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廃コンクリートとCO2からできるカルシウムカーボネートコンクリートブロックの製造技術を開発

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2024-07-24 東京大学

発表のポイント

◆ 空気中のCO2を廃コンクリートに固定し、その上で圧力をかけて固化する、カルシウムカーボネートコンクリートブロックの製造技術を開発しました。
◆ 従来の類似手法では、材料の表層でしかCO2の固定が進まないという問題がありました。本手法では、廃コンクリートを粉末にしてCO2を固定してからブロックにするので、廃コンクリートのCO2固定能力を最大限に活かすことができます。
◆ 本手法により製造されたブロックは、再利用、あるいは粉砕して再度固化させることができるため、半永久的に利用できる可能性があります。また、CO2の固定と建設材料のサーキュラリティへの移行を容易にすることから、サステナブル社会への貢献が期待されます。

廃コンクリートとCO2からできるカルシウムカーボネートコンクリートブロックの製造技術を開発
新手法で製造されたカルシウムカーボネートコンクリートブロックと従来のレンガブロック

概要

東京大学大学院工学系研究科の丸山一平教授、Kien Ngoc Bui(キエン ゴック ブイ)特任研究員、野口貴文教授ら、東京理科大学の兼松学教授、太平洋セメント株式会社の研究チームは、建築物や土木構造物の解体時にでてくるコンクリートの廃棄物にCO2を固定した上で、ブロック状に固化する技術を開発しました。この手法は、既存の手法に比べてより多くのCO2を固定できるだけでなく、低エネルギーで固化させることができます。さらに、このブロックの製造メカニズムは炭酸カルシウムを用いたコールドシンタリング(冷間焼結)によるものであり、製造したブロックをそのまま再利用することも可能です。また、解体後に粉砕した場合においても再利用できる点が、従来の他の建築材料とは大きく異なります。本手法は、CO2の固定とサーキュラリティへの移行を容易にするという両面において画期的で、サステナブル社会へ大きく貢献できるものと期待されます。

発表内容

現在、世界では年間45億t(2015年時点)のセメントが生産され、1tのセメントをつくるのに約800kgのCO2が排出されています。このうち50~60%がカルシウムを得るための炭酸カルシウムの分解によるもので、その他が輸送や焼成に関わる燃料によるものとなっています。現在、人類の活動由来のCO2排出量のうち5~8%がセメント生産によるものと言われており、環境への影響が大きいと考えられています。一方で、コンクリートは工業用水の次に多く利用されている工業材料で、社会を作る上でかけがえのない材料です。この観点から、コンクリートセクターでは、カーボンニュートラルへの移行が必要不可欠とされており、多くの研究開発が行われています。

セメント製造に伴うCO2排出量に対応するカーボンオフセット技術(注1)として、従来はセメントの反応にCO2を用いるものや、廃材中のカルシウムにCO2を結合させて、その上でコンクリート用材料の一部として用いる手法が検討されてきました。具体的には、セメントの一部分を置換する粉体として用いたり、骨材の一部をCO2を固定した造粒物に置換する手法です。セメントの反応にCO2を用いる場合には、できあがった部材やブロックに対し外側から高濃度のCO2ガスを用いて反応を促進させる炭酸化養生という手法がありますが、材料の内部まで反応が進まないことからCO2の固定量を上げるためには大きなハードルがありました。また、コンクリート用材料の一部をCO2を固定した材料に置換したとしても、一般的なセメントを用いる場合には、その使用に伴いCO2が排出されることになります。

このような流れの中、丸山教授らの研究チームは、NEDOムーンショット型研究開発事業「C4S(Calcium Carbonate Circulation System for Construction)研究開発プロジェクト」(プロジェクトマネジャー:東京大学 野口貴文教授)における材料開発担当として、空気中のCO2とコンクリートの廃材から建築材料となる固化体の製造開発を行ってきました。このたび、建設廃材を粉砕し、空気中のCO2を固定したのちに効率的に固化体とする加圧成形による製造方法を開発し、カルシウムカーボネートコンクリートブロックの製造に成功しました。

セメントペーストあるいはコンクリートに高い圧力をかけて固化体にする技術は古くから存在していましたが、新しく開発した技術を用いた場合、空気中のCO2を固定して炭酸カルシウムができたあとに、固化体の強度がより高くなることを確認しています(図1)。

fig02
図1:一般的なセメントペーストと空気中のCO2と反応し炭酸化したあとのセメントペーストの粉末を用いて、今回提案した手法で成形した固化体の圧縮強度の比較

この固化体の形成メカニズムは、炭酸カルシウムが溶けやすい溶液とともに加圧される場合に発現することがわかったほか、走査型電子顕微鏡(注2)による分析から、加圧によって圧力が生じている結晶の一部が溶解することで結晶同士が結合する、コールドシンタリングであることが明らかになりました。走査型電子顕微鏡で確認した炭酸化した粒子の接合面の様子を図2に、その生成メカニズムに関する模式図を図3に示します。

fig03
図2:炭酸化したセメントペースト粒子の接合面で生じる炭酸カルシウム結晶の結合の様子

fig04
図3:炭酸化したコンクリート廃材粒子の接合面で生じる反応の模式図

本手法では材料となるコンクリートを粉砕して表面積を大きくし、効率的にCO2を固定したあとに固化するため、従来の手法とは大きく異なりブロックの内部に多くのCO2を固定することができます。また、原材料として廃コンクリートと排ガスや空気中のCO2を用いるため、原材料の製造に関わるCO2排出量も大幅に抑制できます。人口減少が進む日本においては、今後取り壊される可能性のある建築物中のコンクリートを再利用してCO2を固定し、新しい建築物の一部として再利用することも期待されます。これが実現すれば、いままでセメント製造時に排出されていたCO2を原材料である炭酸カルシウムに戻しながら利用することとなります。この炭酸カルシウムは非常に安定で永続的に固定が可能です。

さらに、開発した材料は、その性質上、粉砕して再整形して利用できることから、CO2を固定しながら建築材料のサーキュラリティへの移行を支援することが可能となります。

発表者・研究者等情報

東京大学 大学院工学系研究科
丸山 一平 教授
Kien Ngoc Bui(キエン ゴック ブイ) 特任研究員
Amr Meawad(アマル ミワード) 特任研究員:研究当時
栗原 諒 助教
野口 貴文 教授

東京理科大学 創域理工学部
兼松 学 教授

太平洋セメント株式会社
兵頭 彦次 博士
三谷 裕二 博士

論文情報

雑誌名:Journal of Advanced Concrete Technology
題 名:Cold-sintered carbonated concrete waste fines: A calcium carbonate concrete block
著者名:Ippei Maruyama*, Ngoc Kien Bui, Amr Meawad, Ryo Kurihara, Yuji Mitani, Hikotsugu Hyodo, Manabu Kanematsu, Takafumi Noguchi
DOI10.3151/jact.22.406
URLhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/jact/22/7/22_406/_article/-char/en

研究助成

本研究はNEDOムーンショット型研究開発事業「C4S(Calcium Carbonate Circulation System for Construction)研究開発プロジェクト」として実施されました。

用語解説

(注1)カーボンオフセット技術:
空気中のCO2、あるいはこれから排出するはずのCO2ガスの一部、あるいは全部を隔離、貯蔵、有効利用する技術のことで、ここではCO2を炭酸塩の形に強く固定してコンクリートに用いる技術のこと。

(注2)走査型電子顕微鏡:
電子線を用いて観察する顕微鏡。光を用いたものよりも細かい構造を観察できる。

プレスリリース本文:PDFファイル
Journal of Advanced Concrete Technology:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jact/22/7/22_406/_article/-char/en

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0902鋼構造及びコンクリート
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