(研究期間:平成30年度~)
国総研 道路交通研究部 道路環境研究室
間渕 利明 大城 温 大河内 恵子 瀧本 真理
(キーワード) 無電柱化,低コスト化,合意形成
1.はじめに
国土交通省では、道路の防災能力の向上、安全で快適な通行空間の確保、良好な景観の形成や観光振興等の観点から無電柱化に取り組んできている。平成30年台風21号(図-1)、令和元年台風15号等における電柱倒壊の発生を受けて、無電柱化推進への機運がさらに高まってきている。
図-1 平成30年台風21号による電柱倒壊
しかし欧米の主要都市では無電柱化が概成しているのに対し、日本の無電柱化率は低く、後れをとっている現状である(図-2)。平成28年12月には「無電柱化の推進に関する律」が公布・施行され、平成31年3月には「道路の無電柱化低コスト手法導入の手引き(案)-Ver.2-」が発出され、より一層の無電柱化の推進が期待されている。
一方、無電柱化が進まない主な原因は、コストが高いことに加え、電線管理者との調整や地上機器(トランス)の設置等の地元調整が困難なこと、道路幅が狭いことなどが挙げられる。無電柱化事業のスピードアップのためには、施工の効率化・迅速化のほか、地域や関係事業者との合意形成の促進により、計画段階から施工段階までの円滑化が必要である。
本稿では、施工の迅速化および合意形成の円滑化のための調査・研究を紹介する。
※1 ロンドン、パリは海外電力調査会調べによる2004年の状況(ケーブル延長ベース)
※2 香港は国際建設技術協会調べによる2004年の状況(ケーブル延長ベース)
※3 シンガポールは『POWER QUALITY INITIATIVES IN SINGAPORE, CIRED2001,Singapore, 2001』による2001年の状況(ケーブル延長ベース)
※4 台北は台北市道路管線情報センター資料による台北市区の2015年の状況(ケーブル延長ベース)
※5 ソウルは韓国電力統計2017による2017年の状況(ケーブル延長ベース)
※6 日本は国土交通省調べによる2017年度末の状況(道路延長ベース)
図-2 各国主要都市と日本の無電柱化の現状
2.施工の効率化に関する調査
従来実施されてきた無電柱化の構造である管路による電線共同溝構造(図-3)及び低コスト手法として導入が始まった小型ボックス活用埋設方式(図-4)等の無電柱化の施工に係るコスト構造や技術的課題を整理するため、小型ボックス活用埋設方式および管路方式における施工実態把握調査を実施した。
本調査では、建設機械の規格毎の稼働時間および作業員等の職種毎の作業人数・作業時間等を計測し、国土交通省「新土木工事積算大系 平成31年度改訂版 工事工種体系ツリー」における細別(レベル4)毎に分類し、整理した。その整理結果を用いて、積算単価等に基づき直接工事費を積算および整理し、稼働時間、作業時間等の短縮等により、コスト縮減効果が高い工種を抽出することにより、今後施工の効率化によるコスト低減の可能性がどの程度あるかを明らかにしていく予定である。
図-3 電線共同溝イメージ図
図-4 小型ボックス活用埋設方式イメージ図
3.合意形成の円滑化
国総研では、無電柱化を担当する地方公共団体等が事業を実施する際に参考となるよう、無電柱化事業の計画・実施における合意形成の進め方に関する手引きを作成することを目的として、学識経験者、電線事業者等の無電柱化関係者から構成される委員会において、平成31年3月から検討を行っている。
本検討の中で、議論になった事項の1つとして地上機器の設置場所選定が挙げられる。図-5に示すとおり、地上機器は、道路上、民地、公有地(公園等)等に設置することになるが、事業を進める上でのどの段階で設置場所についての検討をすればよいか等について、活発に議論が行われた。地上機器については、説明段階と実物を見たときでのギャップが大きいことが多いため、事業の早い段階から模型等を用いて説明しておくことが必要ではないか等の意見が得られた。議論の結果を踏まえ、無電柱化事業のフロー図を整理し、「無電柱化事業における合意形成に係る技術ガイド(仮称)」にとりまとめる予定である。
図-5 地上機器の設置場所例
4.今後の予定
施工の効率化に関する調査結果を引き続き分析し、コスト構造を整理し、コスト縮減案を作成する予定である。
また、合意形成の円滑化に関しては、委員会においてご意見をいただきながら検討した結果を「無電柱化事業における合意形成に係る技術ガイド(仮称)」に整理し、全国の地方公共団体の無電柱化担当者へ配布する予定である。
☞詳細情報はこちら
1) 国土交通省 無電柱化の推進 http://www.mlit.go.jp/road/road/traffic/chicyuka/