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強震モニタリングシステムの開発

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国総研レポート2020(研究期間:平成29年度~令和元年度)
国土技術政策総合研究所 道路構造物研究部 道路地震防災研究室
研究員 石井 洋輔
研究官 大道 一歩
室長(博士(工学)) 片岡 正次郎

(キーワード) 地震時挙動観測,無線通信,MEMS式加速度計

1.はじめに
国総研では、土木構造物の耐震設計基準の合理化・高度化及び地震時挙動の解明を目的として、昭和33年から地震時挙動の観測をしている。従来は、コスト等の理由により一つの構造物あたり3箇所程度で行っていた。これまでは、得られた観測記録による構造物の地震時挙動の分析を踏まえ、実地震時の被害の状態に照らして包括的に耐震設計法の妥当性を検証してきたが、新たな構造形式の開発などを想定すると、部材毎の減衰特性等やその構造物全体の挙動との関係も精度良く把握することが必要と考えられ、一つの構造物に対し、複数の箇所で観測する必要がある。
近年では 、MEMS ( Micro Electro Mechanical Systems)式加速度計等の小型かつ安価な計測機器の開発や無線通信技術の発達により、一つの構造物に対して複数箇所での観測が低コストで実現できることが期待されている。しかし、これらの新技術は、屋外での通信技術や電源の確保など、運用面での検証が不十分であった。構造物の地震時挙動観測は広く実施されているものの、MEMS式加速度計や無線通信技術を屋外で用いている例は多くない。そのため、国総研では、これらの新技術の適用性を検証し、新技術を活用して一つの構造物の複数箇所を観測し、容易に構造物全体系の挙動を観測できるシステム(以下、「強震モニタリングシステム」という。)の構築を進めている。

2.観測システムの概要
強震モニタリングシステムの概要図を図-1に示す。橋に設置した加速度計で観測した記録は、リアルタイムの連続記録として現地の受信機に無線通信で集約され、受信機からモニタリングシステムのサーバに送信される。サーバでは得られた記録から橋の挙動等が計算され、執務室のPCからサーバにアクセスすることで計算結果を確認することができる。
国総研では、強震モニタリングシステムの有用性を検証するために、茨城県内の高架橋1橋を対象に試験的にMEMS式加速度計の設置を行った。本研究で構築した強震モニタリングシステムは、観測記録が無線通信で回収可能のため、配線等の設計・設置を実施する必要がない。さらに、センサーが小型になったことにより、検査路を用いて磁石や接着剤で取り付けることができ、設置作業が簡易であることが挙げられる。強震モニタリングシステムを構築するそれぞれの加速度計は、バッテリーで稼働しており、屋外での電気の確保が容易である。

図-1 強震モニタリングシステム概要図

3.性能検証
橋にMEMS式加速度計を設置し、省電力で長距離の通信が期待できるFM式の通信モジュールを用いた無線通信により得られた記録を基に検証を行った結果、以下の点を確認した。
・橋に加速度計を複数個設置し、観測された地震記録を比較した結果、主桁下フランジ、橋脚橋座、フーチング上面で得られた記録はそれぞれ異なる特徴を持ち、地震時に橋の各部位は複雑に挙動していることが確認できた。
・MEMS式加速度計は、従来観測に用いている地震計(サーボ型地震計)の記録とほぼ同じスペクトルの形状を示しており(図-2)、従来の観測と同等であることを確認した。
・FM式の無線通信による観測記録は、送信時のデータ圧縮により長めの周期で精度の良くない部分が見られたが、ピーク値等の橋の地震時挙動の観測に必要な特徴は合致していた(図-3)。データの圧縮を改善すると、長めの周期でも概ねピーク値が一致した。
・FM式無線通信の通信モジュールをSub-GHz帯に変更することで、100m以上離れても観測記録を伝送できることを確認した。さらに、それぞれの加速度計から独立して受信機に観測記録を伝送するのではなく、加速度計に無線通信で観測記録を送受信する機能を付加し、加速度計同士をリレーさせることで無線通信の距離を短くて通信安定性を向上させた。
本研究で構築した強震モニタリングシステムの構成図を図-4に示す。また、強震モニタリングシステムの設置例を図-5に示す。令和元年度は、図-6に示した東北地方から九州地方に架設されている橋に強震モニタリングシステムを設置した。

図-2 サーボ型地震計とMEMS式加速度計の比較

図-3 無線通信と有線通信の観測記録の比較

図-4 強震モニタリングシステム構成図

図-5 強震モニタリングシステム設置事例

図-6 設置位置(東北-九州地方)

4.今後の予定
強震モニタリングシステムで得られた全国の様々な形式の橋の地震時挙動記録を分析し、橋の地震時挙動の検証を行う。さらに、強震モニタリングに加えて、強震時や被害発生時に、観測結果から被害内容を検知する「即時被害検知機能」の検証を行う予定である。

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