この実証事業では、日本国内で確立した技術「Mega-ton Water System」を活用し、サウジアラビアのウムルジにおいて、従来型の逆浸透膜(RO膜)を用いた方法に比べ約2割の省エネルギー化と建設コストの低減が可能な海水淡水化システムの優位性を実証します。今後、実証設備の建設と運転を行い、商用化に必要なデータを取得するとともに、ビジネスモデルについても検討を進め、同国および周辺国への普及展開を目指します。
1.概要
サウジアラビアは世界最大の原油生産量を誇る資源国である一方で、降雨量が少ないため淡水資源が乏しく、都市部に供給する水の大部分を海水淡水化に依存しているなど、国土の慢性的な水不足が問題となっています。加えて、同国における海水淡水化方式として主流であった蒸発法※1は多くのエネルギーを必要とすることから、増大し続ける水需要に対応するために、より少ないエネルギーでより多くの淡水を生産する技術が求められています。
そこでNEDOは、サウジアラビアにおける水不足問題を解決するために、内閣府、NEDOと民間企業・大学等が国内で確立した省エネルギー型の海水淡水化システム「Mega-ton Water System※2」を活用した実証事業をサウジアラビアで開始することについて、サウジアラビア海水淡水化公社(SWCC)と合意し、2017年12月11日に基本協定書(MOU)を締結しました。2018年1月14日には、サウジアラビア・リヤドで開催された日・サウジ・ビジョン2030ビジネスフォーラムの機会に基本協定書(MOU)の交換式を実施し、本実証事業の推進について協力することを改めて確認しました。
2.実証事業の内容
NEDOは2009~2013年度に内閣府の研究開発事業「最先端研究開発支援(FIRST)プログラム」のひとつである「Mega-ton Water System」プロジェクトに研究支援機関として参画し、省エネルギー型の海水淡水化技術である「低圧多段高収率海水淡水化システム」を確立しました。このシステムは、蒸発法に比べエネルギー消費量が少ないとされる逆浸透膜法(RO膜法)※3による海水淡水化をさらに省エネルギー化するものです。新型RO膜法の使用や、膜ユニットの配置を多段とするなどにより、従来のRO膜において必要であった高圧ポンプの稼働等によるエネルギー消費を約2割削減することが可能です。
本事業は、「Mega-ton Water System」プロジェクトの成果をベースに、今後3年間でサウジアラビアのウムルジに日量1万トンの飲料水を海水から生産する設備を建設し、サウジアラビアで定められている飲料水質基準を満たす水を安定的に生産できることを検証します。また、従来のRO膜法に比べ約2割の省エネルギー化と建設コスト低減など、本システムの優位性を実証します。さらには、本事業で実証した設備をショーケースとして活用することで本システムの導入・普及を促進し、サウジアラビアのみならず、中東地域の水問題解決に貢献することを目指します。
【事業の詳細】
- 委託予定先:株式会社日立製作所、東レ株式会社
- 実証規模:10,000m3/日(造水量)
- 実証場所:サウジアラビア ウムルジ
3.交換式
現地時間1月14日に、日・サウジ・ビジョン2030ビジネスフォーラムに合わせて行われた交換式において、世耕経済産業大臣、アル・カサビ商業投資大臣、アル・ファーレフ・エネルギー産業鉱物資源大臣の立ち会いのもと、NEDO古川理事長、SWCCアル・ハズミ総裁が、両者署名済みの基本協定書を交換し、本実証事業の推進について協力することを改めて確認しました。
【用語解説】
- ※1 蒸発法
- 石油や天然ガス等の化石資源を燃焼させ海水を熱し、気化した水(淡水)を再度冷却することで淡水を得る方法。サウジアラビアをはじめ、中東地域において主流となっているが、淡水生産量あたりのエネルギー消費量が大きいことが課題。
- ※2 Mega-ton Water System
- 内閣府が2009年度から2013年度まで実施した「最先端研究開発支援(FIRST)プログラム」における研究開発テーマのひとつであり、同テーマにおいて開発した省エネルギー型の海水淡水化・水循環システムの総称。NEDOは同テーマの実施にあたり研究開発支援機関として参画。
- ※3 逆浸透膜法(RO膜法)
- 海水を逆浸透膜(RO膜)で濾過することで淡水を得る方法。蒸発法と比べ消費エネルギーは小さいが、高圧ポンプの電力消費が大きいことが課題。
4.問い合わせ先
NEDO 環境部 担当:二宮、西脇、神田