A study on riverine community development along Kuji River and Naka River
リバーフロント研究所報告 第 31 号 2020 年 9 月
まちづくり・防災グループ 次 長 竹内 秀二
企画グループ グループ長 柏木 才助
まちづくり・防災グループ 研 究 員 佐 治 史
まちづくり・防災グループ 研 究 員 阿 部 充
まちづくり・防災グループ 研 究 員 二 瓶 智
まちづくり・防災グループ グループ長 阿 部 徹
主席研究員 水草 浩一
1. はじめに
茨城県と栃木県を流れる久慈川と那珂川の流域は、八溝山地の東西に、丘陵、平野と川や海の大自然が拡がり、農産物や海産物の収穫量も多く豊かな地域であり、首都圏において自然に恵まれた場所となっている。
本研究では、タイムラプスカメラを活用した河川利用把握の試みと久慈川・那珂川の河川利用を活性化するための提案について報告する。
2.タイムラプスカメラによる河川利用把握
河川利用実態調査において、2 時間おきの観測から連続観測にする手法の可能性を検討するために、タイムラプスカメラによる観測を試行した。
久慈川右岸の東海地区に整備された散策路の利用状況を撮影できるように、通過点にあたる前川樋管前面の管理橋に向けて、樋管操作室内からタイムラプスカメラを用いて連続した定点撮影を行い、1 日当たり 1人、2 人という少ない利用者も計数できた。長細い平面形状の散策路では立ち止まる人は少ないため、2 時間おきに調査員が観測するやり方では、実際の利用者数を計数できない可能性が大きい。
自転車の速度で通過しても利用者を捉えられるように、撮影間隔を 2 秒間に設定した。現場に調査員が張り付かなくても、日の出から日没の利用者を撮影することができた。
ただし、調査員が大量(1 日あたり約 2 万枚)の画像枚数を読み取る内業作業に時間を要するため、今後は、画像読み取りなどの専門家の協力を得て、AI 技術等の活用によって自動的な計数ができるようになれば、より効果的な方法になると考えられる。
表-1 タイムラプスカメラによる観測結果[人]
図-1 タイムラプスカメラ設置状況(操作室内)
図-2 撮影画像の一例(囲みに 1 名)
3.久慈川・那珂川の河川利用活性化への提案
3-1 拠点を含む地域のルートマップの作成
久慈川・那珂川の沿川自治体には、かわまちづくりの利活用の拠点になり得る場所が川沿いに存在する。
地域活性化に資するかわまちづくり拠点は、継続して利用される必要がある。そのためには、定期的に地域の魅力を発信して、認知度や共感を広めていくことが大切である。魅力をわかりやすく紹介するために、地元自治体と河川管理者が協力して、かわの拠点を含む地域を対象に、現地踏査に基づいた案内マップを作
成することが、まちとかわの資源を活かすために有効と考えられる。
河川への来訪の目的は観光以外にも、スポーツや健康などと多様化してきているため、地域内の移動手段は徒歩、自転車、カヌーなども有効である。整備するかわまちづくり拠点には、利用者の活動や移動を支援できる設備や体制を備えると良いと考えられる。
久慈川・那珂川では、強靭化計画や令和元年台風 19号の災害復旧で堤防などの治水施設の整備が進められているので、自動車が通る道路とは別に、河川堤防が地域内や中流と下流をつなぐ経路として利用できる可能性がある。自動車交通から分離されることで、安全性と快適性が確保できると考えられるので、健康運動やスポーツ活動に活用するとともに、普段の通勤、通学、買い物の経路としても利用できると考えられる。
図-3 久慈川でのマップの例(検討途中)
3-2 河川利用可能地区の情報提供資料
河川という公共空間に対しては、一般の方々も民間事業者も「使えない」「許可されない」という意識を持っている人がほとんどである。
このような河川空間を適切に利用してもらうためには、河川空間で利活用できる場所に関する情報をわかりやすく著した資料を作成し、河川管理者が SNS 等の手段を活用して、言わば「河川空間利用の不動産情報」を提供していくことが有効と考えられる。住所、接道条件、設備関係、面積などを示した現地見取図、周辺の観光施設等位置図、交通アクセス図、制約条件、留意事項などを不動産物件チラシのように作成するのが良いと考えられる。このようなチラシを用いて広報することは、地域に眠っているニーズを掘り起こすために有効な手段である。
図-4 那珂川での利用可能範囲や関連施設を示す例
3-3 沿川自治体と河川管理者の連携
河川管理者と沿川自治体では、1994 年の久慈川の辰ノ口親水公園整備から 27 年にわたって、かわまちづくりの整備に関する協議を継続してきている。この間に発生した大出水や大震災の被害に対しても、両者は協
力して復旧復興を行ってきた。このような関係が、河川に対する安全性や快適性などの意識を共有すること
につながり、円滑な災害対応に貢献している。
久慈川と那珂川の沿川では、河川管理者と沿川自治体が共同して「久慈川・那珂川緊急治水対策プロジェクト」を決定し、2020 年 1 月から、災害復旧の治水施設整備と併せて、土地利用の工夫や地域振興に取り組んでいる。
地域の魅力を満喫できるような体験と併せて、河川周辺の散策などへの参加者が増えれば、多くの人が平常時の川の姿を知ることにもなり、上流と下流の位置関係や土地の高低差もわかるようになる。大雨時に水防災を意識することにも役立つと考えられる。
3-4 河川空間でストレス軽減
新型コロナウィルス感染症拡大防止対策の外出自粛の際に、オープンスペースである河川空間へ多くの人たちが出掛けたことが報道されていた。ヒューマンディスタンスを確保しやすい河川空間は、人間の心身の健康を回復するために役立つことが再認識された。ストレスケア専門の医療機関である福岡県不知火病院のホームページには、「水面と光の変化に五感をゆだねる」という見出しが記載されている。
なお、当研究所の研究所報告 1997 年版では「河川のストレス軽減効果」を報告している。これによると、市街地と河川上流域の様子を、現地及び室内映像で被験者に体験してもらい、ストレス度合いを筋電値で、意識の集中をα波で、リラックス度合いを AP 値で計測した結果、どの項目も河川空間の方がストレス軽減される傾向を示すことが明らかになった。
今後は、遠方旅行への不安や制約が予想され、近郊旅行の需要が増える可能性があると考えられる。東京から 2 時間圏内にある久慈川・那珂川沿川は、こうしたニーズを受け入れる場所となることも期待される。
また、わが国でもテレワークがより推進される方向にあり、この地域を移住先やサテライトオフィスとするニーズが高まる可能性もあり、利用者が増大して、水辺を利用する等かわまちづくり整備へのニーズがより高まると考えられる。
4. おわりに
久慈川・那珂川沿川には、「いばらきサイクルツーリズム構想:茨城県」の 2 つの広域ルートが設定された。中流域の「那珂市自転車活用推進計画」の「那珂川久慈川沿岸ネットワーク」に、「河川空間を活用して隣接自治体を含めた広域なエリアとの連携を図る」と記載している。災害復旧事業等で堤防などが整備されるので、沿川自治体と河川管理者が連携してかわまちづくりを推進することで、治水施設を有効に利用する善い機会になると考えられる。
久慈川・那珂川では、昨年の台風被害から復旧復興するために緊急治水プロジェクトを推進している。かわまちづくりを含めた地域振興策が展開されることを期待する。