2021-06-24 農研機構
ポイント
ため池管理者(農家等)が災害時や日常時のため池の点検報告ができるスマートフォン用のアプリ「ため池管理アプリ」を開発しました。農研機構等が開発し、国が行政機関向けに運用する「ため池防災支援システム」と連携し、ため池管理アプリを通じて、ため池管理者等からの報告を反映することが可能です。このため、災害によるため池の被害や日常管理結果を簡単に報告・共有することができ、国や地方公共団体による迅速な災害支援に役立ちます。
概要
ため池管理アプリの画面
2019年度にプレスリリースした「ため池防災支援システム」(以下、「ため池防災支援システム」と記述)は、地震または豪雨時にため池の決壊1)などの被害状況を全国の防災関係者間で情報共有するための災害情報システムです。「ため池防災支援システム」は2020年4月から農林水産省により運用され、地方公共団体による、災害時のため池の緊急点検2)に活用されています。一方、地方公共団体によっては点検報告すべきため池が数百か所と多く、点検に膨大な時間を要する場合があり、情報収集の迅速化に対する要望がありました。
そこで今回、ため池管理者(ため池を管理している農家等)のためのスマートフォン用「ため池管理アプリ」を開発しました。本アプリを用いれば、災害時のため池の被害状況を、ため池管理者が簡単に報告できます。報告された被害状況は「ため池防災支援システム」を通じて防災関係者の間で容易に共有でき、国や地方公共団体による迅速な災害支援に役立ちます。
本アプリは、スマートフォンのアプリストアで「ため池」と検索し、ダウンロードできます。ため池管理者は、都道府県等の行政担当者から配布される「QRコード」をスマートフォンのカメラで読み込むことによって利用を開始できます。
また、本アプリを用いてため池の日常的な施設管理に用いることができます。日常管理の中でため池の老朽化3)や管理状況4)(堤体の草刈りなど)を報告すると、施設の管理状態を評価してアプリに結果を表示します。日常的にアプリを使用することによって、緊急の災害時にも即座に点検報告を行うことができます。
本アプリは地方公共団体の方も利用することができます。ため池管理者からの報告を国、地方公共団体で共有することで、災害時、日常時のため池の管理を適切に行っていくことが可能になります。
関連情報
予算 : 内閣府 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「レジリエントな防災・減災機能の強化」 プログラム : ため池管理アプリ(機構-Q49)
関連リンク
1.ため池管理アプリ操作説明動画 :
YouTube「NAROチャンネル」
https://youtu.be/m1IoFWsXG0A
2.ため池管理アプリ操作方法 :
https://www.naro.go.jp/laboratory/nire/contents/files/20210511tameike_manual_appli.pdf
3.ため池管理アプリ操作方法(ため池管理者用) :
https://www.naro.go.jp/laboratory/nire/contents/files/20210511tameike_manual_appli_user.pdf
問い合わせ先
研究推進責任者 :
農研機構農村工学研究部門 所長藤原 信好
研究担当者 :
農研機構農村工学研究部門 施設工学研究領域 グループ長堀 俊和
広報担当者 :
農研機構農村工学研究部門 研究推進部 渉外チーム長猪いの井い 喜代隆
詳細情報
開発の背景
2020年4月から農林水産省により運用されている「ため池防災支援システム」は、地方公共団体職員による災害時のため池の点検報告に活用されています。「ため池防災支援システム」が運用される前は、現地で被害状況を記録し、事務所に戻って記録を整理してから報告していたため、国や都道府県による被害状況の把握に時間がかかっていましたが、「ため池防災支援システム」によりスマートフォンを用いて現地で災害報告ができるため、迅速に被害情報の共有ができるようになりました。
一方で、ため池の数が多い市町村では、数千か所のため池を担当している場合があり、災害時の点検報告に大きな負荷がかかることがあります。地方公共団体の関係者から、災害時の点検報告に、ため池に一番近い場所にいるため池管理者(通常は、ため池の用水を利用している農家)の協力を得たいとの要望が多く寄せられていました。
開発の経緯
そこで、農研機構等の研究グループが開発した「ため池防災支援システム」に接続し、ため池の日常点検の報告ができるスマートフォン用の点検報告アプリのプロトタイプを2019年に開発し、実証試験を行ってきました。その結果を踏まえ、今年度、アプリの全面改修を行い、災害時のため池の被害と日常的なため池の施設管理をスマートフォンで報告できるアプリを開発しました。
「ため池管理アプリ」の特長
1.簡単操作で誰にでも使いやすい
本アプリは分かりやすい画面設計となっており、高齢の方も多いため池管理者が簡単に操作できます(図1)。ため池に一番近い場所にいるため池管理者が、ため池の現地で点検を行い、スマートフォンの画面に表示される質問に「はい」、「いいえ」で回答するだけで、国や地方公共団体に被害状況を伝達することができます。災害時の点検報告については、最少4回のタップで報告が可能です。
2.災害時の点検報告への活用
本アプリを用いて、災害時のため池の緊急的な点検報告ができます。また、アプリから撮影した現地の被害写真も共有が可能です(図2、図3 ; 点検報告の様子)。実際にため池に被害がある場合には、アプリから報告することで、国や地方公共団体からの迅速な支援を受けられることがため池管理者にとってのメリットです。
点検結果はアプリの地図画面上で「危険(赤色)」「注意(黄色)」「安全(青色)」で表示されます。また、他の端末のアプリや「ため池防災支援システム」からの報告もアプリに表示されます。ため池管理者、地方公共団体、国からの災害支援者とで協力して点検報告が可能です。
3.日常点検への活用
農林水産省の手引き「ため池管理マニュアル」に記載されている点検様式がアプリに格納されており、質問に「はい」「いいえ」で回答することによって、ため池の施設の劣化や管理の状態を報告することができます。報告すると、管理状態を評価して、「危険」「注意」「注意(改善)」「注意(悪化)」「安全」の表示を行います。
4.山奥で電波が届かないため池の場合や災害時に通信ができない場合にも、アプリに記録しておけば、通信が回復した時点で自動的に報告が行われます。
5.プッシュ通知機能
地震や豪雨が発生してため池の点検が必要になると、「ため池防災支援システム」からアプリに、「緊急点検対象のため池」のプッシュ通知が自動的に配信され、点検が必要なため池が地図に表示されます。また、台風が近づいているときなど、ため池の監視等に注意が必要な場合には、国や都道府県から、注意喚起のプッシュ通知がアプリに送られます。
地方公共団体にとっての特長
1.本アプリは、ため池管理者だけでなく、市町村や都道府県の地方公共団体の職員も利用することができます。市町村職員は、「ため池防災支援システム」でも点検報告が可能ですが、操作が簡単な本アプリによる報告をお勧めします。
2.ため池の数が多い市町村では、ため池管理者にアプリから点検報告してもらうことによって、災害時の点検の省力化・迅速化が図れます(図4)。
3.プッシュ通知機能を用いて、都道府県からため池管理者に、豪雨が予想されるときの注意喚起だけでなく、ため池管理者登録等に関する連絡等にも利用可能です。
「ため池管理アプリ」の入手方法
1.本アプリは、「Playストア」「Appストア」から自由に入手できます。ただし、利用開始には、地方公共団体から配布される利用開始QRコードが必要です。
2.本アプリは、Android6.0以降のAndroid端末とiOS10.3以降のiOS端末に対応しています。
今後の予定
今後は、国や地方公共団体と協力して、全国のため池管理者への普及を図っていく予定です。ため池管理者や地方公共団体の意見を踏まえて、使いやすさなどの改良を行っていく予定です。
用語の解説
- 1)決壊 :
- ため池の堤体(水を貯めるために、小さい沢や河川に土を盛ってせき止めた堰)が壊れて貯水が一気に流れ出す現象です。地震の場合は揺れによって堤体が沈下したり崩れたりして決壊することがあります。豪雨の場合は、大量の雨水がため池の貯水池に流れ込み、堤体の上を水が溢れて浸食されること等により決壊することがあります。
- 2)緊急点検 :
- 主に地震の直後にため池に損傷がないかを点検することをいいます。震度4以上の地震が発生した場合に防災重点ため池(決壊した場合の浸水区域に家屋、公共施設等が存在し、人的被害を与えるおそれがあるため池)について被災の有無を農林水産省に報告することになっています。豪雨では大雨特別警報が発令された地域のため池が緊急点検の対象となります。
- 3)(ため池の)老朽化 :
- 老朽化によりため池の堤体が水漏れしたり、変形したりする状態をいいます。洪水吐(大雨のときに水を安全に放流するための水路)や取水施設(用水を取水するための施設)などの損傷等も含まれます。
- 4)ため池の管理状況 :
- ため池の堤体の草刈りや洪水吐に溜まったごみの除去など、ため池を安全に保ち、安定的に取水するための施設管理の状況をいいます。
※ 「QRコード」は株式会社デンソーウェーブの登録商標です。
発表論文
堀 俊和ほか、災害時のため池の被害情報の迅速な把握と防災対策への活用、地盤工学会誌、2020年
参考図
図1 「ため池管理アプリ」の画面。地図上からため池を選択して、「緊急点検」もしくは「日常点検」の報告ができます。一問一答形式で簡単に操作可能。
図2 現地の被害写真の共有
現地の被害状況や写真を即座に情報共有。
図3 ため池管理者による現地点検報告
図4 「ため池防災支援システム」との連携
「ため池防災支援システム」の画面を示しています。点検結果や被害写真を「ため池防災支援システム」と連携して共有。国、地方公共団体、ため池管理者が連携して、防災対策を実施可能。ため池管理アプリで報告した結果が、危険度に応じて赤、黄、青で表示されます。