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道路舗装の長期性能に係る 調査分析

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国総研レポート2020(研究期間 : 平成 29 年度~令和元年度)
国土技術政策総合研究所 道路構造物研究部 道路基盤研究室
室長 渡邉 一弘
主任研究官 桑原 正明
研究官 若林 由弥

(キーワード) アスファルト舗装,早期劣化,長期保証制度

1.はじめに
国土交通省の舗装新設工事においては、工事完了時の検査に加え、施工後一定期間後に性能を確認する「長期保証制度」を導入しており、平成24年から原則としてすべての新設アスファルト舗装工事に適用され始めているところである。この制度を導入した区間において早期劣化が生じた場合、各種調査により劣化の原因を特定し、適切な対策をとることで、その区間の再度の早期劣化を防ぐとともに、類似の条件下の別工事における早期劣化の発生を未然に防ぐことが期待される。
本報では、長期保証制度が適用されたアスファルト舗装の工事区間を対象に損傷調査を実施した結果について報告する。

2.長期保証制度適用工事区間における損傷調査
調査路線は、供用後6年が経過した自動車専用道路であり、同時期に工事が完了した隣接する3区間からなる。これらの区間は同一IC間であり、交通量や気象条件などの各種条件はほぼ同一である。しかし、路面性状、特にひび割れの発生について明確な差が生じており、ある区間では写真-1のように、部分的ではあるが路面に比較的多くのひび割れが発生していた。
上記の路線のひび割れが発生している区間と健全な区間において、ドライカッタによるコア採取を実施した。調査は夜間に実施し、調査日の前日には降水量0.5mm以下の降雨があったものの、調査時点では路面は乾燥していた。
写真-2にひび割れ発生区間においてコアを採取した後の採取孔の様子を示す。ひび割れが発生した区間では、採取孔の側面からの水の染み出しが確認された。また、その後も継続して採取孔を観察した結果、時間の経過に伴い水が染み出した箇所の面積が増大していることが確認された。このことより、アスファルト混合物(以下、「アスコン」という。)層の内部において、層間部分に滞水が生じていること、さらにその滞水量は少なくなく、降雨後も長期に渡りアスコン層内に残存しうることが分かる。また、この水の染み出しは、ひび割れの端部で採取したコアの採取孔においても確認されたため、滞水は広範囲にわたって発生しているものと考えられる。

写真-1 ひび割れ発生状況

写真-2 コア採取孔(ひび割れ区間)

一方、健全な区間においては写真-3に示すとおり、コア採取孔の側面に水の染み出しは見られず、アスコン層層間部の滞水は発生していないと考えられる。これらの結果より、初期段階のひび割れや施工目地等からの部分的なアスコン層内部への水の浸入および層間部の滞水に伴い、アスコン層の支持力が低下した結果、最終的に亀甲状のひび割れの進展につながったと推定される。

3.早期劣化メカニズムの検討
これまで国総研では、修繕後早期に劣化したアスファルト舗装を対象に、開削調査をはじめとする各種調査を実施しており、その結果に基づく早期劣化メカニズムについて、図のとおり整理している1)。具体的には、以下のとおりである。
・大型車交通量の増加に伴う交通荷重やアスファルトの劣化・老化、施工継目の接着不良等によって路面から生じたひび割れを通じてアスコン層内に水が浸入する。(STEP1)
・アスコン層の内部に水が滞留し、層間はく離が発生する。(STEP2)
・層間はく離によりアスコン層の支持力が低下した結果、アスファルト安定処理層及び路盤までひび割れが進行する。(STEP3)
・アスファルト安定処理層や路盤内への浸水・滞水により、これらの層が細粒化などにより劣化する。(STEP4)
・舗装全体の支持力不足により、アスコン層のひび割れが急速に拡大する。(STEP5)
今回の調査区間は新設工事ではあるものの、調査結果は上記の劣化メカニズムと整合的であり、ひび割れが生じている区間はSTEP2に該当すると考えられる。
以上のとおり、今回の調査区間におけるひび割れ発生区間においてコア採取孔を確認したところ、当該箇所は既往の研究で推定した早期劣化メカニズムの初期段階に該当すると考えられた。一方で、ひび割れ発生区間は部分的であり、健全な区間が大半を占めていることから、この差違に着目して路面状況や施工状況等を検討すること、さらには初期の早期劣化段階からの損傷を遅延させる対策を検討することが、舗装を長寿命化させる上で重要と考えられる。

図 滞水・層間はく離に伴う早期劣化メカニズム

4.今後の展望
現在、今回の調査区間において既往の路面性状調査結果からひび割れの進展過程を整理するとともに、現場で採取したコアを対象に各種室内試験を実施し、ひび割れ発生区間と健全区間におけるアスコンの性状比較を行っているところである。
これらの結果から、水の浸入経路や層間はく離の発生要因といった劣化要因について推定し、新設段階で舗装の長寿命化を図る上での技術的な留意事項や早期劣化の進展を遅延させる着目点等を検討し、長期保証制度のより適切な運用や早期劣化の初期段階における措置方法の提案に向け、引き続き検討して参りたい。

☞詳細情報はこちら
1) 早期劣化したアスファルト舗装の各種構造調査に基づく劣化メカニズムの推定, 若林由弥,桑原正明, 渡邉一弘, 土木学会論文集E1(舗装工学),Vol.75, No.2, I_143-I_150, 2019.

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