ad

プロピオン酸ナトリウムを活用した新たな凍結防止剤の本格導入に向けた検証

ad

試行導入規模の拡大と安定調達に向けた取組み

2018/12/26  NEXCO中日本,富山県立大学,土木研究所寒地土木研究所
NEXCO中日本は、富山県立大学および国立研究開発法人土木研究所寒地土木研究所と共同で、橋梁の鉄筋などの金属腐食の抑制を目的として、プロピオン酸ナトリウム(以下「プロナト」。写真1)を活用した新たな凍結防止剤を開発してきました。
昨冬(2017年度冬期)、東海北陸自動車道の一部区間で試行的に散布し、散布作業における課題への対応や散布の効果を検証したところ、一定の効果を確認できました。
今冬(2018年度冬期)は、昨冬の検証結果を補完するため、更に試行導入規模を拡大し、本格導入に向け引き続き検証を進めていくとともに、顆粒状プロナトの安定調達に向けて国内外の商社や化学薬品メーカーに対し、ヒアリングなどを通じて連携の可能性を確認していきますので、お知らせいたします。

【写真1】プロピオン酸ナトリウム(顆粒状)

2018年度冬期試行導入の概要(図1)

今冬の試行導入の概要は以下のとおりです。
(1)試行導入区間

  1. 東海北陸自動車道 白川郷インターチェンジ(IC)~小矢部砺波ジャンクション(JCT)間
    (雪氷作業基地は五箇山IC、福光IC)
  2. 北陸自動車道 小矢部IC~朝日IC間のうちの一部区間(※)
    (雪氷作業基地は砺波IC、富山IC、滑川IC、黒部IC)
    ※対象区間は、プロナトの調達状況により後日決定

(2)試行導入時期
試行導入区間(1):2019年1月下旬~4月中旬(雪氷対策期間終了まで)
試行導入区間(2):2019年3月上旬~3月中旬
(3)混合割合
塩化ナトリウム:プロナト=9:1(昨冬と同じ)
(4)散布方法
湿塩散布
(昨冬と同様、固形剤の塩化ナトリウムにプロナト溶液を吹きかけながら散布する方法)
(5)試行導入における主な検証内容(太字部は今冬追加検討する内容)
試行導入区間(1):
1)作業性、2)臭気の状況、3)積雪時の路面状態、
4)積雪時の路面のすべり抵抗性、5)金属腐食抑制効果
試行導入区間(2):
1)設備の違いによる作業性、2)臭気の状況
試行導入区間(1)は、2017年度冬期の検証結果を補完することが主な目的であるため、検証内容や検証方法は基本的に昨冬と同じです。一方、試行導入区間(2)は、雪氷作業基地ごとに作業設備の形状などが違うため、どの基地でも作業性に問題がないかを確認することが主な目的です。

【図1】試行導入区間

2017年度冬期試行導入の結果

2017年度冬期に実施した試行導入の結果は以下のとおりです。

  1. 試行導入区間(図1)
    東海北陸自動車道 白川郷IC~五箇山IC間(雪氷作業基地は五箇山IC)
  2. 試行導入時期
    2018年3月中旬~4月中旬(雪氷対策期間終了まで)
  3. 混合割合
    塩化ナトリウム:プロナト=9:1
  4. 散布方法
    湿塩散布(固形剤の塩化ナトリウムにプロナト溶液を吹きかけながら散布する方法)
  5. 試行導入による主な検証結果

1)作業性
これまで雪氷作業基地で検証してきた「溶液作成のしやすさ」や「積込みのしやすさ」などの作業性について、実運用の状況下で従来の塩化ナトリウム散布の場合と同じように作業できるかを比較検証したところ、従来の塩化ナトリウム散布の場合と変わらない作業性であることが確認できました。特に、溶液作成においては、プロナトの方が塩化ナトリウムよりも溶解しやすいため、溶液が規定の濃度に達するまでの時間が大幅に短縮できました(写真2~3)。ただし、プロナトはわずかに特有の臭いがあるため、溶液作成時の溶解槽へのプロナト投入作業中に臭気を感じることがありました。今後は、これらの臭気を少しでも抑制し、作業環境を改善することも検討していく必要があります。

【写真2】塩化ナトリウムとプロナトの荷姿

【写真3】プロナト溶液作成状況
2)臭気の状況
プロナト散布による周辺への臭気の影響がないかを確認するため、試行導入区間内にある飛騨白川パーキングエリア(上り線)の駐車場で散布中や散布後における臭気を臭気計で計測したところ、プロナト散布前後で臭気の値に大きな変化はありませんでした。また、近隣にお住いの方や高速道路を利用していただいているお客さまからも臭気に関する問合せなどはありませんでした。
3)路面状態
道路巡回時に散布後の路面状態を目視で確認し、従来の塩化ナトリウム散布の場合との違いを比較検証しましたが、試行導入期間中は路面への積雪がなかったため、十分な比較ができませんでした。
4)路面のすべり抵抗性
寒地土木研究所所有の連続路面すべり抵抗値測定車を使用して散布後の路面のすべり抵抗値を測定し、従来の塩化ナトリウム散布の場合との違いを比較検証しましたが、試行導入期間中は路面への積雪がなかったため、すべり抵抗値に差異はなく、十分な比較ができませんでした(写真4)。

【写真4】連続路面すべり抵抗値測定車
(寒地土木研究所所有)による測定状況
5)金属腐食抑制効果
道路施設(スノーポール)、雪氷作業車両、雪氷作業設備などに試験用の金属片を取り付け、腐食状況を一定期間モニタリングすることで、従来の塩化ナトリウム散布の場合との違いを比較検証しました(写真5~7)。
その結果、同じ時期に隣接の塩化ナトリウム散布区間(五箇山IC~福光IC間)に設置した金属片と比較して、プロナト散布区間(白川郷IC~五箇山IC間)に設置した金属片の方が腐食の量が少ないことがわかりました(写真8)。

【写真5】試験用の金属片
(長さ10㎝×幅6.7㎝)

【写真6】金属片の設置状況
(本線スノーポール)

【写真7】金属片の設置状況(散布車)

【写真8】本線スノーポールに設置した金属片の腐食状況
(左:塩化ナトリウム散布区間、右:プロナト散布区間)

プロナトの安定調達に向けた課題

プロナトを活用した新たな凍結防止剤を本格導入した場合、当社管内では年間5千トン前後の顆粒状プロナト(写真1)の調達が必要となります。
現在国内で流通しているプロナトは、主に食品保存料として使用する粉末状のもの(写真9)であり、その流通量は年間50トンにも満たない状況です。
今後、凍結防止剤として使用する顆粒状プロナトの安定調達に向けて、上記の試行導入規模の拡大と並行して、国内外の商社や化学薬品メーカーに対し、ヒアリングなどを通じて連携の可能性を確認していく予定です。

【写真9】プロピオン酸ナトリウム(粉末状)

お問い合わせ先
・NEXCO中日本お客さまセンター (24時間365日対応)

参考資料:
■検討の背景と目的
高速道路の冬期走行時の安全性を確保するため、従前より主に「塩化ナトリウム」(以下「塩ナト」と いう。)を凍結防止剤として使用してきました(写真 10)。しかし、平成 5 年頃からスパイクタイヤが使 用されなくなって以降、塩ナトの使用量が順次増加し、それに伴い橋梁などで塩害による劣化の事例(写 真 11)が多く見受けられるようになってきたため、劣化抑制に有効な凍結防止剤の開発が求められてきま した。
そこで、塩ナトよりも金属腐食抑制効果に優れる「プロピオン酸ナトリウム(※1)」(写真 1)に着目 し、2015 年度より現場への適用性を検討してきました。
※1:プロピオン酸ナトリウム・・・プロピオン酸のナトリウム塩であり、細菌や真菌の増殖を抑制す る効果があるため、主に食品保存料として使用されている。国内の 年間使用量は約36トン。分子式はCH3CH2COONa。

■検討結果
経済性を考慮し、塩ナトとプロナトを混合して使用することを前提として検討してきましたが、主な結 果は以下のとおりです。
(1)金属腐食性
(地独)北海道立総合研究機構工業試験場が定める金属腐食性試験を実施した結果、図 2 に示す とおり、比較試料の蒸留水、塩ナトおよび塩カル(塩化カルシウム)の腐食減少量(mdd、※3) は、それぞれ 8.6、22.5、27.5 であったことに対して、 プロナトの腐食減少量は 0.3 でほとん ど金属腐食しない結果となっている。塩ナト・プロナト混合物は重量比 8:2~9:1 の間で蒸留水 と同等の結果が得られており、金属腐食の進行を大幅に抑えられる結果となった。
※3:mdd・・・㎎/dm2 /day(1 日当たり 1dm2の表面から何 mg の金属が失われたかを示す指標)
(2)凝固点
濃度20%の水溶液で凝固点測定を実施した結果、表1に示すとおり、塩ナトの凝固点-19.8℃ に対し、プロナトは-17.0℃であり、塩ナト・プロナト混合物(重量比8:2)は-18.9℃と、塩 ナトの凝固点に近い。
(3)作業性 雪氷作業基地において、市場で流通している粉末状のプロナト(写真 12)を使用して水溶液を 作製した結果、写真 13 に示すとおり、プロナトが全体に飛散し、著しく作業性が悪くなった。
このため、プロナトの形状を粉末状から 1mm 程度の顆粒状(写真 1)に改善したところ、材料飛 散の課題が解決した。

タイトルとURLをコピーしました