国総研レポート(研究期間 : 平成 29 年度~令和元年度)
国土技術政策総合研究所 都市研究部 都市防災研究室
室長(博士(工学)) 竹谷 修一
(キーワード) 市外地火災,密集市街地,幹線道路
1.はじめに
大地震が発生した場合、地震動による被害を受けた建物に住民が取り残される、ガレキが道路に散乱する、建物が倒壊して道路に倒れ込む等により車両の通行を阻害することが考えられる。また、解消されつつあるものの木造密集市街地はまだ残っており、地震時に多数の火災が発生すれば、消火活動が十分に行うことが出来ず広範囲の市街地に延焼することもあり得る。また、これらの影響により、多くの人的被害の発生も想定される。
人的被害軽減のためには、建物の耐震性の向上に加え、市街地防火性能の向上が必要であり、これまでも様々な取り組みがなされてきた。例えば、不燃建築物、広幅員道路等からなる延焼遮断帯を形成するといった都市レベルの市街地火災対策が代表的なものとしてあげられる(図-1)。この延焼遮断帯により、市街地延焼を抑えるだけでなく、道路上での火災の影響を低減させることから緊急車両の通行や
避難の円滑化も期待できる。ここでは、地震火災時における幹線道路の通行可能性を検討するため、地震火災時の幹線道路で受熱量の試算を行った結果を紹介する。
図-1 延焼遮断帯のイメージ
2.受熱量の試算方法
受熱量の観測箇所は、木造密集市街地が隣接する幹線道路の各車線の中心とし、放射熱流束、温度、さらに温度(差)に対流熱伝達率(0.005kW/(m2・K)とした)を乗じたものに放射熱流束を加算したもの(以後、「全熱流束」という)を計算した(図-2)。なお、この幹線道路沿道建物の多くは耐火建築物であるが、ところどころに防火構造等の建物があり延焼遮断帯としては完全ではない箇所である。
延焼状況や受熱量の推定は市街地火災シミュレータを用いて行った(表)。なお、紙面の都合上、全熱流束の結果のみ以下では示す。延焼状況を確認したところ、出火点を中心に延焼拡大して幹線道路に火災域が到達した後は、円弧状に火災が拡大し、幹線道路沿道付近での火災も時間の経過とともに移動していた。
図-2 幹線道路の車線構成と周辺市街地の状況
表 シミュレーションの条件
3.車線別にみた最大全熱流束
各観測点における全熱流束について、出火からの経過時刻別にそれぞれ最大となる値を車線ごとに示したものが図-3である。
火災域近傍の車線ほど高くなり、西歩道では最大76.4kW/m2となった。人体に影響があると考えられる2.38kW/m2を超える全熱流束となる最初の時間は、西歩道で42分後、東歩道で47分後であった。また、出火後551分後から586分後までの36分間は全ての車線で2.38kW/m2以下となるが、その後再び上昇している。
図-3 車線別・経過時刻別の最大全熱流束
4.道路空間上での活動に対する影響
道路上での活動が火災時でも可能かを簡易に検討するため、出火からの経過時刻別に全熱流束の分布を示したものが図-4である。
幹線道路付近まで火災域が拡大した後は、円弧状に延焼し、全熱流束が2.38kW/m2を超える箇所は途中から2箇所に分岐しながら移動していく。沿道建物だけでなく、その背後も耐火建築物が比較的多い箇所付近では全熱流束は小さくなり、一時的ではあるものの全車線において全熱流束が2.38kW/m2以下となる時もあ(図-3(d))。しかしながらさらに火災が拡大すると、再び道路上での全熱流束は上昇し、道路上での活動に支障が再び生じるようになる。
市街地の状況や風速・風向によっては、この一時的に活動に支障がない時間帯が短くなることも想定されることから、一時的に火災の影響を受けない時間帯での活動は行わないことが望まれる。
※道路空間の緑色は全熱流束2.38kw/m2以下、赤色は2.38kw/m2超
※建物の赤色は当該時点で燃焼中のもの
図-4 出火からの経過時刻別にみた全熱流束の分布
5.おわりに
今後は、その場にとどまった時の火災の影響ではなく、全熱流束の累積や通行速度を考慮しながら、道路上を移動する際の影響についても検討する予定である。また、出火点の位置や風速の違いにより、道路上で活動出来なくなる時間の変化についても検討してく予定である。
謝辞 本研究で用いた「東京都都市計画地理情報システムデータ」の利用に際し、東京都より利用許可を頂いた。ここに記して感謝の意を表す。