国総研レポート2020(研究期間 : 平成 27 年度~)
国土技術政策総合研究所 下水道研究部 下水処理研究室
室長 田隝 淳
主任研究官 岩渕 光生
研究官 藤井 都弥子
研究官 松橋 学
研究官 山本 明広
研究官(博士(工学)) 粟田 貴宣
研究官 石川 剛士
交流研究員 佐藤 拓哉
(キーワード) 下水道資源の有効利用,既存ストックの有効活用,バイオガス,燃料電池
1.はじめに
下水道は、国民生活にとって必要不可欠な社会資本であるが、地球温暖化や資源・エネルギー需給逼迫への対応として、省エネルギー対策とともに、下水汚泥のエネルギー利用をはじめとする資源利用等のポテンシャルの活用が求められている。
このような社会的要請及を踏まえた新技術も開発されつつあるが、まだ実績が少なく導入に慎重な下水道事業者も多い。このため、国土交通省では、「下水道革新的技術実証事業(B-DASHプロジェクト)」を2011年度より開始しており、国総研下水道研究部は、実証事業の実施機関となっている(B-DASH:Breakthrough by Dynamic Approach in Sewage High technology)。その目的は、下水道事業におけるコスト縮減や再生可能エネルギーの創出等を実現するため、優れた革新的技術を実証したのち、技術導入のためのガイドラインを策定し、本技術を普及させることである。ここでは、今年度、新たに策定した技術導入ガイドラインのうち省エネ・創エネに関するもの3件と今年度から新たに実証事業を始めた1件について、報告するものである。
2.ガイドラインの概要
実証研究の成果に基づき、地方公共団体の意見も踏まえた上で、技術毎にガイドラインをとりまとめ、有識者による評価を受けた。ガイドライン(案)の構成は以下のとおり。(表-1)
表-1 ガイドライン(案)の構成
3.実証技術の概要等
(1)~(3)が新たに策定したガイドラインの概要、(4)が新たに始めた実証事業の概要である。
(1)高効率消化システムによる地産地消エネルギー活用技術
小規模処理場等から発生する未利用バイオマスの活用、無動力消化槽撹拌装置、バイオガス発生量を増加させる汚泥可溶化装置、バイオガスを用いた高効率な燃料電池を組み合わせた高効率消化システム技術について、安定した消化槽運転やガス発生量の増加等を確認するための実証を行った。本技術により、下水処理場のエネルギー自給率の向上、汚泥の集約処理による処分費の低減が期待される。(図-1)
図-1 技術の概要
(2)温室効果ガス削減を考慮した発電型汚泥焼却技術
汚泥焼却炉からの未利用廃熱を活用した高効率発電技術と、既存の流動床式汚泥焼却炉にも適用可能で、NOx、N2Oの排出を同時に抑制する局所撹拌空気吹込み技術を組み合わせたシステム技術について、発電量やNOx、N2O排出量削減効果を確認するための実証を行った。本技術の導入により、下水道施設の電力自給率の向上や温室効果ガス排出量の大幅削減が期待される。(図-2)
(3)メタン精製装置と吸蔵容器を用いた集約の実用化に関する技術
複数の中小規模下水処理場から発生する余剰バイオガスを精製して吸蔵容器に貯蔵し、車両で運搬・集約して1箇所で発電する技術について、年間を通じて安定したガスの精製、発電を行うための実証を行った。本技術の導入により、中小規模処理場における汚泥由来のエネルギーの有効活用の促進、創エネルギーによる維持管理費削減等が期待される。(図-3)
(4)単槽型硝化脱窒プロセスのICT・AI制御による高度処理技術
ICT・AIを活用し、反応タンク流入負荷変動に対応する空気量制御により高度処理と同等処理水質の達成と、空気量と連動した送風機吐出圧力の自動演算・制御により消費電力を削減する技術の実証事業を町田市鳴瀬クリーンセンターにおいて実施中。本技術の導入により、高度処理に比べ建設費の抑制、省エネの実現、維持管理者の負担が軽減され、高度処理化の推進が期待される。(図-4)
4.成果の活用及び今後の展開
国総研では、実証結果を踏まえてガイドラインを作成するとともに、地方公共団体や下水道関係企業等に紹介するため、2019年8月にパシフィコ横浜会議センターにてガイドライン説明会を開催し、100名以上の方々に参加頂いたところである。また、単槽型硝化脱窒プロセスのICT・AI制御による高度処理技術については令和2年1月に実証施設が完成し、運転を開始したところである。今後も、新技術の実証に取り組んでいくとともに、ガイドラインの紹介等により革新的技術の普及に努めていく所存である。
図-2 技術の概要
図-3 技術の概要
図-4 技術の概要
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【参考】各種ガイドライン掲載 http://www.nilim.go.jp/lab/ecg/bdash/bdash.htm