令和2年7月豪雨による熊本県人吉市および球磨村渡地区の洪水被害の特徴
2020-07-14 防災科学技術研究所
2020年7月9日調査速報 第1版
- 報告者
- 内山庄一郎(マルチハザードリスク評価研究部門)・檀上徹(水・土砂防災研究部門)
- 要旨
- 熊本県人吉市および球磨村は、同県南部を西流する球磨川流域の人吉盆地に位置する。この地域の上流側にある6つのアメダス観測点では、2020年7月3日から4日までの48時間で、418.5mmから497mmの雨量が記録された。これは、人吉市総合防災マップ(2017)の浸水想定における雨量(48時間で440mm)と同規模であった。7月3日明け方から降り始めた雨は、7月4日午前0時ころより急激に降水量が増加し、以降、10分間降水量で10mmを超える豪雨が、三度、断続的に発生した。この結果、24時間雨量では50年確率降水量(気象庁HP)を超過し、かつ、球磨川では、既往最大水位(2015年6月6日、4.16m)を超過した。人吉市では7月4日午前5時15分に避難指示が発令されたものの、球磨川やその支流で氾濫が生じ、氾濫流による建物・橋梁の破壊・流失、および浸水による被害が生じた。また、19名の死亡が確認された(7月11日時点)。
現地調査は7月9日に実施し、被害の様相および浸水深を写真で記録し(以降、実績浸水深とよぶ)、既存の洪水ハザードマップ(人吉市、2017)で示された想定浸水範囲および想定浸水深との対比を行った。この結果、浸水範囲・浸水ともにハザードマップと調和的であったものの、想定浸水範囲は少し外側に広がり、また、想定浸水深が浅いところで実績浸水深が超過する傾向がみられた。このほか、細い水路の周辺で、局地的に高い浸水被害が生じた。また、人的被害は浸水深の深い地区に偏在している可能性が示唆された。
これらの結果から、洪水ハザードマップは、実際の浸水被害を比較的正確に予測していると考えられる。このことは、洪水対策、避難計画、災害対応における洪水ハザードマップの有効性を示唆している。一方で、既存のハザードマップから、氾濫流による破壊的な被害が生じうること、およびその発生場所を読み取ることはできなかった。局地的な想定浸水深の大幅超過が生じた原因と合わせて、今後の詳細な検討が求められる。
なお、本報告は速報のため、今後の調査・解析により内容を修正することがある。
氾濫流による被害の様相(球磨村渡地区)