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山岳トンネル掘削作業における自動火薬装填システムの開発~遠隔で力触覚を再現する技術の応用で、掘削作業の安全性と生産性を向上~

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2023-09-12 新エネルギー・産業技術総合開発機構,慶應義塾大学,株式会社大林組

NEDOの「官民による若手研究者発掘支援事業」(以下、若サポ)の一環で、慶應義塾大学の野崎貴裕准教授らの研究グループと(株)大林組は、遠隔で力触覚を再現する技術(リアルハプティクス®)を応用し、危険が伴う山岳トンネルの掘削面(切羽)直下での火薬の装填(そうてん)・結線作業を遠隔化・自動化するシステムの開発に取り組んでおり、このたび、自動火薬装填システムの開発に成功しました。

本システムは、リアルハプティクス®技術を備えることで、切羽から離れた安全な場所から、火薬の装填作業が行えます。力触覚が伝わることで、あたかも切羽で直接作業を行っているかのように直感的な操作ができ、火薬を装填する孔への円滑な挿入や、適切な力加減での火薬の押し込みが可能となります。また、遠隔装填技術で得られたデータを利用して、作業者の動作を再現し、装填作業を自動化することで、生産性の向上が期待されます。

今後、切羽との接触を感知しながら自動で脚線を結線する自動結線システム(特許出願中)の要素試験を進め、一連の技術の現場適用を目指します。また、各システムを自律学習させることで、トンネル掘削作業の無人化につながる開発を進めます。

図1 自動火薬装填・結線システムのイメージ図

図1 自動火薬装填・結線システムイメージ

1.背景

山岳トンネル工事における重大災害の多くは、支保工建て込み作業※1と、切羽直下※2での火薬の装填・結線作業で発生しており、このうち、重機を使用する支保工建て込みなどの作業は遠隔化・自動化が進んでいます※3。一方、火薬の装填・結線作業は、火薬や雷管※4などの危険性が高い材料や、細かい脚線※5を取り扱うことから、繊細な力加減や手指の感覚を必要とし、「山岳トンネル工事の切羽における肌落ち災害防止対策に係るガイドライン(厚生労働省)」に基づき、安全対策を行いながら手作業で施工していますが、さらなる作業の安全性と生産性の向上が求められています。

そこで、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の若サポ※6の一環で、慶應義塾大学の野崎貴裕准教授らの研究グループと株式会社大林組(以下、大林組)は、遠隔で力触覚※7を再現する技術(リアルハプティクス®※8)を応用して、切羽直下での火薬の装填・結線作業を遠隔化・自動化する研究を行っています。

2.今回の成果

今回開発した自動火薬装填システムは、(1)遠隔装填技術と(2)遠隔装填技術で伝送される力触覚のデータを利用した自動装填技術で構成します。本システムにより、遠隔操作における作業の安全性向上と、自動化による生産性向上が図れます。

(1)遠隔装填技術

遠隔装填技術は、図2のようなトンネル外の安全な場所に設置したリモコン側※9(作業者が操作する込め棒※10を模したもの)と、トンネル内の切羽で実際に作業するロボット側※9(ドリルジャンボに搭載するロボットアームに装着された図3に示す装填ロボット)で構成します。今回は、装薬孔の孔壁と装填ロボットの接触状況や、火薬を装填した際の反力などをロボット側からリモコン側に伝える技術を開発しました。

作業者は、ロボット側から送信される映像を視覚で確認しながら、込め棒やパイプの抵抗が力触覚として再現されたリモコン側を操作することで、安全な場所から実際の装薬孔に火薬を装填しているかのような感触で作業を行うことができます。ロボット側では、リモコン側で動かした込め棒やパイプの角度、力の入れ具合をリアルタイムに再現します(図4)。

図2 火薬装填作業の概要図
図2 火薬装填作業の概要

図3 装填ロボットを拡大した図
図3 装填ロボットの拡大図

図4 遠隔装填技術の要素試験の様子の写真
図4 遠隔装填技術の要素試験

(2)自動装填技術

今回、遠隔装填技術で伝送されるロボット側の火薬装填時のデータと、リモコン側の遠隔操作データを活用した自動装填技術を開発しました。これにより繰り返し作業が自動化され、作業の効率化が可能です。

3.今後の予定

今後、若サポにて、野崎貴裕准教授らの研究グループと大林組は、【1】開発した自動火薬装填システムのトンネル現場での実証試験、【2】リアルハプティクス®技術を搭載した結線ロボットにより切羽との接触を感知しながら自動で脚線を結線する自動結線システム(特許出願中)※11の要素試験、【3】形状の変化への自律的な対応を応用させた装填・結線システムの自律化を進めることで、一連の技術の現場適用を目指します。

リアルハプティクス®は位置や力といった動作情報を記録し、再現することが可能です。この技術を応用することで、トンネル掘削作業の無人化を実現し、安全かつ効率的な働き方を目指した技術の開発を進めます。

なお、慶應義塾大学と大林組は本研究開発成果について、土木学会第78回年次学術講演会(2023年9月11~15日)や土木学会第33回トンネル工学研究発表会(同11月21~22日)で発表するほか、CEATEC2023(同10月17~20日)や2023国際ロボット展(同11月29日~12月2日)における出展とデモンストレーションを予定しています。

【注釈】
※1 支保工建て込み作業
山岳トンネル施工において、地山を保持するアーチ状のH型の鋼材である鋼製支保工を設置する作業です。
※2 切羽直下
切羽(きりは)の上面部分(天端)から45度の範囲内を指します。
※3 重機を使用する支保工建て込みなどの作業は遠隔化・自動化が進んでいます。
慶應義塾大学と大林組は、これまでもリアルハプティクス®を油圧駆動の建設機械や左官作業に適用するなど、建設現場における力触覚の活用に向けたシステムの開発、実証を行ってきました。
2021年3月24日「リアルハプティクスを利用した建設技能作業再現システムを開発
2019年10月10日「油圧駆動の建設重機で力触覚技術を利用するシステムを実証しました
2018年10月15日「油圧駆動の建設重機での力触覚技術利用を可能とするシステムを開発
※4 雷管
わずかな熱や衝撃でも発火する火薬を筒に込めた火工品で、トンネル掘削では電気雷管や導火管付き雷管が使われます。
※5 脚線
雷管を起爆するための電気を流す線を指します。
※6 若サポ
NEDO官民による若手研究者発掘支援事業
本研究開発は、若サポ・共同研究フェーズとして2021年度より進めています。
※7 力触覚
触れた物の硬さや柔らかさを伝える、力と位置変化に関する感覚です。
※8 リアルハプティクス®
現実の物体や周辺環境との接触情報を双方向で伝送し、力触覚を再現する技術です。人間が物体に触った際に感じる硬さや柔らかさ、風船のような弾力、自律的な動きなどの力触覚を伝送することで、遠隔にいる操作者の手元で同様の力触覚が再現できます。慶應義塾大学では、力触覚技術が示す学術的な成果を応用し、広く医療・産業界に普及させることを目的として2014年にハプティクス研究センター(センター長:慶應義塾大学新川崎先端研究教育連携スクエア 大西公平特任教授)を設置し、研究開発を進めています。
※9 リモコン側、ロボット側
遠隔操作においては、リアルハプティクス®技術における操作用のシステムであるリーダと作業用のシステムであるフォロワが用いられますが、本リリースでは一般的な表現として、リーダサイドを「リモコン側」、フォロワサイドを「ロボット側」と呼称しています。
※10 込め棒
火薬を装填する際に、爆破孔に爆薬を押し込む木製あるいは静電気を起こさない材質の棒です。
※11 自動結線システム(特許出願中)
装填システム同様にリモコン側とロボット側で構成されます。ロボット側から送信される映像を視覚で確認しつつ、力触覚で結線ロボットと切羽とのわずかな接触さえも感じながらリモコン側を操作することでロボットを動かし、脚線をつかみます。脚線をつかんだ後に、ボタン一つでロボット側が自動で結線するシステムです。
4.問い合わせ先

(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)
NEDO 新領域・ムーンショット部 担当:廣田、海邉、若林
慶應義塾 広報室
株式会社大林組 コーポレート・コミュニケーション室 広報課

(研究内容についてのお問い合わせ先)
慶應義塾大学 理工学部 准教授
野崎 貴裕(NOZAKI, Takahiro)

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)
NEDO 広報部 担当:根本、黒川、坂本(信)、瀧川

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