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施工体制の確保のための処方箋 ~東日本大震災以降の国土交通省における主な取り組み~

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JICE REPORT 第38号 国土技術研究センター

2021-01
技術・調達政策グループ首席研究員 小宮 朋弓
技術・調達政策グループ副総括(研究主幹) 隅蔵 雄一郎
技術・調達政策グループ主任研究員 下嶋 正憲

1 はじめに

2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災以降、大規模災害の頻発化や少子高齢化の進行などにより、公共事業を取り巻く状況は変化し、工事内容や地域によっては、施工体制を確保することが困難となりつつある。そのような状況の変化を踏まえ、国土交通省では施工体制確保の取り組みを進展させ、課題に応じて対応を実施してきている。
本稿では、国土交通省における災害復旧・復興時の課題に応じた施工体制の確保等の取り組みについて、事業プロセス毎に概観するとともに、新しい取り組みである ECI(Early Contractor Involvement)方式及び試行がはじまったフレームワーク方式の特徴と課題及び今後への期待について示すものである。

2 東日本大震災以降の公共工事における施工体制確保の課題

大規模な災害が発生すると、公共工事の入札不調・不落が増加する。東日本大震災以降の国土交通省直轄工事における不調不落の発生割合の推移をみると、震災から1~2年後は入札不調・不落の発生割合は増加したが、その後各種対策の実施により発生割合は低下していった。しかし、その後の相次ぐ災害の発生(2015 年 9 月関東・東北豪雨、2016 年 4月熊本地震、2018 年 7 月豪雨等)もあり、入札不調・不落の発生割合は増加傾向1)となり、通常の工事や災害時の対応における円滑な発注と施工体制の確保が課題となっていた。
また、許可業者数を見ると、2016 年度は 2006 年度と比べて、全地域において減少傾向にあり、特に地方部の減少率が大きい傾向にある。2)
インフラの老朽化が進行していくなか、地域のインフラの維持修繕や災害時の応急復旧に対応していくためには、地域の建設業者の存在が必要不可欠であるが、その施工体制の確保が懸念されるところである。

3 災害復旧・復興時の施工体制確保に向けた国土交通省の主な取り組み

前述の背景のもと、国土交通省における、円滑な発注と施工体制確保に向けた主な取り組みを以下に示す。

(1) 発注者の体制強化:事業促進 PPP 3)
発注者の体制強化の取り組みとして、事業促進 PPP(Public Private Partnership)を導入している。東北地方での震災復興や関東地方での大規模事業等で導入し、早期供用等の効果をあげている。
(2) 採算の確保
受注者が採算を確保できるよう、資材調達に係る間接費の割増係数の設定や、他の遠隔地域からの労働者確保のために必要となる経費を計上する等、積算方法の見直しの工夫を行っている。
(3) 施工体制の確保
受注者が施工体制を確保できるよう、地域外の建設企業も構成員として競争参加を認める復興 JV、一定条件での工事兼任を許可する技術者要件の緩和、工事価格帯の上限を引き上げる発注ロット拡大の取組み、さらにはフレームワーク方式を試行(5章で詳述)している。
(4) 施工者のノウハウ反映
建設コンサルタントが実施する設計に、施工者独自ノウハウや工法が反映できる ECI 方式を導入している。
本方式については、4章で詳述する。
(5) インセンティブの向上
直轄土木工事の成績評定要領(港湾空港関係を除く)を2019 年 3 月に改定し、災害時の緊急対応工事に関する評価項目(新設)に該当すれば、最大 2 点が加点されるインセンティブ向上の取り組み4)を行っている。
施工体制の確保のための処方箋 ~東日本大震災以降の国土交通省における主な取り組み~

図1 概略の建設生産システムと段階ごとの主な対応策

これらの対応策を、建設生産システム(概略)の段階ごとに整理したものを図1に示す。

4  ECI方式の適用

4.1 ECI 方式の概要 11)12)

「技術提案・交渉方式(技術協力・施工(ECI:Early Contractor Involvement)タイプ)」(以下、ECI 方式という)は、2016 年の熊本地震での復旧工事で初めて適用されて以来、適用事例が増えている方式で、「技術提案に基づき選定された優先交渉権者と技術協力業務の契約を締結し、別の契約に基づき実施している設計に技術提案内容を反映させながら価格等の交渉を行い、交渉が成立した場合に施工の契約を締結する」方式である。
建設コンサルタントが実施する設計に、施工者独自の高度で専門的なノウハウや工法が反映できるのが特徴で、設計段階で、発注者と設計者に加えて施工者も参画することから、種々の代替案の検討や設計段階から施工計画の検討が可能となる。早期の工事着工と事業期間の短縮効果も期待でき、設計段階で施工者を確保できるので、早い段階から施工体制の確保も可能となる。13)

4.2 国土交通省の適用事例 13)

2017 年(平成 28 年)の熊本地震災害の早期復旧に向けて、国道 57 号復旧ルートの一部である「二重峠トンネル」の工事発注で ECI 方式が採用された。
発注者である国土交通省九州地方整備局熊本河川国道事務所では、
①ルートが未確定な中、災害復旧に伴う工期短縮等の最適な施工仕様を設定するため
②企業のノウハウを活用して工期短縮を図るために、当該方式を採用している。
当該工事への ECI 方式の適用により、
● 設計と工事発注手続きを同時進行し、工事着手が半年以上前倒し
● 技術提案を反映し、施工期間を1年以上短縮
● 大幅な手戻りが無く、協議回数や協議時間の短縮
● 発注者と施工者の共通認識が統一され、スムーズに事業が進められる
といった効果・利点が認められている。

4.3 地方公共団体の事例 14)

奈良県磯城郡田原本町では、橋梁維持修繕事業において、ECI 方式を試行的に導入した。
田原本町の方式は、施工者に技術提案を求める契約形態とせず、設計時に現地条件を熟知した地元施工業者の技術協力を得ながら、合理的に事業を進捗させる契約形態を採用した点と、設計者に CMr(Construction Manager)的に施工に関与させた点が特徴である。地元の担い手(施工者)育成といった観点も踏まえ、先行発注の設計による概略図面・数量で工事を早期に発注し、三者協定を締結する方式としている(図2)。

図2 田原本町における ECI 方式の契約形態※
※田原本町ご提供資料に基づき作成

試行導入の結果、以下の効果が認められている。
● 従来方式に比べて約 47%の工期短縮
● 現場情報の相互確認が早期に行われ、設計の手戻りが解消、設計意図の円滑な伝達やタイムリーな意思決定等が実現、全体として品質が確保・向上
● 発注者、施工者負担が軽減され、人員不足に対する課題改善効果を確認、特に発注者は従来方式に比して事務負担(人・日)が約 26%程度短縮

また、町独自で「橋梁保全事業に関する ECI 方式ガイドライン 平成 30 年 2 月」も作成しており、積極的な取り組み姿勢が見られ、他の市町村の参考となるものと考えらえる。

5 フレームワーク方式の試行

5.1 フレームワーク方式の概要 15)

欧州では、フレームワーク合意方式(Framework Agreement)といい、EU 公共調達指令に基づく「長期指名候補者との事前合意制度」として規定されている方式である。
当該方式は、 第一段階で入札により、「長期指名候補者(フレームワーク企業)」を選定した上で、それら企業と一定期間内の個別発注に関する契約条件等 ( フレームワーク ) にあらかじめ合意を行う。そして、第二段階の個別発注では、合意内容に基づいて受注者を選定する方式である。
フレームワーク方式は、受発注者の事務手続きの軽減と複数年の受注計画が立てやすいという効果が期待できることと、予定工事への入札を希望する企業を集めて指名候補者名簿を作成することから、通常の一般競争入札や指名競争入札と比べ、個別案件の工事入札の際に不調・不落が起きにくくなるものと想定される。

5.1 我が国のフレームワーク方式(試行)の概要 16)

(1) 災害復旧推進フレームワークモデル工事の概要

2020 年(令和 2 年)2 月 5 日に、関東地方整備局利根川上流河川事務所と下館河川事務所から、「災害復旧推進フレームワークモデル工事」の試行が公示された。
当該試行は、度重なる自然災害により、災害復旧工事が多数発生し、受発注者双方の施工体制の確保を図る必要性から採用された。複数の工事に対して参加希望の意思を確認し、施工能力を審査した上で、特定工事参加候補者名簿を作成し、その中から「指名競争入札」を実施するものである(図3)。


図3 災害復旧推進フレームワークモデル工事の概要※
※関東地方整備局記者発表資料に基づき作成

(2) 災害復旧推進フレームワークモデル工事の効果

2019 年度の第4四半期に利根川上流河川事務所と下館河川事務所で当該モデル工事の発注手続きが行われた。当該モデル工事と同時期に発注手続きをした他の方式の工事(一般土木:一般競争入札 143 件、指名競争入札 46 件)を比べると、他の方式は落札者決定割合が約 8 割程度であったが、災害復旧推進フレームワークモデル工事は全件(26 工事)で落札者が決まり、不調・不落が回避される効果が確認されている。17)
施工体制の確保におけるフレームワークモデル工事の利点としては、「初期手続きとしていきなり技術資料等まで揃えるのではなく、参加表明する程度なので、参加へのハードルが低いという点と、総合評価項目も災害活動実績の有無程度だけなので、会社の基礎点で大きく差がつかないこともメリットとして考えらえる(関東地方整備局)」18)といった点が挙げられる。

(3) フレームワークモデル工事の課題と今後への期待

関東地方整備局では、新型コロナウィルス感染症拡大の影響による、技術者の確保や労働力、資機材の調達が困難である等の理由で競争参加者が少数と見込まれ、技術的難易度が低い工事において、フレームワークモデル工事の拡大を進めている。17)
しかし、既に発注・契約手続きが進んでいる 2020 年度発注のフレームワークモデル工事では、2019 年度の試行ではなかった不調が発生している。
不調が発生している要因としては、
①「参加希望者への指名回数が平等になるように工夫はしている」17)ものの、必ずしも受注が平等になるとは限らない。
②「フレームワーク協定の期間が現時点は単年度である」18)ため、各社は長期的な視点で受注計画を立てにくく、人材、資機材の確保に踏み切れない。
といった課題を抱えていることにより、通常の指名競争との差別化が図れず、参加意欲の向上につながっていない可能性が考えられる。また、2020 年度は、「昨年度の台風 15 号、19 号の被災による災害復旧工事等が発注され、今年度まで繰越工事となっている等により、フレームワークモデル工事を含む新規発注工事の技術者及び下請けの確保が困難」18)といった影響もある。
フレームワーク方式は試行段階であり、今後、様々な工種、地域条件で試行と評価を重ねることで、適用上の課題や条件等を明らかにし、多様な入札契約の中の一方式として位置づけられることが望まれる。

6 おわりに

ECI 方式については、国土交通省で災害復旧・復興以外でも適用事例は増えつつあり、施工者の技術やノウハウを活用して円滑な事業執行に効果があることが確認されている。最適な仕様の設定が困難な工事をはじめ、施工者の高度な技術、工法、ノウハウの活用が求められる工事への適用により、円滑な事業執行に効果を発揮することが期待される。
一方、国土交通省だけでなく、基礎自治体においても試行導入ができ、その効果が認められており、地域の実情に応じて十分活用可能な方式であることが示されている。高度な技術力が必要で難易度が高い工事に限らず、ECI 方式を適用し、施工者のノウハウを設計時から活用することで円滑な事業執行が期待できる。
フレームワーク方式については、本格導入に向けて試行を重ねて課題の洗い出しと改善策の整理が必要であるが、不調・不落の抑制や担い手の確保・育成に有効な方式の一つとなると考えられる。ただし、どのような工事にも効果があるとは限らず、地域の実情を十分踏まえて適用する必要がある。そのため、本格導入時には、ガイドライン等の整備が必要となろう。
また、地方公共団体での工事発注は指名競争入札がまだ多い。フレームワーク方式は、工事を希望する業者を対象に、オープンなプロセスの下で工事参加候補者名簿を作成するため、不調・不落の抑制や計画的な施工体制の確保につながるものと考えられる。
将来に向けた地域の防災力の確保・強化には、地域の担い手の安定的な確保・育成が必要であり、フレームワーク方式が有効となる地域条件や工事内容等について把握し、多様な入札契約方式の一つにフレームワーク方式を位置付け、活用できるようになることが期待される。
国土技術研究センターでは、調査・研究と政策提言を通じて、国や地方公共団体における施工体制の確保、地域の防災力の確保・強化に貢献してまいりたい。

参考文献

1) 国土交通省:発注者責任を果たすための今後の建設生産・管理システムのあり方に関する懇談会 令和元年度第 2回 資料 2,pp9, 国土交通省 ,2020.2.18
2) 国土交通省:中央建設業審議会・社会資本整備審議会産業分科会建設部会 平成 30 年審議 第 1 回基本問題小委員会 資料 1,pp.22, 国土交通省 ,2018.2.13
3) 国土交通省:国土交通省直轄の事業促進 PPP に関するガイドライン ,pp.2, 国土交通省 ,2019.3
4) 国土交通省大臣官房技術審議官:請負工事成績評定要領の運用の一部改正について(別紙 2- ②),pp.1, 国土交通省 ,2019.3.29
5) 国土交通省:記者発表資料 平成 30 年 7 月豪雨からの復旧・復興工事を加速化 ,pp.2, 国土交通省 ,2020.8.8
6) 国土交通省:発注者責任を果たすための今後の建設生産・管理システムのあり方に関する懇談会 建設生産・管理システム部会(令和元年度 第 2 回)資料 2,pp.11 ~pp13, 国土交通省 ,2020.2.18
7) 国土交通省:復興 JV 制度について(概要),pp.1, 国土交通省 ,2012.10.10
8) 国土交通省:建設工事の技術者の専任等に係る取扱いについて(平成 26 年 2 月 3 日)参考資料 ,pp.1, 国土交通省 ,2014.2.3
9) 国土交通省:記者発表資料 「建設業法施行令の一部を改正する政令」が閣議決定されました ,pp.1, 国土交通省 ,2020.5.15
10)国土交通省:災害復旧における入札契約方式の適用ガイドライン ,pp.19, 国土交通省 ,2017.7
11)国土交通省:国土交通省直轄工事における技術提案・交渉方式の運用ガイドライン ,pp.11, 国土交通省 ,2020.1
12)国土交通省:公共工事の入札契約方式の適用に関するガイドライン【本編】,pp.46, 国土交通省 ,2015.5
13)内田均:2019 年度 第 11 回公共調達シンポジウム「早期復旧に向けた二重峠トンネルにおけるECI方式の活用」,pp.1-3, 国土交通省九州地方整備局熊本河川国道事務所 ,2019.6.18
14)薮内慎司:インフラメンテナンス国民会議近畿本部フォーラム 2019「橋梁維持修繕事業における新たな契約方式(ECI方式)の試行的導入について」,pp.1-18,奈良県磯城郡田原本町産業建設部 ,2019.3.30
15)小川智弘 , 天満知生 , 森田康夫 , 佐渡周子:国土技術政策研究所資料 No.908,pp.2,2016.3
16)国土交通省関東地方整備局利根川上流事務所:記者発表資料 利根川上流河川事務所において「災害復旧推進フレームワークモデル工事※」を試行します。,pp.1-2, 国土交通省関東地方整備局利根川上流事務所 ,2020.2.5
17)国土交通省関東地方整備局企画部技術管理課:建設マネジメント技術 2020 年 10 月号「関東地方整備局におけるフレームワークモデル工事(総合評価落札方式)の導入による効果分析等について」,pp.36-39, 一般財団法人経済調査会 ,2020.10.1
18)関東地方整備局ご担当者へのヒアリング結果より

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