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防火・避難規定の合理化 に向けた技術開発

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国総研レポート2020(研究期間 : 平成 28 年度~令和元年度)
国土技術政策総合研究所 建築研究部 防火基準研究室
室長(博士(工学)) 成瀬 友宏
主任研究官(博士(工学)) 鈴木 淳一
主任研究官(博士(工学)) 樋本 圭佑
主任研究官(博士(工学)) 水上 点睛
都市研究部 都市防災研究室  室長(博士(工学)) 竹谷 修一

(キーワード) 避難安全性,大規模木造建築物,市街地建築物,主要構造部

1.はじめに
既存建築物や歴史的建造物を用途変更や改修で有効活用することにより地域活性化や国際観光の振興等につなげることが、地方公共団体やまちづくり等を行う民間事業者等から求められている。国総研では、こうした既存建築物活用の取り組みの円滑化を図るため、建築基準法(以下、法)の防火・避難規定の合理化・運用円滑化に資する技術開発に取り組んでいる。本稿では、令和元年度に検討した成果の概要を紹介する。

2.技術開発の概要
(1) 在館者避難安全に関わる基準合理化
昨年度までの成果をもとに、在館者の避難安全性確保の観点から、柱、梁、壁、床等の主要構造部を耐火構造等とすることが要求されるホテルや物販店舗といった特殊建築物のうち、3階建て200m2までの小規模なもは、避難に要する時間が短いことから、主要構造部に対する耐火構造等の要求が緩和された(図-1)。今後は、法による要求が少ない住宅用途の建物を福祉施設や診療所等に転用することが予想されるものの2以上の直通階段の要求がその妨げとなっている建物について、階段室の区画化等により、階段が1つでも同等の避難安全性を確保できる条件について検討した。
また、避難安全上、主要構造部への防耐火性能を要求する無窓居室に対する基準や異種用途区画の基準について、火災の早期覚知や警報により早期の避難開始により安全性を確保する措置を検討した。

(2) 木造建築物等の基準合理化
令和元年に、木質系の構造材料を用いた建築物に図-1 小規模福祉施設における1つの直通階段の例関する改正法・施行令が施行された。木造建築物の高さと主要構造部の耐火性能に関する制限(法第21条第1項)に関しては、本研究の知見をもとに、通常の消火措置の効果を考慮して、火災時の建築物の倒壊防止を実現するための建築物の主要構造部等の評価方法を構築し、要求性能に適合する構造方法を整理した。
また同様に、特殊建築物の主要構造部の耐火性能に関する要求(法第27条)に関して、避難上建築物の主要構造部等に要求される性能に対する評価方法を構築し、要求性能に適合する構造方法を整理した。

図-1 小規模福祉施設における1つの直通階段の例

(3) 市街地火災防止に関する基準合理化
建築物の防火性能を確保するために、道路中心線や隣地境界線等から1階においては3m、2階以上については5mの範囲については「延焼のおそれのある部分」として、開口部には防火設備を設けること等が義務づけられている。従来は距離によって一律に定められていたが、平成30年に隣地境界線等と壁面のなす角度に応じて延焼のおそれのある部分から除外する法改正が行われた。
令和元年度はこれを受けて、隣地等にある火元建築物との位置関係(距離、角度、高さ等)によっては熱を受けにくくなることを踏まえて隣地境界線等と壁面のなす角度に応じて延焼のおそれのある部分から除外出来る範囲について具体の検討を行った(図-2)。また、同一敷地内にある2つ以上の建築物の場合、従来はそれぞれの建築物の壁面の中心線から一定の距離については延焼のおそれのある部分とし、たとえ隣の建築物が低層であっても、水平距離が一定の範囲内については高層階まで防火設備等が求められていたが、隣の建築物が火災となっても影響しない高さについて検討し、高さ方向において延焼のおそれのある部分から除外出来る箇所について検討を行った(図-3)。

図-2 隣地境界線等と壁面のなす角度による延焼のおそれのある部分の合理化

図-3 高さ方向の延焼のおそれのある部分の合理化

また、歴史的建造物の利活用のため、必要に応じ全国一律であり、また、新築を対象として構成されている建築基準法の全部又は一部の適用を除外し、代替措置による安全性の担保を目指す方法が望まれる。いくつかの手法が考えられるが、令和元年度は法第38条(建築基準法で想定していない材料や構法などの使用)の大臣認定制度を用いた代替措置の検討を行った。
旧法第38条評定内容の事例整理より、現行の性能検証手法でカバーされない内容として、隣棟延焼対策(門塀や水幕などの遮蔽効果)に関わる検証が挙げられた。そこで建物種別の分類で多かった茅葺建物を例に、遮蔽物対策による火源の低減効果の検証マニュアルを用意するため、実験的な検討を行った。
文献により確認された各種防火対策より、各種不燃材を屋根裏側に設置した3仕様と、対策を施さない茅葺のみの仕様、散水設備を設置した仕様の合計5つの試験体を作成した。散水量1.8L/分/㎡の条件で、通常よりも厳しい風速5m/s環境下での飛び火試験を行った結果、屋根上面での着炎を防止できることを確認した(図-4)。また屋根裏に各種不燃材を張り足した茅葺屋根の燃焼実験を行った結果、発熱量と火炎高さの抑制が確認された(図-5)。これらの成果は散水設備の要求性能や防火対策に応じた必要離隔距離の算定基準として役立てられる予定である。

図-4 散水された茅葺屋根上面での飛び火試験

図-5 屋根裏に不燃材下張りした茅葺の燃焼実験

3.今後の予定
本課題は当初の成果を予定より早期に達成できたため、計画より1年早く終了することとなった。今後は、国土交通省関係部局、建築研究所、学識経験者ら等との連携を継続し、普及に向けた検討を進めていく予定でる。

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