ad

地震で被災した道路橋の早期復旧を図るための研究

ad

国総研レポート2020(研究期間:平成29年度~)
国土技術政策総合研究所 社会資本マネジメント研究センター 熊本地震復旧対策研究室
室長 西田 秀明
主任研究官 宮原 史
研究官 田中 謙士朗
交流研究員 鈴木 慎也

(キーワード) 熊本地震,道路橋,復旧

1.はじめに
熊本地震復旧対策研究室は、熊本地震による被災の復旧に係る高度技術支援を災害現場にて行い、復旧事業を担う九州地方整備局熊本復興事務所と車の両輪となって早期復旧に取り組んできている。道路橋の復旧事業の実施にあたっては、構造安全性と円滑な道路機能が共に確保された橋をできるだけ早期に供用再開する必要がある。この際、復旧工事は一度損傷や変状が生じた橋を対象とするため、新設橋にはない様々な不確実性を考慮したうえで補修効果を発揮させる必要がある。さらに、復旧工事後の維持管理段階における点検や診断、あるいは不具合発生時の原因究明における検討の迅速化や信頼性向上の観点からは、復旧工事の過程で維持管理段階での活用に資するための情報を取得し、適切に記録・保存することが重要である。
本稿では、地震により被災した道路橋の早期復旧に資するために、熊本地震で被災した鋼橋を対象に、復旧工法とその補修効果の検証、および復旧後の供用中に再び大規模な地震等が生じた場合等での橋の状態把握等に資する情報とその記録・保存方法について報告する。

2.損傷箇所を残置したままでの鋼橋の補修とモニタリングを活用した補修効果の検証
橋長265mの鋼5径間連続非剛性曲線鈑桁橋である大切畑大橋は、上部構造が曲線外側の方向に全体的に移動するとともに、主桁の一部が座屈する等の損傷が生じた。とりわけ主桁の損傷が支点部以外でも生じたことが特徴的であり、中でもP1~P2間の曲線外側にあたる主桁2本(G1桁、G2桁)には、面外変形を伴う損傷が比較的大きく生じた。
支点部以外で主桁に大きな損傷が生じた場合の対策としては、一般的には主桁全体あるいは損傷部位の撤去・再構築が考えられる。しかし、本橋では地震後に損傷や変状が進んでいないことから、少なくとも床版等の重量を支えられるだけの耐荷力は保有していることや、主桁を撤去した場合に部材内に残留している応力が他の部材に与える影響の程度に不確実性を伴うことなどを勘案し、大きな損傷が生じた主桁は戦略的に残置しつつ、損傷に伴い低下した主桁の耐荷力を補えるような断面剛性を有する主桁(以下、追加桁)を設置した(図-1)。

図-1 大切畑大橋の復旧で設置した追加桁

このような損傷した箇所を残置したまま桁を追加するという補修では、残存応力の見立てなど新設工事にはない不確実性があり、部材の状態の見立ての信頼性を確保することが重要となる。そこで本橋においては、桁を追加した後、ジャッキダウンする際のひずみの変化から応力の変化をモニタリングし、設計で期待したとおり追加桁が荷重を分担する傾向を示しているかどうかを確認した。
実際の損傷部の状態は、抵抗断面として機能しない状態と機能する状態の間にあると考え、モニタリング結果は、損傷部も抵抗断面として機能するとした場合(損傷なし)と、機能しないとした場合(損傷あり)の2つの解析結果と比較した。比較の結果、図-2に示すとおり、応力の変化の計測値は2つの解析値の間にあり想定した範囲の状態であったことから、追加桁は設計で期待した抵抗断面として機能していることが分かった。

図-2 追加桁のジャッキダウン時の応力の変化

3.維持管理段階におけるBIM/CIMモデルの活用
復旧工事を行った橋では、補修効果の経年変化による耐荷力低下など、復旧の補修設計や施工の段階では考慮することが困難な不確実性が残る。このような懸念に対しては、地震により部材に生じた損傷、その損傷に対する補修工法、当該補修工法の耐久性能を確保するうえで必要となる情報を復旧工事で得られる情報の中から適切に抽出するとともに、それらのデータの相互関係が分かるように記録・保存を行うことが有効である。
そこで、前述したような補修を実施した大切畑大橋を対象に、今後の維持管理段階での活用を考えた場合にどのような情報を、いかなる形で残すことが適切かを検討し、そのうえでCIMの活用によるデータの3次元的な可視化を行った。
まず、既存の2次元の構造一般図に基づいて全体構造の3次元モデルを、外形形状を正確に表現した詳細度3001)で作成している。続いて、追加桁や追加対傾構、ベント支持の際に設置し残置した仮横桁などの追加部材のモデル化を行った(図-3)。なお、追加部材については既存部材との違いが分かりやすいよう配色を工夫している。

図-3 大切畑大橋の3次元モデル(追加桁付近)

一方で、主桁の損傷を残置した箇所については、当該箇所の位置をマーキングすることに留め、このマーキングの属性情報として、損傷状況が分かる写真にファイルリンクするように設定した。これは、損傷の3次元的な形状は目視により確認することが合理的であり、モデル化までする必要はないと考えたためである。また、桁の連結部についても位置を示すのみで、詳細については属性情報として当該図面のPDFをファイルリンクするように設定した。これは、部材の状態を把握するうえでは、接合位置をモデル化することは有効であるものの、ボルト形状までモデル化する必要はないと考えたためである。
また、貫通ひび割れが生じた中空のP2橋脚では、内空部基部にコンクリートを充填したうえで増厚・増杭施工を行っているが、復旧工事完了時点では、貫通ひび割れが生じた位置や、コンクリートを充填した範囲が不可視となることから、これらについては3次元モデルで可視化した。一方で、ひび割れの幅や深さなどは属性情報とするに留めた。
以上のように、維持管理段階での活用場面を想定し、3次元モデルで可視化して記録・保存することが望ましい情報と、属性情報として記録・保存することが合理的である情報とに分類を行っている。

4.今後の展望
国の直轄権限代行が始まって3年目となる令和元年度は、県道の俵山トンネルルートが全線開通したところである2)。引き続き国道325号阿蘇大橋、国道57号現道等の復旧に向けて取り組んでいく。

☞詳細情報はこちら
1) 国土交通省:CIM導入ガイドライン(案)第5編 橋梁編、2019.5 http://www.mlit.go.jp/tec/it/pdf/guide05.pdf
2)土木技術資料、Vol.61、No.11、pp.48-49、2019

ad

0902鋼構造及びコンクリート
ad
ad
Follow
ad
ad
タイトルとURLをコピーしました