2022-09-06 東京大学
発表のポイント
- 未曾有の豪雨発生による都市浸水を精緻に予測する、リアルタイム浸水予測システム(S-uiPS)を、東京都23区を対象として2022年9月下旬より一般公開
- 一般公開に先立ち、防災の日である、本年9月1日より文部科学省のDIAS(データ統合・解析システム)上にて、先行公開を開始
早稲田大学理工学術院の関根正人(せきねまさと)教授、東京大学地球観測データ統融合連携研究機構の喜連川優(きつれがわまさる)特任教授、生駒栄司(いこまえいじ)特任准教授、山本昭夫(やまもとあきお)特任助教、および一般財団法人 リモート・センシング技術センターによる研究グループは、東京都23区で発生する都市浸水をリアルタイムで予測するシステムである、S-uiPS※1(スイプス)(Sekine’s urban inundation Prediction System)を2019年に開発し、これまで社会実装に向けて準備を進めて参りました。このたび、2022年9月下旬(21日頃を予定)に一般公開を行うこととなりましたのでお知らせいたします。
また、一般公開に先立ち、ユーザーを限定した3週間ほどの先行公開期間を設けることとし、防災の日である同9月1日より開始いたしました。
本研究成果の一部は、文部科学省補助事業「地球環境データ統合・解析プラットフォーム事業」の支援を受け、データ統合・解析システム(DIAS※2)を利用して得られたものです。
1.これまでの研究の経緯と今回の発表について
地上・下水道・都市河川といった都市内の雨水の流れを力学原理に基づき一体的に計算し、その結果として浸水を予測し、かつ速報性ばかりでなく信頼性の高い浸水情報を住民に届けることが出来る手法構築を目的に、研究を進めた本研究グループは、2019年5月に「S-uiPS」を開発し発表いたしました。
参考)「リアルタイムな都市浸水予測が可能に」https://www.waseda.jp/top/news/64900
本研究の発表は2019年5月に行ったものの、その後、このたびの一般公開に至るまで3年の期間を要しました。これは、公開を前にして、都市インフラに関するデータベースに修正すべき点があることが判明し、慎重な見直しを行なうべきと判断したことに端を発します。その後、コロナウイルスの感染拡大によりこれまで通りの研究活動が制約を受けることになりました。この間も活動は継続し、データベースの点検・修正や計算コードの確認、計算精度の検証などに取り組み、このたび公開を迎える運びとなりました。
人々の命に関わる情報には速報性と正確性が重要であることは言うまでもありません。研究者としてできるだけ正確な情報をお届けしたいと考えており、一般公開の前に先行公開期間を設けてユーザーの意見を求めることにしたのも、正確性を見極めてから一般の皆さんに活用いただきたいと考えたためです。
図 S-uiPSによる公開画像のサンプル:
右上の丸の中の数値が時刻、左下の「凡例」をクリックすると凡例が表示されます。
公開される動画では、注目地点に移動し拡大・縮小することができます。
2.今後の展開について
防災の日である、2022年9月1日より先行公開を開始しました。先行公開では、申し出頂いたユーザーにのみアカウントを限定的に発行し、試験的に本システムを利用頂き、コメント等を収集しています。この期間にユーザーの皆さまからお寄せいただいた意見・情報を参考に、修正や更なる検証を続けていきます。これは計算の信頼性と情報の速報性がともに重要であるためです。情報の受け手となるのは、たとえば道路や地下鉄・地下街などのインフラの管理者だけでなく、住民一人ひとりです。そのため、ユーザーを選ばず、例えば子供や高齢者が見ても、直感的に浸水の危険が察知できるような画像のわかりやすさを追求していきます。
この先行公開を経て、同年9月下旬(21日頃を予定)には一般公開へと移行します。これにより、ユーザーを限定せず、どなたでも必要な時にいつでも利用できるバージョンを稼働させ公開いたします。
なお、このシステムは、チューニングしなければいけないパラメータがひとつもないため、都市インフラの情報をまとめたデータベースを整備しさえすれば、東京都23区以外の都市にも適用することが可能です。これにより、将来、未曾有の豪雨が発生したときの予測も同じ精度で可能となります。そのため、この手法が国内外の都市に展開されれば、それらの都市で発生する浸水被害の軽減にも有効です。
3. 先行公開 アクセス方法
リアルタイム予測の結果は下記のDIASのサイト上で公開されます。先行公開に当たっては、下記URLよりDIASサイトにアクセスのうえ、事前登録をお願いしています。詳しくは同サイトをご参照ください。
DIAS S-uiPSによるリアルタイム浸水予測システム
なお、一般公開に移行してからはアクセス先が変わることになります。これについてのアナウンスは、後日上記の同サイト上にて行なう予定です。
4.用語解説
※1) S-uiPS
S-uiPS(スイプス)(Sekine’s urban inundation Prediction System)は、早稲田大学の関根教授が開発した都市浸水予測システムです。最新の都市基盤に関わる情報を省略することなくすべて考慮に入れ、浸水の発生ならびに進行を力学原理に基づき予測するものです。都市は、「道路・下水道・都市河川」のネットワークとその関連付帯施設からなる都市インフラ並びに、街区につくられたビル群などによって構成されています。この中には、道路下に整備された地下調節地などの貯水施設や、下水道のポンプ場・水再生センターなども含まれています。S-uiPSは、これらに関わる情報を全て集めてデジタル化して作成したデータベースに基づいており、コンピュータ空間上に東京の街を忠実に再現し、そこに雨が降ったときの浸水の状況を精緻に予測することを可能としたものです。リアルタイム浸水予測には、入力情報として降雨データが必要となりますが、これについては国土交通省による観測雨量「XRAIN」と気象庁による「高解像降水ナウキャスト」の予測降雨のデータを用います。
※2)DIAS
データ統合・解析システム(DIAS)は、1980年代に東京大学生産技術研究所高木幹雄教授(当時)が中心となり開発を開始した地球環境データレポジトリから始まり、数多くのプロジェクトの支援を受けながら発展を続けてきました。2006年度から国家基幹技術 海洋地球観測探索システム「データ統合・解析システム」として第I期プロジェクトを開始し、2010年度にはプロトタイプが開発されました。これにより、世界で初めて多種多様かつ大容量な地球観測データ、気候変動予測データ等を統合的に組み合わせ、水循環や農業等の分野における気候変動の影響評価や適応策立案に資する科学的情報を提供するプラットフォームが実現しました。2011年度からは「地球環境情報統融合プログラム(DIAS‐P)」と名称を変更し、第II期としてDIASを社会的、公共的インフラとして実用化するための更なる高度化、拡張が実施されました。2016年度からは文部科学省委託事業「地球環境情報プラットフォーム構築推進プログラム」として第III期が開始され、気候変動適応・緩和等さまざまな社会課題の解決に貢献するアプリケーションの稼働とサービス提供を目指した、長期的安定的な社会基盤としてのシステム構築および運用が開始されました。さらに2021年度からは文部科学省補助事業として海洋研究開発機構(JAMSTEC)を代表機関とする「地球環境データ統合・解析プラットフォーム事業」が第IV期として開始され、更なる発展と進化を続けています。
5. 研究助成
研究費名:文部科学省「地球環境データ統合・解析プラットフォーム事業」
研究課題名:精緻な都市浸水予測手法S-uiPSの社会実装とこれを活用した高度な浸水被害軽減技術の開発(海洋研究開発機構JAMSTEC委託費)
研究代表者名(所属機関名):関根正人(早稲田大学)
お問い合わせ先
【研究内容に関するお問い合わせ】
早稲田大学理工学術院教授 関根正人
【DIASおよびS-uiPS高速化に関するお問い合わせ】
DIAS事務局