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メタンハイドレートの開発の評価シミュレーションモデルを開発~先例のないシステムに対する議論を促進~

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2023-12-14 東京大学

発表のポイント

◆メタンハイドレート開発の商業化に向け、多様な開発コンセプトについて技術システムとその社会的価値を総合的に評価できるシミュレーションモデルを開発しました。

◆モデルは技術的選択肢をモジュール化することで様々な条件下で評価することができます。専門家の知見をモデル上で組み合わせることで、洋上発電プラントの相乗効果の大きさが明らかになるなど、新たに有力なコンセプトを生成できることがわかりました。

◆未成熟な技術に由来する将来予測の不確実性が開発コンセプトの選定に与える影響を分析することで、先例のないシステムに対しても有望な開発コンセプトを絞り込む有効な手法となることが期待されます。

概要

東京大学大学院新領域創成科学研究科の鈴木健也大学院生、和田良太准教授、今野義浩准教授、稗方和夫教授、日本メタンハイドレート調査株式会社の南條貴志氏、長久保定雄氏らの研究グループは、メタンハイドレート(注1)開発の商業的価値を評価し、俯瞰的に技術システムを検討できる評価モデルを開発しました。

メタンハイドレート開発では長期開発に伴う不確実性や多様なステークホルダーのニーズを踏まえながら、商業化に向けた開発コンセプトを絞り込まなければなりません。

本研究グループは、これらプロジェクトの複雑さを整理し、意思決定者の決定を促進するため、評価モデルを構築しました。評価モデルは技術的選択肢をモジュール化することで、ステークホルダーの条件に基づいた様々な開発コンセプトを評価します。また結果を視覚化することで、ステークホルダー間で統一的な議論が可能となります。

今回、ケーススタディとして35のメタンハイドレート開発コンセプトを評価、比較しました。その結果、様々な不確実性を踏まえながら有望なコンセプトを抽出できることがわかりました。また、技術システムの創発により、洋上発電プラントや洋上水素プラントの相乗効果の大きさを明らかにしました。このことは専門家の知見を評価モデル上で統合する、協創の有用性を示しています。

今後は評価モデルをメタンハイドレート開発の意思決定支援ツールとして活用していくことで、ステークホルダー間で円滑な議論を実現することが期待されます。

発表内容

<研究の背景>

MH21-Sは「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」に基づき、砂層型メタンハイドレートの将来の商業生産を可能とするための技術開発を進めています(※1)。近年では脱炭素化による二酸化炭素回収・貯留技術(CCS)(注2)と組み合わせた開発コンセプトを検討しています。(図1)。

一方で検討には様々な課題が挙げられます。まず、大規模な開発であるため、たくさんの技術的選択肢を評価・比較していく必要があります。評価には専門知識が求められるだけでなく、それらの技術が複雑に組み合わさるため、コンセプト全体への影響を適切に評価することは容易ではありません。また、二酸化炭素への社会受容性など、将来シナリオが変われば商業化のあるべき姿も大きく変わることになります。意思決定者はこれらの課題を踏まえながら、開発コンセプトを考えていかなくてはならず、議論が進みにくい要因となっています。

※1 MH21-S研究開発コンソーシアム
MH21-S研究開発コンソーシアムについて

2343fig1.png

図1.メタンハイドレート開発の脱炭素開発コンセプト検討の一例
メタンハイドレートから産出された天然ガスは陸上で電気などに変換される。排出された二酸化炭素は回収された後、海底下などに貯留される。

<研究の内容>

研究グループではメタンハイドレート開発コンセプトの意思決定支援ツールとして評価モデルを開発しました(図2)。

2343fig2.png

図2.評価モデルの概念図
経済性などステークホルダーのニーズに基づいたメタンハイドレート開発の社会的価値を評価するため、メタンハイドレート生産プロセスを分解し、それぞれ数値モデル化した。


評価モデルとは開発フィールドやメタンハイドレート開発コンセプトを入力することで、そのコンセプトの評価が行える数値モデルです。評価モデルはメタンハイドレート開発における技術的選択肢をモジュール化しており、それらを組み合わせることで様々なコンセプトを評価します。将来シナリオを踏まえながら複数のコンセプトを一度に評価できるため、意思決定者は想定する条件に基づいて俯瞰的なコンセプト検討が行えます。

評価モデルはシステムズエンジニアリング(注3)のアプローチに基づいて開発されました。このアプローチではコンセプトに必要な機能を分析することでメタンハイドレート開発をモデル化しています。またステークホルダーのニーズをネットワーク分析することで、出力の評価軸の設定を行っています。さらに評価モデルには生産量の変動や故障率など、複数の不確実性を実装しています。特に未成熟な技術開発コストなど、専門家ですら決定論的に決めることができない変数は幅として評価モデルに入力されるため、ステークホルダーは自らのバイアスをそのままコンセプト評価に反映させた議論を行うことができます。

本研究では、技術選択項目を生産方法、輸送方法、エネルギーキャリア、CO2貯留先に分類し、そこでの技術的選択肢を組み合わせることで35のコンセプトを生成しました。

ケーススタディとしてそれぞれのコンセプトに20年間の稼働シミュレーションを行い、エネルギーの生産コストおよびエネルギー収支比(EROI:Energy Return on Investment、注4)を出力し、比較を行いました。今回のシミュレーション結果では、それぞれ既往研究にて提案されていた技術を組み合わせた洋上発電プラントや洋上水素プラントが最適解の一つとして示されています(図3)。

2343fig3.png

図3.コンセプトごとのシミュレーション結果の比較
縦軸はエネルギー収支比(EROI)、横軸は生産コストを表す。35のコンセプトが丸点としてプロットされており、不確実性により結果に幅がある。

このことは技術システムの創発による相乗効果の大きさを示しており、体系的にコンセプトを評価し、俯瞰的に比較検討できるモデルベース意思決定支援の強みを明らかにしています。

<今後の展望>

本研究は意思決定支援ツールとしての開発を見据えています。今後は専門家のヒアリングを通じて評価能力の強化を行いながら、本プロジェクトで実際に活用していくため、ステークホルダー間での検証作業を予定しています。本研究で開発された評価モデルのような、モデルベース意思決定支援は商業化に向けたメタンハイドレート開発など、先例のない未知のシステムに関する議論を促進することが期待されます。

発表者・研究者等情報

東京大学大学院新領域創成科学研究科
鈴木 健也 大学院生(博士課程)
和田 良太 准教授
今野 義浩 准教授
稗方 和夫 教授

論文情報

雑誌名:Applied Energy
題 名:Impact of Epistemic Uncertainty on Tradeoff in Model-based decision support for Methane Hydrate Development System Design
著者名:Kenya Suzuki*, Ryota Wada, Yoshihiro Konno, Kazuo Hiekata, Takashi Nanjo, Sadao Nagakubo
DOI: 10.1016/j.apenergy.2023.122408
URL: https://doi.org/10.1016/j.apenergy.2023.122408

研究助成

本研究成果は経済産業省の委託により実施しているMH21-S 研究開発コンソーシアム(略称MH21-S)の研究の一部として実施しました。

用語解説

(注1)メタンハイドレート:
水が形成する、かご状の構造の中にメタンが包接された化合物。永久凍土下や海底下など、高圧・低温条件で安定化し、日本近海でも存在が確認されている。

(注2)二酸化炭素回収・貯留技術(CCS:Carbon dioxide Capture and Storage):
製油所・火力発電所・化学プラントなどから排出された二酸化炭素を他の気体から分離回収し、地中深くに安定的に貯留・圧入する技術。二酸化炭素の削減技術として期待されている。

(注3)システムズエンジニアリング:
複数分野の専門知識が求められるシステムを構築し、プロジェクトを成功に導くためのアプローチと手段。宇宙開発など複雑な技術が求められる分野で活用される。

(注4)エネルギー収支比(EROI:Energy Return on Investment):
エネルギーを生産するために、システムに投入されるエネルギー量と最終的に利用できるエネルギー量の比。この値が大きいほど、エネルギーの生産効率が高いことを意味する。

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