2018/03/09 国際協力機構
2006年の中部ジャワ地震(インドネシア)で倒壊した小学校。家具は倒れていない
途上国で地震による人への被害の主な要因の一つは、家具が倒れない程度の揺れで建物が全壊するなど、庶民住宅や小規模な建物が工学知識や建築技術に乏しい地元の職人によって建設され、構造が脆弱なために倒壊することが挙げられます。
JICAは、途上国で庶民住宅の耐震化を進めるため、耐震基準の策定や、入手しやすい素材を使った耐震住宅の工法の開発、職人の知識や技能の向上、耐震住宅の普及に向けた住民への情報提供、耐震基準に関する法整備などの取り組みを続けています。
ネパールで住民主導による耐震住宅の再建をサポート
2015年に首都カトマンズ近郊で発生した地震により、約50万戸が全壊するなど被害が広がったネパール。JICAは直後に復旧・復興事業を実施し、現在は耐震基準を満たした住宅の住民主導による再建を支援しています。
既存のネパールの耐震基準を基に再建住宅の耐震建築ガイドラインを整備し、住民や職人に耐震住宅に関する研修を実施。さらに耐震住宅の再建を後押しするため、研修を受けた地域の職人をリーダーとして村落ごとに住宅再建を促進させる「コミュニティ・モビライゼーション・プログラム」を2017年5月から開始しました。
耐震技術の研修を受けた地元の職人によるネパールの耐震住宅再建現場
住民のニーズに合わせ、住宅再建に向けた補助金を受け取る方法や具体的な再建計画などをきめ細かくサポートすることにより、プログラムが実施される47地域の対象5万4000世帯での耐震住宅の着工率は、2017年4月の30.0パーセント以下から2018年1月には69.4パーセントに増加しています。
ブータン初の住宅用耐震実験施設が着工へ
住宅耐震化の動きは、周辺国にも広がっています。
負荷をかけ壊れる構造物の変化を測定するブータン人技術者と日本人専門家(右から2人目)
JICAは2017年からブータンで、内務文化省、公共事業省、経済省と連携し、土や石を積み上げた伝統建築物を守る耐震技術の開発や地震観測網の強化を図っています。
ブータンでは国民の大多数が伝統建築物に住んでおり、2009年にブータン東部、2011年にインド・ネパール国境で発生した地震で多くの伝統建築物が倒壊・半壊したことから、耐震技術への国民の関心が高まっています。2018年中にJICAは、同国初の伝統建築物の耐震実験施設を完成させる予定です。
地震に対するリスク認識を持つことが重要
耐震分野が専門のJICAの楢府龍雄国際協力専門員は、「2011年の東日本大震災では大きな揺れを観測したものの、被災地での住宅や建物への被害は限定的でした。このことは、日本の耐震技術の高さを証明していると国外から大きな評価を受けています」と言います。
中央アジア・コーカサス地域の耐震分野の研究者や行政担当者を対象にJICAが実施した日本での耐震技術や地震防災に関する研修で、神戸市にある「人と防災未来センター」を見学する研修参加者
さらに、楢府専門員は、途上国における耐震技術の普及で課題となるのは、各国の指導的な立場の人たちに災害が起こる前の時点で「リスク認識」を持ってもらうことだと述べました。
地震への備えが盤石となれば、被害を最小限に食い止めることができます。「これからも、日本が長年にわたって蓄積してきた耐震技術を多くの国で活用できるようにしていきたい」と楢府専門員は語ります。