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六堰と流水改善水路 ~埼玉県内の河川利用施設を訪ねて~

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1 施設の目的と利用

現在の六堰は平成15年に改築した施設で、荒川を堰止めて最大16.875m³/sを取水して埼玉県北部の熊谷市を中心に深谷市、行田市、鴻巣市に広がる3,820haの田畑に農業用水を供給しています。

六堰の右岸側には、流水改善水路があり、下流の瀬切れの解消や上流ダム群で開発された水道用水等を流下させ下流での取水を安定させます。また、魚を魚道へ導く「呼び水水路」の役割も果たします。

2 施設の建設経緯と諸元

(1)大里用水と初代六堰の建設

六堰(大里用水)の歴史は古く、徳川家康が穀倉開発のため、慶長7年(1602)に伊奈備前守忠次に命じて現在の熊谷市と旧川本町(現深谷市)の境界付近で荒川を堰き止め、農業用水を取る「奈良堰」を作ったのが始まりと言われています。その後十数年間で約5km間に全部で6か所の堰が作られ、奈良堰に加え、玉井、大麻生、成田、御正(みしょう)及び吉見の六つの堰から昭和初期までそれぞれ取水していました。

しかし、川の流量が少ない田植え時など、六つの堰の農民たちの間では水争いが絶えませんでした。また、大雨で出水があると堰が流され、その都度の堰や水路の普請のため農民らの負担は大変でした。

安定した取水を行うため、昭和2年(1927)から開始した「県営用排水幹線改良事業 大里用水地区」で六つの堰を1か所に合口して昭和14年(1939)に初代の六堰の建設と水路の整備がされました。江南サイホンは、荒川左岸側で取水した用水を右岸側の御正及び吉見用水に分流するため、六堰の下流約4㎞の荒川の河床下3mに設置された伏越しです。

 

 

 

 

(2) 施設改修と河川環境の保全

初代六堰の完成後約60年が経過し施設の老朽化が進み、度重なる洪水や河床低下などのため、洪水に対する安全性が低下していました。また、荒川中流部では、渇水時に流水が途切れる瀬切れや、下流での水道用水等の取水制限が、昭和30年代から平成にかけて繰り返し発生していました。これは魚や水生生物の生態系、漁業、景観、レジャー等にも悪影響を及ぼしていました。

そうしたことから利用者に加え、国と県、地元市町村が協議し、農林水産省「国営大里総合農地防災事業」と、国土交通省「荒川中流流水総合改善事業」とで協力し、平成6年から新しい六堰の建設に着手し、平成15年3月に現在の2代目六堰が完成しました。

(3)施設の諸元

  • 形式:全可動堰 (幅197m)
  • 土砂吐:幅22m 1門
  • 洪水吐:幅75m 4門
  • 取水工:最大取水量875㎥/s
  • 階段式魚道(両岸):幅3m 2門
  • 緩勾配魚道(右岸):幅4~6m
     長さ1m 勾配1/110
  • 流水改善水路:幅5m 長さ2m

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3  施設の管理者

六堰の管理は、農業用水の取水と上流ダム群で開発する河川維持用水と都市用水の水量を安全に堰下流に流下させるため、関係者間の高度な調整と適正な管理が必要です。完成した六堰は埼玉県が関係者と連携を図って管理しています。

4 設置に至った歴史的な出来事、災害等

(1)初代六堰の老朽化

初代六堰は、堰のほとんどが固定堰(152mのうち118m)であったことに加え、ゲートの操作性が十分でなく、老朽化により下流への細かな流量調整が困難でした。そのため洪水の流下や下流での瀬切れや魚の遡上に支障をきたしていました。

そのような状況の中、平成11年8月の降雨に伴う洪水(最大流量3,200㎥/s)により、固定堰部のうち約93mが倒壊するとともに、周辺農地等への湛水が発生しました。

(2)江南サイホンの被災

江南サイホンは、河床低下により路体の露出や落差が生じており、洪水時に度々被災していました。六堰改修に合わせて、右岸へ送水する機能を六堰本体の中に移設し江南サイホンを廃止し、河床の安定を図るため明戸床止工を設置しました。

5 名物や文化との関わり

(1) 重忠橋

六堰の管理橋の名称は、一般公募し地域に由来のある畠山重忠から「重忠橋」と命名されました。近隣に縁の深い、「畠山重忠公記念公園」や「鶯の瀬(うぐいすのせ)」があります。

(2) 六堰下流の河川環境

六堰下流の河原は「楊井層(やぎいそう) 飛び岩河原」に代表される浅瀬が多く、白鳥や多くの野鳥が飛来することで有名です。

 

【参考文献・引用文献】

1)  荒川上流河川事務所HP 荒川を知ろう
https://www.ktr.mlit.go.jp/arajo/

2)埼玉県大里農林振興センターHP
https://www.pref.saitama.lg.jp/b0906/rokuseki/shisetsu.html

3)「荒川の恵み 四百年続く大里用水を次世代へ引き継ぐ」関東農政局、
https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/12768754/www.kumagaya-bunkazai.jp/kounanmatinoiseki/kbk_2021_033.pdf

4)「荒川中流流水総合改善事業」事後評価 国土交通省 関東地方整備局       https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1006660/www.ktr.mlit.go.jp/kyoku/river/aratyuu.pdf

5)水土の礎(関東農政局HP 国営事業所の取り組み)『荒川中部農業水利事業』
https://suido-ishizue.jp/kokuei/kanto/Prefectures/1102/1102.html

6)深谷市HP
https://www.city.fukaya.saitama.jp/

7)令和6年度「埼玉県内の河川利用施設を訪ねて」調査報告書 令和7年3月 彩の川研究会
https:/www.sainokawa.jp

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