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農業用パイプラインの漏水を低コスト、省力的に推定できる手法を開発

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バルブ操作と管内圧力測定だけで高精度に推定

2019-12-11 農研機構,東京大学大学院農学生命科学研究科

ポイント

農研機構と東京大学大学院農学生命科学研究科の研究グループは、簡単なバルブ操作と管内圧力測定だけで、農業用パイプラインの漏水位置と漏水量を推定する手法を開発しました。模型実験では、漏水位置を誤差1%程度、漏水量を最大誤差17%程度と高精度で推定できました。本手法は、特殊な機器や管内の水抜きなどの大掛かりな作業が不要で、低コスト、省力的に推定できるのが特長です。パイプラインの定期的な機能診断に役立つと期待されます。

概要

農業用パイプラインは設置後30年以上を経過したものも多く、老朽化が進み、漏水事故が多発しています。農業用パイプラインの漏水は、水の流出による経済的損失に加え、周辺地盤の陥没や斜面崩壊などを誘発する危険性があります。

漏水を未然に防ぐには、パイプラインの定期的な機能診断が有効ですが、上水道などを対象に開発された既存の漏水探査手法は、おおよその漏水位置がわかっている状態での詳細な位置の特定に優れており、パイプライン全体の定期的な漏水調査には適していませんでした。

農研機構と東京大学大学院農学生命科学研究科の研究グループは今回、簡単なバルブ操作と管内圧力測定だけで、農業用パイプラインの漏水位置および漏水量を高精度に推定する手法を開発しました。バルブ操作により特殊な圧力波(圧力変動)を発生させ、これによる水圧の変化により漏水位置と量を推定します。圧力測定には、パイプラインに設置されている圧力計(空気弁に簡単に設置できるので、設置されていない場合は新たに設置します)を利用します。特殊な機器や管内の水抜きなどの大掛かりな作業は不要なため、低コスト、省力的に推定できるのが特長です。本手法はあらゆる管径(サイズ)、材質のパイプラインに適用可能ですが、管径が小さく剛性(変形のしにくさ)の大きい管のほうが検知が容易となります。パイプラインの定期的な機能診断に役立つと期待されます。

関連情報

予算:内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」

問い合わせ先など

研究推進責任者 :農研機構農村工学研究部門 研究部門長 土居 邦弘

研究担当者 :農研機構農村工学研究部門 水利工学研究領域 安瀬地 一作

東京大学大学院農学生命科学研究科 生物・環境工学専攻 助教 木村 匡臣

広報担当者 :農研機構農村工学研究部門 渉外チーム長 猪井 喜代隆

東京大学農学系総務課総務チーム 広報情報担当

詳細情報

開発の社会的背景

農業用パイプラインは、全国で基幹的な水路だけでも総延長17,000kmほど設置されています。それらの中には整備後30年以上を経過したものが多く、老朽化が進んでおり漏水事故も多発しています。パイプラインの漏水は、送水圧力の低下や断水による農業への支障だけでなく、周辺地盤の陥没や斜面崩壊などを誘発し、周辺住民の大きな脅威となる危険性があります。

漏水探査技術は、上水道やガス、石油パイプラインなど、漏出による経済的損失が大きい施設を対象に開発されてきました。これらの施設では、漏出調査のための設備が予め備え付けられており、漏水の有無やおおよその漏水位置は比較的容易に把握できます。その上で、移動機器等による詳細な位置を特定する技術がほとんどです。これに対して、農業用パイプラインではこのような調査用設備がほとんどないため、漏水状況を把握するには様々な困難があります。

また小規模な土地改良区では、人手不足と資金不足からパイプラインの管理・運営のための労力と費用の投入が難しいため、安価でかつ容易に漏水を探査できる手法が求められています。

研究の経緯

かねてより、パイプラインの分岐地点では圧力波が反射することが知られていました。このことから、漏水を分水量の小さい分岐管とみなすと、反射波(反射してくる波)が発生することが推測できます。この反射波を観測することで、漏水の有無、位置、量を推定できるのではないかと考えました。

研究の内容・意義

バルブの操作により特殊な圧力波を発生させ、波形の変形から漏水の有無、位置および量を推定する手法を開発しました。必要な設備および機器は、流量を制御するバルブと圧力計およびデータロガーだけです。

管水路圧力波の伝わり方:川の流れをせき止めたりすると水深(圧力)が変化し、その変化の様子が周辺に広がるように、管水路でも流れを変えると圧力が変化し、その変化は上下流へ伝播します(これを圧力波と呼びます)。圧力波は、バルブなどの障害物や曲がり部、分岐部など、流れが変化する地点で、その変化の割合に応じて、反射波と通過波(通り過ぎる波)に分かれます。このため、漏水部でも同様に、漏水量に応じた反射波が発生します。したがって、その反射波を捉えれば漏水の位置および量が推定できます。

漏水の検知方法:パイプラインの下流末端でバルブを急激に閉鎖すると、瞬時に最大圧力付近まで上昇し、しばらく継続する圧力波が発生し、上流に向かって伝播します。この圧力波が漏水部に達すると、バルブ地点に反射波が発生します(図1参照)。この反射波が到達すると、その地点で圧力が低下します。漏水量が大きいほど、この圧力低下量は大きくなります。したがって、圧力低下量から漏水量を、圧力が低下するまでの時間から漏水位置を推定することができます(図2参照)。この現象を利用することで、漏水部からの漏水量と漏水位置を容易に確認できます。

模型実験の結果:いくつかの流量、漏水量、漏水位置、漏水率を設定して模型実験を行い、本推定手法の検証を行った結果、漏水位置では0.2%~1.0%の精度、漏水量では0.0%~17%程度の誤差で推定できました。本実験で検知できた漏水の最小値は0.011(l/s)(漏水率7.9%)でした。

圧力波発生の際の注意事項:水撃圧現象(急激に流れを変化させることによって発生する急激な圧力の変動現象)は、本来、非常に大きな圧力上昇を伴うため、バルブの操作の際には避けなくてはいけない現象です。水撃圧の最大圧力上昇量は、管径や管材などの管路諸元と、変化させる流速に比例することが知られています(理論値ともよく一致します)。したがって、あらかじめ流速を小さくしてバルブを閉鎖すれば圧力上昇量が非常に小さい波を発生させることができます。これにより、安全に漏水調査をすることができます。

本推定手法の適用性について:本推定手法は、管径が小さいほど、また、圧力伝播速度が大きい(管の剛性が大きい)ほど、圧力低下量が大きくなるため(図2の式(1)参照)、漏水の検知が容易となります。漏水量は圧力低下量に比例するため、たとえば、管径が小さな鋼管では小さい漏水も検知できますが、管径が大きく圧力伝播速度の小さい塩ビ管では検知できる最小の漏水量は大きくなります。

今後の予定・期待

本手法を用いることで、小規模な土地改良区でも容易に管水路の定期的な機能診断を行うことが可能となります。

現在は漏水検知のみを対象としていますが、将来的には、圧力監視により、ごみ詰まりや空気だまりなどの通水異状の検知に加え、水利用状況の監視も可能な技術へと発展させることを目指しています。これにより、一般に圧力計に比べて非常に高価な流量計の導入が不要となります。加えて、管水路の圧力波は減衰が比較的小さく遠方まで伝播することが特徴であるため、少ない観測地点で管路全体を監視することができ、省コストな監視システムが実現できます。本手法は、パイプラインに有害な水撃圧を使用します。したがって、実用化にあたっては安全な運用方法を検討する必要があります。その後、現地における実証試験等を通じて、管のサイズや材質、バルブの操作時間ごとのデータ蓄積等を図る必要があります。

発表論文

浅田洋平・木村匡臣・安瀬地一作・飯田俊彰・久保成隆,漏水中の管水路における水撃圧波形を利用した漏水位置と漏水量の推定,土木学会論文集B1(水工学),74(4),I_613-I_618,2018

参考図

図1 実験模型概要と圧力波の伝わり方

図2 圧力波形(実験結果)

(漏水量:0.011(l/s)、漏水位置:下流端バルブから150m地点)

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