国総研レポート2020(研究期間 : 平成 27 年度~)
国土技術政策総合研究所 港湾研究部 港湾システム研究室
主任研究官 佐々木 友子
室長(博士(工学)) 赤倉 康寛
(キーワード) クルーズ,旅客数,感度分析
1.はじめに
我が国におけるクルーズ船寄港回数やクルーズ船による外国人入国者数は近年急増しており、我が国では、訪日クルーズ旅客を2020年に500万人という目標を掲げているものの、クルーズ需要は我が国やクルーズ起点国・地域及び旅客の国籍・地域における社会経済情勢及び政策の変化によって急変し得る。例えば、2017年3月に中国政府が国内主要旅行業者に対して同年3月15日から韓国への観光客送出を禁止する通達を行い、同年4月以降の釜山港への中国クルーズ旅客数が激減したという事象が起きている。そこで本分析では、より効率的な港湾の計画・整備・運営に資するため、東アジアの社会情勢及び政策の変化といった複数のシナリオを想定し、我が国クルーズ需要の変動可能性の検討を行った。
2.分析内容
シナリオは、①韓国から我が国への観光客送出が禁止された場合、②中国から台湾への観光客送出が禁止された場合、③中国から韓国への観光客送出禁止が解除された場合、④アジア各国・地域において有給休暇取得が促進された場合とした。これら各シナリオの感度を算出し、そのインパクトを2017年の我が国クルーズ需要に与えることとした。
シナリオ①~③については、参考事例として、先述の中国政府が韓国への観光客送出禁止を通達した事例を採用し、当該通達前後における中国起点クルーズの動向を分析した上で、その変化を参考に各シナリオのインパクトを設定した。シナリオ④については、余暇活動の潜在需要や、クルーズに参加したことがない理由についての調査結果といった既存資料をもとに、アジア各国・地域において有休取得率が上昇した場合のインパクトを設定した。
なお我が国への経済効果の観点からは、寄港回数も考慮した分析も重要であることから、インパクトを与える対象のクルーズ需要として、旅客数(人)のほか、寄港回数も考慮した延べ旅客数(人・寄港)についても感度分析を実施した。
3.分析結果
2017年の我が国クルーズ需要にインパクトを与えた結果、図-1及び図-2に示すとおりとなった。中でもシナリオ③の感度が最も大きく、我が国クルーズ需要は2017年実績値から旅客数で6%、延べ旅客数で12%の減少となった。
図-1 感度分析結果(旅客数)
図-2 感度分析結果(延べ旅客数)
☞詳細情報はこちら
1) 国総研資料 No.1086 http://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn1086.htm