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大地震に対する水利施設の挙動の高精度計算を実現

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農業ダムなどの安全性評価に直結する汎用的時間積分スキーム

2019-07-18 京都大学

Vikas Sharma 農学研究科研究員(現・インド工科大学ボンベイ校博士研究員)、藤澤和謙 同准教授、村上章 同教授らの研究グループは、農業用ダムなど水利施設の大地震に対する複雑な挙動を正確に予測するため、独自に開発した「速度型Space-Time有限要素法」を利用して、新たな汎用的動的応答解析法による高精度計算を実現しました。
本手法は、従来法では不可能であった時間方向の計算精度調節を可能にするだけでなく、幅広い形の応力からひずみ関係に対応することから、広範な材料の動的応答解析に適用可能な、画期的かつ実用的な計算スキームを提供します。
現在、大地震に対する農業水利施設(ダムやため池など)といった社会基盤の強靭化が求められており、本研究成果はそれら施設の安全性評価に直結する実用的な成果として期待されます。
本研究成果は、2019年6月3日に、国際学術誌「International Journal for Numerical Methods in Engineering」のオンライン版に掲載されました。

図:時空間要素(左)と貯水を有するダムの地震応答(右)

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1002/nme.6134

Vikas Sharma, Kazunori Fujisawa, Akira Murakami (2019). Space‐time finite element procedure with block‐iterative algorithm for dam‐reservoir‐soil interaction during earthquake loading. International Journal for Numerical Methods in Engineering.

詳しい研究内容について

大地震に対する水利施設の挙動の高精度計算を実現
―農業ダムなどの安全性評価に直結する汎用的時間積分スキーム―

概要
京都大学大学院農学研究科 Vikas Sharma 研究員 研究当時、現 インド工科大学ボンベイ校博士研究員)、 藤澤和謙 同准教授、村上章 同教授らの研究グループは、農業用ダムなど水利施設の大地震に対する複雑な 挙動を正確に予測するため、独自に開発した 「速度型 Space-Time 有限要素法」を利用して、新たな汎用的動的応答解析法による高精度計算を実現しました。
本手法は、従来法では不可能であった時間方向の計算精度調節を可能にするだけでなく、幅広い形の応力~ ひずみ関係に対応することから、広範な材料の動的応答解析に適用可能な、画期的かつ実用的な計算スキーム を提供します。現在、大地震に対する社会基盤/農業水利施設 ダムやため池など)の強靭化が求められてお り、この成果はそれら施設の安全性評価に直結する実用的な成果として期待されます。
本研究成果は、2019 年 6 月 3 日に国際学術誌 「International Journal for Numerical Methods in Engineering」 にオンライン掲載されました。


図. 時空間要素 (左)と貯水を有するダムの地震応答 (右)

1.背景
国土強靭化の背景のもと、農林水産省では全国の農業用ダム安全性評価を行っています。評価するにあたっ ては、大地震に対する施設の複雑な挙動を正確に予測する必要があり、そのための手法が求められていました。

2.研究手法・成果
本研究グループは、構造物の動的応答を高精度かつ安定的に解析できる数値解析手法として、空間 時間両 方向とも有限要素を利用する {速度型 Space-Time 有限要素法」 (Velocity-based Space-Time Finite Element Method, v-ST/FEM」)を新規に提案し、各種の例題を通して、その優れた計算特性を実証してきました。従 来法と比較して、高精度な時間積分を実現し、積分パラメータを必要としない無条件安定な数値解析手法を提 案しています。 (平成 30 年度地盤工学会賞論文賞を 2019 年 6 月 7 日に受賞)
これまで、Space-Time 有限要素法の固体動力学への適用は、未知数の増加が問題となっていたため限られ ていました。具体的には、時間方向に有限要素を利用することと、変位と速度の両方を未知数にする必要があ るため、空間方向に有限要素法、時間方向に差分法を用いる通常の解析手法と比較すると、未知数の数は最低 でも 4 倍になっていました。
本研究で提案した手法は、波動の伝搬を記述する波動方程式に対して Space-Time 有限要素法を適用するも のであり、これにより構造物の動的応答の高精度計算を可能としました。
また、Space-Time 有限要素法の適 用過程においては、速度のみを未知数とした定式化を行うことで、未知数の増加を最低限に抑える方法をまっ たく新たに実現しました。この提案手法を水が蓄えられたダムの地震応答解析に適用したところ、計算の精度 と安定性に加え、貯水とダムの相互応答を効率的に計算できる実用性を示しました。 また、本研究の提案手法は、幅広い応力~ひずみ関係に適用でき、変形による節点移動 (移動メッシュ)を 組み込むことで、大きな変形に伴う幾何学的な形状変化についても解析結果に反映できることから、拡張性に 富むものです。

3.波及効果、今後の予定
提案手法は新規性と拡張性に富むだけでなく、高精度かつ安定的な動的応答解析を実現し、土木工学のみな らず建築学、機械工学など関連分野への波及効果も期待できます。また、本技術は、農林水産省の事業である 全国農業用ダム安全性評価及び技術検討に利用が見込まれています。

4.研究プロジェクトについて
本研究は、科研費 基盤研究 A) 豪雨/地震災害リスク予測 評価による農業水利施設 群)の動学的マ ネジメント」 代表 村上章)の支援を受けて行われました。

<用語解説>
時間積分:
一般に現象を記述する偏微分方程式は、時間及び空間に関する微分を含みます。時間積分とは、時 間に関する微分を含む項を、時間について (数値的に)積分することを意味し、これにより対象となる現象の 時間変化が計算されます。時間積分法の中には、数値的な積分に関わる定数 (=積分パラメータ)が必要なも のもあります。

動的応答解析:
地震動のように時間的に変化する (=動的な)外力が構造物に作用するとき、その外力の作用によって構造物 も動的に変形し、その形状が変化します。この変形挙動を構造物の 「応答」と呼び、それを数値シミュレーシ ョンのように解析することを 「動的応答解析」と言います。

Space-Time有限要素法:
空間方向だけでなく時間方向にも形状関数によって離散化を行う有限要素法。有限要素法とは、微分方程式の 数値解法の一つであり、例えば、複雑な構造物の外力による変形を計算するため、構造物を単純な形状の領域 (=要素)に分割し (離散化)、各要素の変形を足し合わせることで構造物全体の変形を求める手法です。従来 の Space-Time 有限要素法は、時間方向に安定かつ高精度な計算が可能であるものの、それを固体解析に適用 する場合には未知数の増加が問題となっていました。そこで本研究グループは、固体解析のための変形速度の みを変数とする 「速度型 Space-Time 有限要素法」を開発し、下記論文に発表しました。この論文により、平 成 30 年度地盤工学会賞論文賞を 2019 年 6 月 7 日に受賞しました。
論文: V. Sharma, K. Fujisawa and A. Murakami: Velocity based time-discontinuous Galerkin space-time finite element method for elastodynamics, Soils and Foundations, Vol.58, No.2, pp.491-510, 2018.
DOI https://doi.org/10.1016/j.sandf.2018.02.015

差分法:
計算領域を格子分割し、隣接する格子点における変数の値の差をとることで、対象とする変数の微分を計算す る数値解析手法。

<研究者のコメント>
本研究の新規性は、時間積分法として Space-Time 有限要素法を有効かつ効率的に利用する点にあります。 Space-Time 有限要素法は既に存在する手法ですが、その時間方向の精度の着目し、波動方程式への効果的な 適用を実現しました。このような成果を通して、上述の社会的要請に応えることが、研究者の役割だと認識し ています。

<論文タイトルと著者>
タイトル: Space-time finite element procedure with block-iterative algorithm for dam-reservoir-soil interaction during earthquake loading(地震時におけるダム-貯水-基盤の相互応答のための Blockiterative アルゴリズムを組み込んだ Space-Time 有限要素法)
著 者: Vikas Sharma, Kazunori Fujisawa, Akira Murakami
掲 載 誌 :International Journal for Numerical Methods in Engineering
DOI 10.1002/nme.6134

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