが必要であると指摘されている。また、多自然川づくりアドバイザーの養成を目指し、多自然川づくりアドバイザーの基本的な助言事項等の考え方をまとめることの必要性について示されている。
そこで、都市河川に関しては、「多自然川づくりポイントブックⅢ」(以下「ポイントブックⅢ」という)適用が必ずしも現実的ではない場合もあることから、ポイントブックⅢの適用範囲を整理し、都市河川における多自然川づくりの課題を検討した上で、都市河川の類型化、及び限られた用地内での断面形状の評価・改善方法を解説した技術資料を検討した。大河川に関しては、最新の知見や、本技術資料の活用を想定している大河川での多自然川づくりの実務に携わる関係者からの意見を基に、川づくりに関する研究者、実務担当者等で構成される「多自然川づくり技術検討会」を通して、「大河川における多自然川づくり~Q&A 形式で理解を深める」(以下「大河川 QA」という)の Q&A 修正、新たな Q&A の追加、事例の充実等を図り、計画・設計・施工や管理に適用可能な大河川 QA 改定を検討した。また、昨年度の研究において作成された「多自然川づくりアドバイザーハンドブック(素案)」を、令和元年度に発生した大規模災害に伴う激特事業等の河道計画策定時に活用し、そこで得られた知見を踏まえて、多自然川づくりアドバイザーハンドブック(案)を検討した。
キーワード: 多自然川づくり、都市河川、大河川、災害復旧
This paper reports on the conclusions reached in a discussion on necessary measures for ensuring thorough natureoriented river management on the field level based on a recommendation by the Nature-oriented River Management Promotion Committee on the 20th anniversary of the revision of the River Act. In order to technically advance natureoriented river management, this recommendation entitled “Toward Sustainable and Practical Nature-oriented River Management” points out the need for discussing technical methods according to the characteristics and nature of rivers (whether they are large, medium-sized, small, urban, and so forth). In order to train advisors on nature-oriented river
management, it also calls for the compilation of basic advice and other key ideas to be shared by them.
Against this background, the application of “Key Points for Nature-oriented River Management – Book III” to urban rivers was deemed to be unrealistic in some cases. Hence, the scope of application of the book was sorted out. After examining issues involving nature-oriented management of urban rivers, a review was conducted with a technical material explaining the classification of urban rivers and methods for evaluating and improving cross-sections in a limited site. For large rivers, revision of questions and answers for deepening understanding on their nature-oriented management was considered for their application in its planning, designing, necessary infrastructure construction, and
implementation. The modification and addition of questions and answers, as well as richer case studies were sought by the technical study team for nature-oriented river management which consisted of researchers and practitioners of river management. They took into account the latest findings and opinions of practitioners engaged in nature-oriented management of large rivers, to which the application of the technical material was intended. Another discussion was held about drafting a proposal for a handbook for advisors on nature-oriented river management based on findings gained from the application of its preliminary draft from studies conducted in the previous fiscal year to river channel planning in urgent response to major disasters in fiscal year 2019.
Keywords: nature-oriented river management, urban rivers, large rivers, post-disaster recovery
1. はじめに
多自然川づくりの推進については、平成 18 年の「多自然型川づくりレビュー委員会」の提言(以下「前回
提言」という)において「河道は多自然型川づくりを基本として計画する」ことが位置づけられ、同年の「多自然川づくり基本指針」(以下「基本指針」という)では、多自然川づくりは河川の調査、計画、設計、施工、維持管理等のすべての行為を対象とすることとされた。また、河川法改正から 20 年、前回提言から 10 年が経過した平成 29 年 6 月、「河川法改正 20 年多自然川づくり推進委員会」(座長:山岸哲(公財)山階鳥類研究所
名誉所長)において今後の多自然川づくりの方向性及び具体的な対応方針が、提言『持続性ある実践的多自然川づくりに向けて』(以下「提言」という)にとりまとめられた。
提言では、基本方針の策定以降、多自然川づくりに対する普遍的な共通認識となるべき事項が明確にされ、技術基準の策定や、学術的な研究成果を取り入れた河川管理等の取組みが進んできたことを評価している。一方で、今後の課題として、汽水域、都市河川などの多自然川づくりの基本的な考え方等がまとめられていない分野の技術・知見をとりまとめることや、多自然アドバイザー制度を充実させ、災害復旧の現場に多自
然川づくりの考え方を浸透させていく必要性等が挙げられており、「実践・現場視点」と「持続性・将来性」の大きく 2つの視点から 7つの対応方針が示されている。
本稿は、先行研究である「実践的な多自然川づくりに関する調査研究(リバーフロント研究所報告第 30号)」4)(以下「先行研究」という)の継続研究として、提言における「実践・現場視点」から「技術の向上・一連の取組み過程の徹底」、及び「人材の育成・普及啓発」の 2 つの視点から、都市河川、大河川における多自然川づくり技術資料、及び多自然川づくりアドバイザーの養成に質する資料の検討を行った(図-1)。
〇多自然川づくり技術力向上:都市河川の課題、特徴に応じた技術的手法、及び最新の知見を踏まえた大河川における多自然川づくり技術資料更新の検討
〇多自然川づくりアドバイザーの養成:多自然川づくりアドバイザー補養成を目的としたハンドブック改定、及びこれまでの多自然川づくりアドバイザー制度活用事例集をとりまとめ
図-1 提言における「実践・現場視点」の概要
2. 都市河川における多自然川づくり技術資料の検討
提言において、都市河川などの河川の特徴や性質に応じた技術的手法を検討する必要性が指摘されている。先行研究では、技術的手法を検討するにあたり、都市河川における多自然川づくりの課題を把握するため、実態調査が実施されている。実態調査結果では、予算、用地の確保が困難となっていることが、都市河川における多自然川づくりを推進する上での制約となっていることが示されている。
そのため本稿では、既存の多自然川づくり技術資料「多自然川づくりポイントブックⅢ」(以下「ポイント
ブックⅢ」という)の適用範囲を整理し、上記した実態調査結果と照らし合わせ、都市河川における多自然川づくりを推進する上でポイントブックⅢの適用が困難な事項や、内容が不足している部分を都市河川における多自然川づくりの課題として抽出し、都市河川における多自然川づくりを推進するための技術資料を検討した。
2-1. 都市河川の多自然川づくりの課題
(1)ポイントブックⅢの適用範囲
本稿において都市河川における多自然川づくりを検討するにあたり、既往の技術資料に不足する事項を明らかにするため、ポイントブックⅢの適用範囲を整理した。
整理の結果、ポイントブックⅢでは、第 2 章、及び第 4 章において、基本計画及び設計における多自然川づくりの考え方について示されており、河道拡幅を基本とした水域(低水路)、河岸・水際域(低水路河岸周辺)の空間を確保する方策や、自然な河岸・水際域の形成を目的とした河川構造物の計画・設計に関する技術的手法が解説されていることが判明した。一方で、歴史的・文化的な建造物などが川沿いに存在する場合や、舟運や漁業等、地域の歴史・文化に根ざした河川の利用がある場合は、別途検討を要することとなっており、背後地の状況を考慮した河川利用への配慮や、河畔域(高水敷、堤防)に関する多自然川づくりの技術的手法に関する解説に乏しいことが判明した。
以下に、ポイントブックⅢにおける多自然川づくりの考え方の概要を示す。
<第 2 章(基本計画)>
河道拡幅を基本とする良好な河岸、水際の保全、川の働きを許容する空間の確保、及び河川の縦断的な連続性確保のための平面縦横断形の設定方法が解説されている。
<第 4 章(計画・設計)>
自然な河岸・水際の形成を目的とした河岸、護岸、水際部の計画・設計の考え方が解説されている。また、護岸を設置する際の環境面、景観面の配慮の方法についても解説されている。
(2)都市河川における多自然川づくりの実態先行研究において、都市河川における多自然川づくり実態調査が実施されている。調査結果の分析では、①用地上の制約、②予算、③安全の確保、④維持管理、⑤自然な河岸・水際の設計・施工の5項目が都市河川における多自然川づくり推進のハードルになっていることが推察されており、事業計画における風上側(①、②)が原因となり、風下側(③、④、⑤)が困難な状態にあることが示されている(図-2)。
以上より、都市河川における多自然川づくりを推進するためには、風上側の制約条件(用地、予算の制約条件)下において、いかに水域、河岸・水際域を確保するかが重要になると考えられる。
図-2 実態調査分析結果 4)に一部加筆
(3)都市河川における多自然川づくりの課題
(1)に示すように、ポイントブックⅢの適用範囲は、河道拡幅により、十分な水域、河岸・水際域を確
保することを基本として、自然な河岸・水際の形成に関する技術的手法が解説されている。しかし、都市河川では、(2)に示すように用地上の制約が厳しく、河道拡幅等による十分な水域、河岸・水際域の確保が困難である。そのため、都市河川では、限られた用地内で水域、河岸・水際域を確保する方策を検討する必要があると考えられる。
一方で、用地上の制約が厳しい場合は、川沿いに人口・資産等が集中している場合が多く、潜在的な河川利用の可能性が高いことが考えられる。そのため、河川利用の促進を図ることを目的とした背後地(文化施設、公園等)との一体的な整備、活用方法に関しても検討する必要があると考えられる。
以上より、都市河川における多自然川づくりの課題として下記3項目を抽出した。
<都市河川における多自然川づくりの課題>
①用地の制約条件が厳しい中での水域、河岸域の確保
②沿川の施設等との一体的な計画、整備手法
③水辺の活用方法及び整備手法
2-2 都市河川における多自然川づくり技術資料案の検討
2-1で整理した課題を踏まえ、都市河川において必要となる技術的手法と、技術資料案を検討した。
(1)都市部における川づくりに関する事業事例の収集
技術資料案に必要とされる技術的観点等を把握し実用的な技術資料案を作成するため、都市河川の主たる管理者である都道府県及び政令市を対象に、設問 1.都市河川における当面の事業見込み、設問 2.技術資料で参考になると思われる事項(①多自然川づくりのアプローチ、②限られた断面での整備と工夫、③自由意見)について実態調査を行った。調査の結果、11 機関から回答を得た。設問1に対して回答された事業見込みは 15 件であった。また、設問 2 に対する回答として、①多自然川づくりのアプローチ 10 件、②限られた断面での整備と工夫 16件、③自由意見 4 件の回答が得られた。
設問 2 に対する回答からは、まちづくり等との一体的な整備手法や、横断面形状の法肩形状の工夫など概ね2-1で整理した課題に関する技術的手法が望まれていることが推察された(表-1)。
表-1 設問②に対する主な回答
(2)技術資料案の検討
多自然川づくりの専門家・景観に関する専門家をメンバーとする「都市における多自然川づくりに関する技術検討会」(表-2)を開催し、2-1に整理した課題、及び事業事例の収集結果を踏まえた上で、都市河川における多自然川づくりの技術資料(案)(以下「技術資料(案)」という)を検討した。
表-2 技術検討会のメンバー
表-3 改修区間の類型化案
各ランクにおける河川用地の余裕に対する評価は、鶴田,萱場 5)らが提案している評価指標 W/D を参考とした。W は河川断面における高水敷、護岸、堤防、管理用通路等の水平幅の合計値、D は水面から堤防天端高または堤内地盤高までの比高を表しており、W/D=5 以上となる断面形状は、水辺の拠点として活用できるポテンシャルが高いことが推察されている。
本稿では、整備可能な規模に応じて、W/D=5 以上を確保できる区間をランク A、断面の工夫により W/Dの値を 5 に近づけることのできる区間をランク B、河積に余裕がなく W/D の値を 5 に近づけることが困難な区間をランク C とし、実際の計画断面(図-3)に対して、護岸を分節する工夫等により W/D の値を5 に近づける改善例を示した(図-4)。
図-3 改善前の計画断面
図-4 改善後の計画断面
以上のように本稿では、都市河川における多自然川づくりを進めるにあたり、技術資料の中核となるような技術的手法を取りまとめた。今後は、都市河川における多自然川づくりの導入部分について技術的手法等を検討し、都市河川における多自然川づくりの技術を体系化する必要がある。
3. 大河川における多自然川づくり〜Q&A 形式
で理解を深める〜更新の検討
中小河川においては、「中小河川に関する河道計画の技術基準」が定められ、その解説書となるポイントブ
ックⅢが発刊されるなど、川づくりの基本的事項が整理され、現場での実践も進んでいる状況にある。一方で、国土交通省が管理するような大河川については、研究・事例等数多くの知見が蓄積されてきているものの、多自然川づくりという視点での技術体系の整理や共有は進んでいない。
先行研究では、以上のような現状を踏まえ、大河川において多自然川づくりを実践する際に、現場技術者が参考とするための技術資料「大河川における多自然川づくり〜Q&A 形式で理解を深める〜」(以下「大河QA」という)が作成されている。
大河川 QA は、新たな知見を追加更新しやすい形式の技術資料となるよう、一問一答形式の Q&A 集として作
成されており、先行研究において継続的に Q&A を見直し、追加することで、内容の充実を図っていく必要性が示されている。
そこで本稿では、多自然川づくりの実務に携わる関係者への意見聴取を行い、大河川 QA へ記載が望まれる事項を収集・整理し、新 Q&A の追加、及び最新の知見を踏まえた大河川 QA の改定を検討した。
(1)多自然川づくりの実務に携わる関係者への意見聴取
大河川 QA に不足する Q&A を把握するため、一般社団法人建設コンサルタンツ協会(以下「建コン協」という) の河川計画専門委員会、環境専門委員会に対して、設問 1.Q&A の修正、追加等の意見・要望、設問 2.監督員やコンサルタントがより活用しやすくするための方策や仕組みに関する意見聴取を実施した。
聴取の結果、設問 1 に対する回答として、主に河道掘削、樹木伐採に関する補足説明を希望する意見、環境目標に関する Q&A の追加を要望する意見が見られた。
また、設問 2 に対する回答として、設計業務等共通仕様書参考図書への追加や、計画・設計・施工・維持管理における各 Q&A の位置付けを希望する意見が見られた(表-4)。
表-4 建コン協への意見聴取結果
(2)大河川 QA 改定の検討
大河川 QA 改定にあたり、多自然川づくりに精通した専門家、コンサルタント等の様々な立場の関係者が、議論を深めながら検討を進めることが重要であると考え、「多自然川づくり技術検討会(大河川ワーキンググループ)」を設置した(表-5)。
表-5 大河川ワーキンググループメンバー
大河川ワーキンググループでは、建コン協への意見聴取結果を踏まえつつ、最新の知見を用いて Q&Aの加筆修正を検討した。例えば、Q8-1 では、河道内樹木の再繁茂対策の概論から、ワーキンググループメンバーのこれまでの研究結果を基に、河道内で再繁茂が課題となっている主な樹種(ハリエンジュ、ヤナギ、ササ類)ごとの再繁茂対策に関する解説に更新した(表-6)。
また、平成 30 年度に実践的な河川環境の評価・改善の手引き(案)(以下「手引き(案)」という)が発
行されており、手引き(案)が環境目標を検討する際に活用され始めていることから、手引き(案)と合わせて大河川 QA が活用されることでより良い環境目標の検討につながると考え、手引き(案)の活用法に関する Q&A を追加した(表-7)。
表-6 大河川 QA の主な修正・追記内容
表-7 追加 Q&A 概要
大河川 QA は、今後も最新の研究成果や現場からの意見・要望に基づき、Q&A の修正・追加を検討していくとともに、中小河川における「中小河川に関する河道計画の技術基準」のように、大河川における多自然川づ
くりの技術の体系化を検討する必要がある。
4. 多自然川づくりアドバイザー制度のフォロ
ーアップ
先行研究において、多自然川づくりアドバイザー補(以下「アドバイザー補」という)の養成を目的に、多
自然川づくりアドバイザー(以下「アドバイザー」という)の助言を基とした「多自然川づくりアドバイザ
ーハンドブック(素案)」(以下「ハンドブック(素案)」という)が作成されている。ハンドブック(素案)は、多自然川づくりアドバイザー制度の運用の流れ、派遣前の事前準備、及び過去の助言・指導等を参考にした
現地調査での留意事項を掲載している。
本稿では、令和元年度に発生した大規模災害に伴う激特事業等の河道計画策定時にこのハンドブック(素案)を実際に活用し、そこで得られた知見を踏まえて、多自然川づくりアドバイザーハンドブック(案)(以下「ハンドブック(案)」という)を検討した。
4-1.作業手順
ハンドブック(案)の検討手順は、以下の通りである。
①現地調査結果からハンドブック(案)に反映する事項を抽出・整理
②令和元年度に現地調査に派遣されたアドバイザー、及びアドバイザー補に対するアンケートを実施し、ハンドブック(素案)に対する意見聴取を行い、それらの意見を整理
③ ①、②を踏まえ、ハンドブック(案)を検討
4-2.令和元年度における助言・指導事項の整
理
令和元年度は、令和元年台風第 15 号、令和元年東日本台風等による豪雨により、大規模な水害が東日本及
び九州において発生し、多自然川づくりアドバイザーの派遣件数は 15 件となった。
主な被災要因は、狭窄部等における流下能力不足であり、アドバイザーより河道掘削や樹木伐採など流下能力対策に関する助言・指導等がなされた。
例として表-8に、河道掘削に関する主な助言・指導事項を示す。
表-8 令和元年度における助言・指導事項
4-3.アドバイザー補に対するアンケート調査
アドバイザー補(国土技術総合研究所より 2 名、土木研究所より 5 名)に、ハンドブック(素案)を実際
の現地調査で活用していただき、その内容についてアンケート行った。
調査の結果、ハンドブック(素案)の掲載内容のうち、派遣前の準備物・確認事項のリストアップや、過
去の指導・助言事例が参考になったという意見が多かった。
また、主なハンドブック(案)への掲載要望として、事前準備物の追加、過去の指導・助言項目の分類、及
び事例集の作成等が挙げられた(表-9)。
表-9 アンケート回答結果
4-4.ハンドブック(案)の検討
ハンドブック(案)は、アドバイザー補の養成を目的としている。そのため、4-2で整理した助言・指
導事項のうち、対象河川のみに適用される特殊な助言や、既往の技術資料等に掲載されている内容を除いた
上で、アドバイザーの有する知見や技術等に基づく助言内容を、現地調査結果より抽出・整理し、ハンドブ
ック(案)に反映した。
また、4-3で収集した指導・助言、アドバイザー補からの意見・要望を整理し、実際の現地調査で追加
資料として配布されることのあった河道変遷を示す資料等を事前準備リストへ追加するとともに、一刻も早
く災害復旧に至れるよう、調査を効率化するめの所要時間を含む具体的な現地調査の流れを追記した(表-
10)。
表-10 アンケート回答に対する対応
4-5.事例集の作成
これまでにアドバイザーが派遣された各河川における災害や復旧の状況、アドバイザーによる指導・助言
の内容、その反映状況等の記録等が共有できる形で残されていないため、過去の復旧対策の検討や、アドバ
イザーによる助言・指導内容等を参考にしようとしても、それが困難な状況となっている。また、アドバイ
ザーにおいても、一人当たりの件数が多くなっていることもあり、個別河川における助言・指導内容が正確
に記憶されているわけではない。
以上から、過去にアドバイザー制度が適用され、現地調査が実施された事業について、河川の諸元、被災
要因、助言・復旧広報のポイント等を取りまとめた事例様式を作成し、多自然川づくりアドバイザー制度活
用事例集にとりまとめた(図-5)。
令和元年度末時点のデータベース登録件数は、98 件である。今後もアドバイザー補の養成や、指導・助言
後の現地状況を把握するために継続して事例収集を行う必要がある。
図-5 事例集様式
5. まとめ
本研究では、現場で多自然川づくりの取組みが徹底されるために必要な技術資料を検討した。結果を以下
にまとめる。
・ポイントブックⅢの適用範囲、及び都市河川における多自然川づくりの実態調査を基に、都市河川における多自然川づくりの課題を抽出した上で、都市河川の区間ごとの類型化、用地上の制約条件がある中での断面の工夫を「都市河川の多自然川づくり技術資料(案)」として取りまとめた。今後は、技術資料の導入部を整理し、都市河川における多自然川づくりの技術を体系的にとりまとめていく必要がある。
・先行研究において作成された大河川 QA について、関係者の意見聴取結果を基に大河川ワーキングループを通して、Q&A の修正、追加を検討し、大河川 QA の内容の充実を図った。今後はこれまでに収集・整理した知見や、最新の研究結果を元に、大河川における多自然川づくりの体系化を検討していく必要がある。
・令和元年度の多自然川づくりアドバイザーによる指導・助言、アドバイザー補からの意見を基に多自然川づくり「多自然川づくりアドバイザーハンドブック(案)」を作成した。また、アドバイザー補の養成のため、過去の多自然川づくりアドバイザー制度活用事例をデータベース化し、事例集を作成した。
謝辞
本稿の作成にあたり、国土交通省水管理・国土保全局河川環境課、関東をはじめとする各地方整備局、土
木研究所水環境研究グループ、国土技術政策総合研究所河川研究部の皆様には貴重なご指導・ご助言を頂き
ました。ここに改めて深く感謝を申し上げます。
<参考文献>
1)提言『持続性ある実践的多自然川づくりに向けて』:河川法改正 20 年多自然川づくり推進委員会,2017
2)会議関係資料:河川法改正 20 年多自然川づくり推進委員会,2016,2017
3)多自然川づくりポイントブックⅢ:多自然川づくり研究会,2011
4)渡邊他:実践的な多自然川づくりに関する調査研究,リバーフロント研究所報告第 30 号,2019
5)鶴田,萱場:河岸の横断面形状に着目した空間利用ポテンシャル評価指標の提案,(国研)土木研究所
水環境研究グループ河川生態チーム,2017
6)美しい山河を守る災害復旧基本方針:国土交通省水管理・国土保全局防災課,2018