ad

「第3世代 走行中ワイヤレス給電インホイールモータ」の開発に成功

ad

世界初 受電から駆動までのすべてをタイヤのなかに

2019-10-10 東京大学

登壇者

藤本 博志(東京大学大学院新領域創成科学研究科 先端エネルギー工学専攻/大学院工学系研究科 電気系工学専攻 准教授)
清水  修(東京大学大学院新領域創成科学研究科 先端エネルギー工学専攻 特任助教)
桑山  勲(株式会社ブリヂストン 次世代技術開発第一部 主幹研究員)
荒木  充(株式会社ブリヂストン 知的財産本部 本部長)
郡司 大輔(日本精工株式会社 パワートレイン技術開発部 副主務)
中原  健(ローム株式会社 研究開発センター センター長)

発表概要とポイント

東京大学大学院新領域創成科学研究科の藤本博志准教授らの研究グループ(以下、東大グループ)は、株式会社ブリヂストン(以下、ブリヂストン)、日本精工株式会社(以下、NSK)、ローム株式会社(以下、ローム)、東洋電機製造株式会社(以下、東洋電機製造)と共同で(以下、当研究グループ)、道路からインホイールモータ(注1、以下、IWM)に直接、走行中給電(注2)できる「第3世代 走行中ワイヤレス給電インホイールモータ」(図1)を開発し、実車での走行実験に成功しました。これは2017年3月に発表した「第2世代ワイヤレスIWM」を発展させたものであり、実用化に向けて走行中給電性能・モータ性能・車両への搭載性を大幅に改善しました。また、更なる発展に向けてワイヤレス給電を阻害しないタイヤ・ホイールの研究開発に着手しました。本発表のポイントは次の3つです。

(1)すべてをタイヤのなかに
電気自動車の駆動装置であるモータ・インバータと、走行中ワイヤレス給電の受電回路のすべてをホイール内の空間に収納するIWMユニットを開発しました。さらに、走行中給電の受電コイルをもホイール内に配置するために必要な要素技術開発に着手しました。モータの性能面では、2017年発表の「第2世代」ではモータ性能が軽自動車クラス(1輪あたり12 kW)であったのに対し、今回発表の「第3世代」では乗用車クラス(1輪あたり25 kW)を実現しました。

(2)充電からの解放
「第2世代」では走行中ワイヤレス給電の能力が1輪あたり10 kW程度であったのに対し、今回発表の「第3世代」では20 kWへの性能向上を実現しました。この性能をもつ走行中ワイヤレス給電システムを、信号機手前の限られた場所にだけ設置したスマートシティが実現された場合、電気自動車のユーザは充電の心配をすることなく移動できるようになり、電気自動車の利便性が飛躍的に高まります(図2)。

(3)産学オープンイノベーション
当プロジェクトは東京大学を中心に多くの企業との産学連携により実施されております。当研究グループが提案する走行中ワイヤレス給電システムの実用化をオープンイノベーションによって加速させるため、当プロジェクトに関わる基本特許をオープン化することに合意しました。

図1  開発した「第3世代 走行中ワイヤレス給電インホイールモータ」

(a) ユニットを搭載した実験車両            (b) 構成図

「第3世代 走行中ワイヤレス給電インホイールモータ」の開発に成功

図2  走行中給電の未来像(左:スマートシティ 右:高速道路)

発表内容

■ 研究背景

地球温暖化を食い止めるため、温室効果ガスの排出量を減らす「低炭素社会」の実現は地球規模の課題です。日本における二酸化炭素(CO2)排出量のうち自動車が占める割合は17.9%(2017年度、環境省発表値)であり、排出量削減が求められています。また、自動車のCO2排出量の規制値は全世界において年々厳しくなっております。このような背景から自動車の電動化が急速に進んでいます。特に内燃機関を搭載しない電気自動車(EV: Electric Vehicle)は走行中にCO2を排出しないため有力な解決手段であると言えます。

一方でEVは充電に伴う利便性の課題や、大量のバッテリ生産するための資源量の懸念などが指摘されています。EVの持続可能な普及のためには、少ないバッテリ搭載量で効率的に走ることのできるEVの実現が求められています。そのための一つの手段である、走行中のEVにエネルギーを送る「走行中給電」の実現に向けて世界的に多くの研究が行われています。走行中給電には多くのメリットがあります。

バッテリ搭載量が少ないのでEVが軽くなり、少ないエネルギーで走ることができる
同様の理由でEVの価格が安くなる
バッテリの残量や充電時間を心配することなくEVに乗ることができる

また、走行中給電は再生可能エネルギーとの親和性が高いことが特徴です。太陽光発電や風力発電は気象状況で発電量が大きく変動するため、電力系統にその変動を吸収する仕組みが必要です。大容量の蓄電設備を電力系統に設置することが検討されていますが、もし走行中のEVに自在に電力を供給することができればEVがその役割を果たすことができます。EVのバッテリを蓄電設備として使うアイデアは以前から考えられていましたが、走行中給電が無い場合は駐車して充電器につながっているEVしかその役割を果たすことができません。したがって走行中給電は運輸部門のCO2排出量削減だけでなく、再生可能エネルギーの拡大に向けても重要な技術であると言えます。

■ これまでの研究開発のあゆみ

東大グループでは以前よりEVの優れた特性に着目し、車両運動や航続距離改善の制御手法の研究を行なってきました。特にホイール内部に駆動モータを配置するIWMはEVの安全性、環境性、快適性を高めるポテンシャルを有しており、IWMならではの研究成果を多数報告しております。また、ワイヤレス給電の産業応用に向けた研究も多数取り組んでおります。

東大グループにおける「EVへのワイヤレス給電の適用」の研究は、まず「IWMと車体の間をワイヤレス化する」ことから始まりました。従来のIWMは電力を供給するため車体とIWMをワイヤでつなぐ必要があり、このワイヤが断線するリスクがありました。そこで、「ワイヤが断線する恐れがあるならば、なくしてしまおう」のコンセプトのもと、東大グループはNSK、東洋電機製造と共同で「第1世代ワイヤレスIWM」を開発し、2015年5月に世界で初めて実車走行に成功しました(http://www.k.u-tokyo.ac.jp/info/entry/22_entry400/)。

次のステップとして、ワイヤレスIWMにおいて走行中給電を実現するための研究開発を行ないました。その成果として2017年3月に「第2世代ワイヤレスIWM」を開発し、道路に設置したコイルからワイヤレスIWMへの走行中給電に成功しました(http://www.k.u-tokyo.ac.jp/info/entry/22_entry553/)。

走行中給電の研究開発をさらに推進するべく、東大グループは平成30年度よりブリヂストン、NSKを共同研究機関として、令和元年度より東洋電機製造を共同研究機関として国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業(注3)の研究プロジェクト「電気自動車への走行中直接給電が拓く未来社会」(以下、当プロジェクト)を実施しております。今回、その成果として「第3世代 走行中ワイヤレス給電インホイールモータ」を開発し、実車での走行中給電実験に成功しました。

■ 「第3世代ワイヤレスIWM」の3つのキーワード

(1)すべてをタイヤのなかに
電気自動車の駆動装置であるモータ・インバータと、走行中ワイヤレス給電の受電回路のすべてをホイール内の空間に収納するIWMユニットを開発しました。

「第2世代」は軽自動車クラスのEVをターゲットとしてモータ性能を12 kW(1輪あたり)としましたが、「第3世代」では乗用車クラスのEVをターゲットにモータ性能 25 kW(1輪あたり)を実現しました。ユニットのサイズの面では、「第2世代」はIWMユニットがホイールから飛び出ており車両への搭載性に課題がありました。そこで「第3世代」ではモータ設計の最適化と合わせて超小型SiCパワーモジュールを搭載しIWMに適した構造とすることで軸方向にコンパクトなユニットを実現し、車両への搭載性を大幅に改善しました(図3)。

なお、IWMと車体の間のワイヤレス給電は「第1世代」「第2世代」において技術的に確立することができたため、「第3世代」ではこれを省略し有線による接続としています。

ところで、当研究グループが推進する「走行中ワイヤレス給電IWM」の特徴として、受電コイルを「ばね下」(注4)に配置していることが挙げられます。これは他の研究事例との大きな違いです。受電コイルが車体底面ように「ばね上」にある場合、路面の凹凸やクルマの乗車人数に応じて路面と受電コイルとの間の距離は大きく変化します。ワイヤレス給電ではコイル間の距離により性能が大きく変化するため、コイル間距離の変化が大きいことはワイヤレス給電の設計最適化が難しいことを意味します。一方、当研究グループの提案する「ばね下」配置の場合、路面と受電コイルとの距離変化がきわめて小さいため、ワイヤレス給電の設計最適化が容易となり給電能力と効率が向上します(図4)。

図3  車両搭載性の比較

図4  受電コイルの配置による送電・受電コイル間距離変化のちがい

(a)「ばね上」(車体底面)に配置した場合          (b)「ばね下」に配置した場合(本研究)

図5  ばね下受電コイル配置のバリエーション

さらに、受電コイルを「ばね下」に配置することは別のメリットがあります。磁界により電力を伝えるワイヤレス給電では、送電コイルと受電コイルの間に金属異物が存在すると異物が加熱されてしまいます(IH調理器具と同じ原理)。そのため、安全性を確保するため異物を検知する方法が多く研究されておりますが、「異物がコイル間に入りにくい構造にする」ことが望ましいのは言うまでもありません。もし、受電コイルをホイールの内側に配置することができれば、送電コイルと受電コイルの間に金属異物が入り込む確率は大幅に低くなります(図5)。これが当研究グループの提案する新しいコンセプトです。これを実現するためには、タイヤとホイールがワイヤレス給電の妨げにならないようにする必要があります。そこで当研究グループではタイヤとホイールの素材・構造の研究開発にも取り組んでおります。

(2)充電からの解放
当研究グループでは、2018年に神奈川県内の市街地一般道路において車両の走行データを取得し、信号機手前にクルマが滞在する時間的割合を定量化しました。そのデータを使ってシミュレーションをした結果、仮にすべての信号機の停止線前から30 mの区間で走行中給電できるようにした場合、走行中に断続的に給電されるので車載バッテリ充電量の変化は走行前後でほぼゼロにできることが分かりました。この結果から以下のことが言えます。

走行中給電は道路すべてに設置する必要は無く、信号機手前の限られた区間のみでよい
車載バッテリの容量は大幅に減らすことができる(ゼロにはならない)
自宅や外出先で駐車中の充電も不要になる可能性がある

「第2世代」では1輪あたり10 kW程度の走行中給電能力を実現しましたが、上記のシミュレーション結果を実現するには性能が不足していました。そこで「第3世代」ではコイル設計手法を確立して最適な送電・受電コイルとすることで給電能力を大幅に向上しました。その結果、ベンチ上での給電実験(静止状態)において給電電力20 kW、効率92.5 %を達成しました。給電効率は今後の制御手法の改良により更なる向上が見込まれています。

「第3世代」の走行中給電システムが導入されたスマートシティが実現された場合、走行中の充電残量も自宅や外出先での充電時間も心配する必要がなくなります。EVが充電作業から解放されることで利便性が飛躍的に高まります。

(3)産学オープンイノベーション
当プロジェクトは東京大学、ブリヂストン、NSK、ローム、東洋電機製造の5者が主体となり、株式会社村田製作所、TDK株式会社、東レ・カーボンマジック株式会社、株式会社ティラド、株式会社カーメイトの協力により実施されております。「第3世代 走行中ワイヤレス給電インホイールモータ」は、制御手法・機械部品・タイヤとホイールの構造や材料・磁性材料・パワーエレクトロニクス・半導体パワーデバイス・電子部品など多岐にわたる技術の集結として実現されており、産学連携による共同研究の枠組みを最大限活用した成果であると言えます。

走行中給電の社会実装に向けては、クルマだけでなくインフラを含めた大規模なシステムの構築が必要であり、産業分野を超えたコラボレーションが欠かせません。そこで当研究グループでは当プロジェクトに関わる基本特許をオープン化することに合意し、プロジェクトの運営委員会で承認された企業・団体が権利化された技術を無償で使用可能となる知的財産の仕組みを整備します。これにより現在の共同研究の枠組みに留まらず、オープンイノベーションによって研究開発を促進します。

■今後の展望

当プロジェクトでは今回開発した「第3世代 走行中ワイヤレス給電インホイールモータ」の実験と評価を進めつつ、新しいアイデアを盛り込んだ次世代機の提案と試作を意欲的に進めてゆく所存です。当プロジェクトが提案する「走行中ワイヤレス給電インホイールモータ」の実用化に向けて、現在の参画メンバーに留まらず他の組織・企業が持つさまざまな領域の知見を広く取り入れながら2025年に実証実験フェーズへの移行を目指します。

■ 用語解説

(注1)インホイールモータ(IWM:In-Wheel Motor)
ホイール内部に駆動装置(モータ)を配置する技術。研究・開発事例が多数報告されています。

(注2)走行中給電
道路に設置した給電装置から走行中の車に電力を送る技術で、世界的に研究開発が進められています。技術的な方法としては、①接触方式(電車のような架空線や道路表面に設置したレールに電力を供給し、車両の集電装置を接触させて電力を伝える方法)と、②ワイヤレス方式 があります。

(注3)科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業
https://www.jst.go.jp/mirai/jp/index.html

(注4)ばね下
自動車の車輪とそれを支持する構造(ハブベアリング、ナックル)はサスペンション等の緩衝装置によって車体に取り付けられています。これら、緩衝装置よりも車輪側の部分をまとめて一般に「ばね下」と呼びます。

公開予定

・2019年10月15日~10月18日 CEATEC 2019
ロームブース

・2019年10月24日~11月4日 東京モーターショー2019
日本精工ブース、ブリヂストンブース

・2019年11月8日 公益社団法人 自動車技術会 電気動力技術部門委員会 公開委員会

ad
0907道路
ad
ad


Follow
ad
ad
タイトルとURLをコピーしました